総合生命科学部 動物生命医科学科 竹内 実 教授

タバコ煙を大気汚染のモデルに、喫煙と癌の肺免疫系への影響を探究。肺癌を防ぐ免疫強化物質を探り、感染の予防にも役立てる。

喫煙による発癌は非常に身近な問題ですが、これまでの研究内容を教えてください。

総合生命科学部 動物生命医科学科 竹内 実 教授

 大気汚染のモデルとして喫煙に着目してから20年近くになります。肺は外界と直接、接している特殊な臓器です。空気中には雑菌やウィルスなどが数多く存在していますが、繰り返し吸い込んでも、普通は病気にはなりません。タバコの場合も、煙の中には6000種前後の化学物質が含まれており、発癌物質をはじめとする有害物質が多数あります。しかし、肺癌になる人もいれば、長年にわたって喫煙を続けていても問題のない人もいる。これは、遺伝的な要素もあるけれども、肺の免疫能力に個人差があるのではないか。つまり、タバコを吸っていても健康を保っている人は、異物を上手く排除し、仮に肺癌になっている細胞が生じても素早く取り除いていると考えられるわけです。そこで、喫煙を大気汚染の格好のモデルとして、喫煙と癌の生体防御システムへの影響と、生体防御システムを利用した抗癌作用の研究をはじめたのです。特に肺胞マクロファージと肺上皮細胞の関連への影響を実験動物を用いて調べています。肺胞マクロファージは最初に免疫反応を起こす細胞であり、これによって肺の免疫系の全体を把握できるからです。タバコ煙が肺に入ってくると、肺胞マクロファージが異物を食べて除去していきます。この段取りが順調に行かないと発癌物質が細胞のDNAに取り込まれ結合してしまいます。これがDNAに異常が生じた状態です。このDNA付加体が増加すると癌細胞になります。また、喫煙によって肺胞マクロファージから生じる活性酸素が増加し、肺の組織を害する前に、DNAを切断してしまいます。この修復時にミスマッチが起こりやすく、異常なDNAから癌細胞が発生します。つまり、活性酸素を非常に多く出すことによってDNAを損傷し、免疫機能も低下するのです。

現在の研究の応用分野や今後取り組んでいかれるテーマについてお聞かせください。

 先ほど研究テーマでも触れましたが、これらの研究成果を活かし、免疫機能の抑制を回復させるための免疫増強物質の探究にも取り組んでいます。免疫系薬剤、DNA損傷の防御剤、慢性呼吸疾患の治療薬の開発にも貢献できればと考えています。たとえば、肺胞マクロファージの免疫機能を回復させる物質の探索。これを発見し、活用できれば肺癌予防に大きく役立ちます。また、タバコの中に含まれている数多くの物質の中で、免疫機能の低下にもっとも影響を及ぼしている物質を突き止める。次に、これを巧みに除外する方法を生み出す。これは私の仮説ですが、このような有害物質を排除できれば、喫煙による免疫機能の傷害をかなりの確率で防ぐことができるのではと予測しています。そうなれば、禁煙できない人々に喫煙による害の少ないタバコを提供することも可能になります。現在、免疫の活性化を促す物質については、あるキノコの抽出物に注目し、研究を続けています。
 ちなみに、肺の免疫機能の強化は喫煙による肺癌の予防だけでなく、感染を防ぐという点でも非常に重要です。外気を直接吸い込むために、肺はつねに感染の危険にさらされています。大気汚染が深刻化していますが、人間の生命を防御する最前線が肺だと言っても過言ではありません。現在、すでにある企業との共同研究を実施していますが、今後も製薬、健康食品、環境分野における新たな産学連携を試みたいと考えています。

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