コンピュータ理工学部コンピュータサイエンス学科 坪井 泰住 教授

時代に向けて最有望の有機ELディスプレイ。この「ペーパー・ディスプレイ」の実用化で、驚異的な次代型テレビ、パソコン、照明が誕生。

液晶・プラズマテレビを凌ぐ「ペーパー・ディスプレイ」型が誕生するのですか。

コンピュータ理工学部コンピュータサイエンス学科 坪井 泰住 教授

 アテネ・オリンピックなどの影響もあって、いま最新の液晶テレビやプラズマテレビが脚光を浴びています。その魅力はなんといっても、超薄型であること。確かに、リビングにどっかりと腰を据えていた、これまでのCRT型テレビの奥行きと比べれば、驚くほど薄い。しかし、それでも厚さは、まだ10cm以上はあります。その点、私たちが研究開発に取り組んでいる次世代ディスプレイなら厚さは1mm以下にまで薄くすることが可能です。文字通りの「ペーパー・ディスプレイ」が実現します。
 具体的には、電気を通ししかも発光するポリマーや染料などの有機物に着目した有機ELディスプレイです。超高品質で、低電圧(5V以下)で発光し、大幅なコストダウンも見込めます。また、液晶やプラズマは折り曲げることができませんが、有機物の場合はスクリーンの幕のように巻き取ることもでき、薄いフィルムなどに簡単に貼りつけることもできます。この極めてフレキシブルであるということも画期的な特徴です。

現在、具体的に取り組んでおられる研究内容をお教えいただけますか。

 安定性・持続性や量産対応などの課題をクリアしなければなりません。有機物は空気や湿度などに侵されやすいという難点もあります。劣化の原因と対策を有機分子構造から探っています。与えられたエネルギーが発光に結びつかずに熱に変化したり、化学反応を起こして他へ逃げてしまうといった問題を解消する必要があります。つまり、入力エネルギーを最大限に活かせる材料を見つけ出すことがポイントになります。光になる確率は元々低いのです。効率の良い蛍光灯でも、せいぜい50ルーメン/ワット程度しか光にはなっていません。プラズマテレビの場合でも、裏側を触ってみると熱いはずです。熱になって逃げているのです。このようなロスを抑えるという点でも、有機素材が有望です。
 次世代ディスプレイとしてもっとも有望視されている有機ELディスプレイを、期待通りの製品にするために、基本的な動作・発光原理を突き詰め、その最新の研究成果を社会や企業に速やかに提供していくことが産学連携における私たちの仕事だと考えています。日本の企業は世界の中でもトップレベルにあり、有機ELテレビ研究の環境も申し分ないので、大学の基礎的な研究開発と企業の製品化への果敢な取り組みが巧みにマッチングすれば、近い将来に素晴らしい次代型製品が誕生するはずです。

これが、さまざまな製品に応用されると大きな変化が起こりそうですね。

 まず、情報家電の売場か激変するでしょう。「ペーパー・ディスプレイ」型のテレビを想像してみてください。しかも、これがわずか5V程度の電池で稼働するとなれば、話題独占はまちがいなし。誰でも購入したいと思うでしょう。どのようなスタイルになるのかは、まだこれからですが、リビングのロールカーテンのような形態が定着するかもしれません。当然、パソコンのディスプレイも刷新されます。驚異的なモバイルディスプレイになると確信します。さらに、インテリア照明などにも応用できます。壁面全体が発光するといった次代型照明が製品化されます。これは、インドアやショップデザインにも大きな新風を起こすのではないでしょうか。何年か後には、必ずそんな時代がやってきます。

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