ロシア・国立プーシキン記念ロシア大学(短期語学実習)

外国語学部 ヨーロッパ言語学科 ロシア語専攻 池原 暁羽さん

留学種別:短期語学実習
留学先:ロシア・国立プーシキン記念ロシア大学
留学時の学年:2年次
留学期間:2018年8月
出身高校:京都市立日吉ケ丘高校

はじめに

はじめまして、ロシア語専攻2年の池原といいます。私が今回の留学に参加したのにはいくつかの理由があります。まず、とにかく憧れの国、ロシアを見てみたいということ。そして、今まで自分が学んできたことがどの程度通用するのか知り、これからのモチベーションにつなげようと思ったからです。もちろん心のどこかでは、挫折して大好きだったロシア語を嫌いになるかもしれないという不安はありました。しかし、今ではこの経験のすべてが自分の成長につながったと実感しています。3週間の留学生活がどのようなものだったかを知って頂き、みなさんの疑問や不安を少しでも晴らすことで、留学への一歩を踏み出すお手伝いができれば幸いです。

学校・寮生活について

国立プーシキン記念ロシア語大学での学校生活は、クラス分けテストから始まりました。テストと言ってもA4用紙一枚の簡単な文法問題と、集団での会話テストのみです。試験官の先生はとても親しみやすい方で、緊張感なく、実力を測ってもらうことができます。今回京都産業大学(以下、京産大)から留学した学生は私を含め7人だったのですが、3クラスに分かれました。2、3、2、という人数です。例年は全員が同じクラスだと聞いていたので少し驚きましたが、出来るだけ日本人の少ない環境で勉強したいと思っていた私にとっては幸いでした。

授業では、アジア系の人はあまり多くなく、スペイン語圏の方が多かったように感じます。ここで私は第一の挫折を味わうことになります。自分の、圧倒的な語学力の不足です。一見、授業を受ける必要がないのではないかと思うほど周りの生徒たちはロシア語をすらすらと話しました。私たちにとっては初歩の初歩ともいえるような単語を知らないのに、話すことはできるようなのです。英語を使えるという点で、彼らは確かに有利でした。ロシア語はおろか、実用的な英語を使えない日本人は完全に輪の外です。ロシア語の疑問を解消しようとすれば、英語がついて回ります。これは想定外の困難でした。私はある程度英語は話せるほうだと自負していましたが、そんなことは全くないと思い知りました。彼らはほとんどネイティヴと変わらないからです。その日の放課後、授業中に使いそうな文法用語をロシア語と英語でそれぞれ調べ上げて表にまとめ、また未知の単語は授業中に出来るだけ聞こえたままメモし、後で調べることを繰り返しました。正直、これは本当に苦痛でした。他のクラスは楽しい雰囲気で会話中心の授業だったそうなので、すべてのクラスがこのようであるとは言い切れませんが。

1日4時間半の授業が終われば、私達は生活の場である寮に帰ります。寮ははっきり言ってあまり綺麗ではありません。特に虫がよく出ますので気になる方は設置型の殺虫剤をもっていくことをおすすめします。また、留学期間中は最終日の1日のみでしたが、モスクワでは配管点検のために断水が行われます。バスタブに水を貯めると安心です。普段あまり気にすることはないかもしれませんが、トイレを一回洗浄するのには10リットル弱の水が必要になります。お店で水を買ってはとても賄いきれません。

買い物は寮の近くにある24時間営業のスーパーが便利でよく利用しました。ロシアは日本よりも万引きに対する防犯意識が高いらしく、大きな鞄は入口でロッカーに入れることが望ましいです。私の友達は荷物が多く鞄が大きかったため、警備員に中身を確認されたことがありました。もっと大きなショッピングモールなどにいくと、ひとりひとり警備員の監視のもとで鞄をビニール袋に入れさせられ、アイロンのような機械で閉じられました。買い物の間出すことを許可されたものは財布だけという状況です。言われるままに袋の中に鞄を入れた私達は、会計の際に財布を入れてしまったことに気付きあわてました。コンベアーの流れに乗せて会計がどんどん進んでいくロシアのスーパーで大変な迷惑をかけてしまったと思います。

