理学部物理科学科 鈴木 信三 教授

多彩な可能性を秘めた炭素ナノ構造体を活用するためにその生成の仕組みを探求し、効率的な合成法を開発。

取り組んでおられる研究のテーマやその概要についてお聞かせいただけますか。

理学部物理科学科 鈴木 信三 教授

 単層カーボンナノチューブやフラーレンなどの炭素ナノ構造体の生成制御とその応用を研究しています。単層カーボンナノチューブとは、グラファイトシートを丸めて筒状の構造にしたものです。このシートの巻き方(ねじれ方)やその直径のちがいによって、半導体的なものや電気を通しやすい金属的なものなど、異なる性質を持つナノチューブが生じます。また、サッカーボール型構造のC60分子に代表される球殻状のフラーレンもそのサイズ(炭素原子の数)や形は多様です。
 これらの炭素ナノ構造体の生成過程は、今日でも不明な点が数多く、各分野で応用するためには生成の仕組みを突き止めて、高効率で目的に応じた生成法を開発する必要があるわけです。具体的な研究成果としては、たとえば「アーク放電法」という手法に工夫を加えて単層カーボンナノチューブの生成純度を高めることに成功しました。この作成法は以前から用いられてきたものですが、高純度な生成が可能な「レーザー蒸発法」と比べて単位時間当たりの生成量ははるかに多いかわりに、純度が低く10分の1以下でした。これを約4分の1にまで上げることができました。原理的には、さらに純化できると考えています。
 「レーザー蒸発法」を用いて分かってきた生成条件依存性から、「アーク放電法」に用いる雰囲気ガスを変えることによって純度が変化するのではないか、というのが私たちの着目点でした。そこで、「アーク放電法」で主に使われていた雰囲気ガスとして、ヘリウムに代えて窒素を用いることで、これまでにない高純度を得ることができました。「アーク放電法」の場合、ヘリウムでは高温の放電部から室温近くに下がっている周辺部まで、すぐに物質が拡散してしまうこと、またヘリウムとの衝突では、ナノチューブの“もと”となるもの(前駆体)の冷却速度が速すぎるのではないかと考えて、窒素を試してみたわけです。容器内が50-100トール(1トールは760分の1気圧)の低圧力の場合に、高純度のナノチューブが得られることがわかりました。

この研究成果は特許公開中( 特開2006-016282)ですが、この他にも出願されたものはありますか。

 多孔質ガラスを用いたアルコールCCVD法では孔径の違いによって生成効率も異なることが判明しました。これも特許公開中(特開2006-056758)です。従来、アルコールCCVD法ではゼオライトが用いられてきました。私たちはより良い素材を探求するという観点から、これに代えて最近開発された多孔質ガラスを利用したアルコールCCVD法による単層カーボンナノチューブの生成を試みました。
 この素材の優れた点は孔径から粒径、全体の形状を変化させ、条件依存性を細やかに検証できることです。また、生成状態のまま素材に使えるのも特徴です。実験の結果、これまでのアルコールCCVD法により得られたものより直径分布の狭くなった単層カーボンナノチューブを効率よく生成でき、その効率は孔径と生成時の雰囲気温度に依存していることなどがわかりました。
 また、アルカリ処理で大半の多孔質ガラスを除去できます。単層カーボンナノチューブの生成過程の解明につながる研究成果としては、この他に高温レーザー蒸発法を用いた場合には、金属触媒と雰囲気ガスの組み合わせによって、非常に細いナノチューブを、狭い分布で作製できることがわかりました。図(1)は、Hipco法というCVD法の一種で作製されたナノチューブを、溶媒中で孤立分散化させて、そのうち半導体的な特性をもつナノチューブが発光を示すことを利用して、ナノチューブの分布を視覚化した図です。これに比べると、私たちが「レーザー蒸発法」を用いて作製したナノチューブでは、図(2)や(3)を見ていただければ分かるように、その分布が非常に狭いものになっていることが分かります。レーザー照射直後に単層カーボンナノチューブの頭の部分が形成されるのではないか等、ナノチューブの生成過程を考える基礎研究の積み重ねが、このような作製条件を見出すために役立っています。 炭素ナノ構造体の応用分野は光学材料から電子線放出源、ナノプローブ、電子素材まで多彩ですが、大量合成には開発も含めた装置作製技術も今後は重要になるだろうと考えています。

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