理学部物理科学科 山上 浩志 教授

世界で初めてプルトニウム化合物のフェルミ面の観測に成功。放射光先端物質電子構造研究グループのリーダーとして新たな研究に挑む。

現在、取り組んでおられる研究開発の内容について教えていただけますか。

理学部物理科学科 山上 浩志 教授

 昨年の9月に世界で初めてプルトニウム化合物のフェルミ面の観測に成功しました。日本原子力研究開発機構、京都産業大学、東北大学、大阪大学が共同で研究を行い、この成果を得ることができました。私が担当したのは「相対論的バンド理論」(結晶中の電子のエネルギーと運動量の関係の計算に相対論的効果を取り入れた理論)によるフェルミ面の実験結果の解釈です。プルトニウムを構成している5f電子が結晶中を動き回っていることを直接示すことができたのです。ちなみに、フェルミ面とは簡単に言えば伝導電子の運動量の空間分布のことです。金属はそれぞれ固有のフェルミ面の形状を持っており、これが個々の性質を特徴づけるために、「金属の顔」と呼ぶことができます。また、5f電子はウラン化合物の超伝導や磁性などの起源となる電子です。フェルミ面の観測には極めて良質な試料と極低温・強磁場の実験環境で生じる磁化率の量子振動現象を用いるのですが、プルトニウムが強い放射能を出すために、結晶が短時間で損傷し、観測が困難になります。これを可能にしたのが極めて純良な単結晶の育成、密封した試料容器の実験装置への高速輸送、極低温(絶対温度0.1K以下)下での実験です。今回の観測の成功によってプルトニウム化合物の超伝導メカニズムの解明などが大きく進むと期待されています。

続けて成功したウラン化合物の電子状態の直接観測とはどのようなものですか。

 世界でもトップレベルの高性能を誇る大型放射光施設「SPring-8」の放射光を用いて、ウラン化合物の5f電子状態の直接観測に成功しました。これも、世界初の快挙です。大きな課題であった電子状態における統一的な理解がいっきに進展し、長年の謎であったウラン化合物の超伝導構造の解明が進むと注目されています。実験では「SPring-8」の専用ビームラインでウラン鉄ガリウム5(UFeGa5)に対して角度分解光電子分光実験を行い、「バンド構造」と「フェルミ面」を観測しました。「バンド構造」というのは、5f電子のエネルギーと運動量の関係を表す曲線で、この構造によって固体中の電子の性質を知ることができます。また、この実験結果は5f電子が結晶中を動き回る遍歴電子と仮定した「相対論的バンド理論」による計算結果と一致するものでした。

現在、グループリーダーも務めておられますが、研究の目的をお教えください。

 私はウラン、プルトニウムなどのアクチノイド化合物の電子構造と磁性に関する理論的研究を行っていますが、その基本にあるのは、これからのエネルギー問題です。世界的にもそうですが、特に日本の場合は現時点で原子力に頼らざるをえません。たとえば、水素がクリーンエネルギーとして注目されています。しかし、たくさんの水素を生み出すのにもエネルギーが必要なのです。そのために、化石燃料を燃やせば、二酸化炭素が出ます。原子力は放射能の問題さえクリアすれば、素晴らしいエネルギーで、無限の可能性を秘めています。これを安全に活用するためには、基礎研究としてウラン化合物の性質を徹底的に解明することが重要です。たとえば、プルトニウムが危ないといっても、フェルミ面の観測ができたのは今回が世界初。ウランも同様です。知らないで、恐れるのはまちがいです。
 現在、私は日本原子力研究開発機構の放射光先端物質電子構造研究グループのリーダーを務めています。4年間の研究期間中に、最大限の成果をあげたいと思っています。

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