私たちの泊まっていた寮はキッチンの設備もよくありませんでしたので不可能でしたが、可能であれば自炊をお勧めします。ロシアは野菜や肉、乳製品などの原材料が安いです。一方で、外食や出来合いのものを買うと結構お金がかかります。3週間の間ですから、少しくらい不健康な生活をしても大丈夫だろうと考えた私は、ほとんど毎日インスタント食品ばかり食べていました。値段は日本と同じか、少し安いくらいだと思います。給湯器が1000円程度で売っていたので全員でお金を出し合って一台買い、食事のたびに貸し借りしました。

観光について

モスクワにはたくさんの観光地があります。それらの場所を訪れるのに便利だったのがメトロ(地下鉄)です。中心部に向かって伸びたいくつかの路線と環状線が蜘蛛の巣のように見えると言われ、それらを乗り継いでいろんな場所に行くことが出来ます。モスクワの地下鉄はどこまで乗っても料金が一律なので気軽に観光が出来ます。現金で切符を購入する人はほとんどおらず、トロイカ(тройка)というICカードでの乗車が一般的でした。改札近くの機械でチャージが可能です。観光地近くの駅は多くの絵や像が飾られ、美術館のようでした。電車に乗るときも観光を楽しむことが出来ます。一分おきくらいに電車が来て大変便利なのですが、ただひとつ、騒音がひどかったです。日本の地下鉄の静かさに慣れていると、初めのうちは苦痛でした。

はじめに私たちはモスクワの代表的な観光地、赤の広場を訪れました。広場自体は想像していたよりも広く、ワシーリー寺院の建物も大きかったです。この日はロシアに来て3日目くらいだったと思うのですが、さっそくロシアの国民性を垣間見る機会に恵まれました。今回の研修の中でもっとも印象に残っている、ロシアの大好きなところです。広場の傍には特設ステージのようなものがあり、いろいろな人たちがライブを行っていました。観客はみな楽しそうで、老若男女を問わず一緒に歌ったり曲に合わせて踊ったりしていました。彼らにとっては何気ない日常の一風景なのかもしれませんが、私はなんて陽気で素敵な人たちなのだろうと感動した思い出があります。広大な国土で厳しい自然と調和しながら生きてきた彼らにとって、音楽と踊り、夏の太陽はこんなにも喜ばしいものなのだと改めて実感しました。

ステージを過ぎて奥に進むと、クレムリンが見えてきます。こちらも想像していたよりはるかに大きく、さすがに大統領府というだけあって警備は厳重でした。
ロシアでの観光も最終週になると私たちはお土産を探しにモスクワ最大の土産物市場、ヴェルニサージュを訪れました。街中で買うとかなり値の張るマトリョーシカなどを手軽に買うことが出来ます。市場での醍醐味は何と言っても値段交渉です。ロシア語には「値段交渉をする」という単語が存在するほど市場でのコミュニケーションが盛んです。売り手の人たちも値段交渉を前提として価格設定をしているようです。売買のことのみならず、日本のことや将来のこと、おすすめの観光地などたくさんのことで会話が弾み、おしゃべり好きなロシア人とのとても楽しいひとときでした。

余談ですが、今のロシアは仕事が不足しています。機械に任せればいいことや、ほんの小さなことでも仕事として成り立たせてしまいます。例えば、駅で棚に陳列してある無料のチラシをわざわざ二人がかりで道行く人に配ったり、観光地の案内の同じ一文を何時間もたちっぱなしで拡声器でアナウンスしたりです。人手不足の日本では考えられないことですが、逆のことに悩む人たちもいるのだなと感じました。

終わりに—私の見たロシア

私の経験の中で、ロシア人たちは一般に優しく、気さくな人が多いです。英語は全くと言っていいほど話しませんが、少しでもロシア語を話すと心を開いて熱心に聞いてくれ、またこちらにもわかりやすいように丁寧に易しいロシア語を話してくれます。このような点から、ロシアは語学習得には最適な環境であると言えます。ロシアに少しでも興味を持っていたり、楽しくロシア語を勉強したいなら、ぜひロシアを訪れることをお勧めします。
長くなりましたが最後まで読んでいただきありがとうございました。

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