コンピュータ理工学部インテリジェントシステム学科 平井 重行 准教授

日常生活の自然な行動や行為の中でコンピュータとの情報入出力が行われ、生活を楽しむと共に安心や他の人とのコミュニケーションを生む

浴室空間が研究対象とお聞きしましたが、着目された理由を教えてください。

コンピュータ理工学部インテリジェントシステム学科 平井 重行 准教授

 人間の生活の基点である住宅に焦点を絞ってユビキタス・コンピューティングの可能性を探っています。最近、取り組んでいるのはバスルームです。これまでにも住まいを対象にした研究は数多く行われてきましたが、お風呂をテーマにしたものはあまりありません。一般に住居の中にはいたる所に電気のコンセントなどの電源があり、PCや家電など情報機器を設置してユビキタス環境を構築することは容易いわけですが、バスルームは少し違います。裸でいる場所で、水場であることから電気的な物はそう易々と持ち込めません。リビングをはじめとする他の部屋とは明らかに異なる空間です。この浴室で何ができるか、これが研究の起点でした。社会問題でもある入浴事故を防止することを考えないといけませんし、健康ブームですから、健康管理や増進に役立つ仕組みも必要でしょう。豊かな生活ということも考慮すれば、お風呂をより楽しむ場所にすることも考えられ、様々な広がりが見えてくるわけです。

ユビキタス・コンピューティングによってどのようなことが実現するのですか。

 時代のニーズでもある癒しやアメニティと、安全・安心や健康増進などを上手く結びつけたいと考えています。その一例として、入浴者がより主体的に楽しめる浴室空間を提供すると共に、その入浴状態を浴室外で音でモニタリングできるというものを開発しました。現在でもお風呂のお湯張りや温度の自動調節ができますが、これはお風呂のシステムにセンサが既に備わっているからなのです。このセンサの機能を別の用途で利用すれば、人がお風呂に入った事やお湯をかき回す事が察知できるほか、呼吸まで計れるんです。また最近ではお風呂に浸かるだけで心拍数が計れる浴槽も発売されています。 これらを利用して音楽やサウンドを生成すれば、入浴者自らの行為や情報によるインタラクティブな楽しみ方ができるだろうと考えました。そして実際にアーティストとのコラボレーションでサウンドデザインを行い、入浴者本人の呼吸や心拍、動きに合わせたサウンドや音楽で楽しめるものに仕上げました。まさに自分だけのオリジナルサウンドに抱かれて心地良く入浴できるわけです。また、これらのセンサ情報やサウンドの情報はネットワークを通じて遠隔地や同じ家のキッチン等どこへでも伝達可能です。当人はリラクゼーションを満喫し、安心・安全の機能も実現できるわけです。

非常に興味深い開発内容ですが、すでに次に手がけるテーマもお考えですか。

 最初にユビキタス・コンピューティングという概念を提唱したのはXerox PARCの研究者でした。コンピュータの存在を意識しなくても自然に使える環境のことを言っているわけですが、この概念を浴室に当てはめたのが今回の試みです。 日常生活や身近な場所で、こういうものがあれば役立つ、新たな効用を生み出せる。常にこのような視点で生活を見つめ、閃いたアイデアをストックしています。もちろん、大切なのはこれらをいかに実現するかです。そのためには新たなメディア表現やセンシングの技術開発も必要です。
 バスルームの中でも他にできることはありますし、住宅のもう一つの個室・トイレのほか、洗面所や玄関、階段なども手がけようと考えています。

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