平成29年度 学部授業・カリキュラム改善に向けた「年間報告書」

1.「学習成果実感調査」についての分析結果

学習成果実感調査(秋学期)は、対象科目数49目(全履修者数3,767名)のうち47科目に対して実施(実施率:95.92%)した。また回答者数は2,050名であり、回答率は54.42%であった。昨年の実施率は100%であったが、今年度は学部専門科目2科目で実施されなかった。回答率は昨年度の55.73%からわずかに低下している。昨年同様に、学生の出席率の低下が原因と考えられる。全科目における出席回数に関して、87%(昨年度84%)の学生が出席率80%以上であると回答している。回答率の低下と合わせて考えると、授業に出席する学生と全く出席しない学生との二極化がさらに進んだと解釈される。履修に関してシラバスを確認したかどうかに関する質問に対しては、80%(昨年度75%)の学生が確認したと回答している。この結果から、シラバスを見て授業を選択し、また選択した授業に関する出席率も高いという傾向が見られている。
事前・事後学習に関して、シラバスに記載された指示に従い進めたかどうかに関して、42%(昨年度42%)の学生が従って進めたと回答した(「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」を合わせて)。事前・事後学習に関する学習時間に関しては、2時間以上取り組んでいる学生の割合は18%(昨年度19%)、1時間から2時間取り組んでいる31%(昨年度32%)であるという回答を得た。昨年度とほぼ同じ結果から、学生が事前・事後学習に関してシラバスに記載している指示に従っておらず、また、学習時間も少ないという実態が依然として継続していることが理解できる。事前・事後学習は各科目の内容を理解するためには必須であるため、今後も事前・事後学習への取り組み強化を更に行っていく必要がある。
近年は文部科学省の指導により、シラバスでの事前・事後学習の指示がより具体的になっており、この変更が学生の勉学態度の向上に効果をもたらすかどうかは慎重に検証して行く必要がある。各科目への積極性に関して、66%(昨年度66%)の学生が積極的に取り組んだと回答している。各科目の理解度に関しては、60%(昨年度56%)の学生が理解できていると回答している。この結果から、積極的に科目に取り組んでいると回答している学生が未だ多くない状況にあり、またそれに比例するように科目を理解できていると感じている学生も6割程度しかいないという現状が判明した。授業内容を精査し、授業の内容のレベルを落とすことなく、授業内容に対する学生の理解を高めるような内容にしていく必要がある。回収率の低さは、勉学意欲の低い学生はアンケート実施時期にはすでに授業に参加しておらず、アンケートに回答した学生が選別されていると判断すべきであると考える。この意味では、履修登録しながらもアンケートに回答しなかった50%弱の学生の実情はこの調査では知り得ないという深刻な問題を含んでいる。

2.「公開授業&ワークショップ」についての成果報告

(1)参加人数

  1. 「公開授業」:コンピュータ理工学実験AおよびB春学期 12名程度、秋学期10名程度
  2. 「ワークショップ」:春学期20名、秋学期13名が参加

ワークショップでの意見交換内容

本学部では、講義に関しての一般的な教育スキルの議論、講習を行うことは多分に形式的な内容に陥りやすく有効ではないという認識から、学部カリキュラムにおける具体的な科目をテーマとして、その現状の共有と問題点の改善に対して学部全教員での議論を行っている。教授会での議論の時間は限られるため、ワークショップを学部全教員での議論の機会とし、共有された問題点の学部教務担当者を中心としたカリキュラム委員会への答申を行っている。
平成25年度は「基礎プログラミング演習Ⅰ」、「基礎プログラミング演習Ⅱ」、「発展プログラミング演習」および「発展プログラミング演習Ⅱ」の公開授業を行い、新たに試みた少人数クラスの教育効果に関して検討を行った。平成26年度はこれら4つのプログラミング演習科目で単位を修得出来なかった学生が受講を義務付けられている再履修クラスおよび応用プログラミング演習(3つのクラス)の公開授業と合わせてワークショップで意見交換を行い、プログラミング演習改革の総合的な検討を完了した。
今年度は2年次生の必須科目である「コンピュータ理工学実験A・B」(以下、「学生実験」とする)の現状の理解と問題点の改善方法の検討をテーマとして、春・秋の公開授業およびワークショップで対象とした。学生実験は1名または2名の教員が単位となり独自の実験テーマを設定しており、全体で9の異なるテーマから構成されている。履修学生は配属されたグループに指定された複数のテーマを1年間かけて回る。多様な実験テーマを学べることがメリットである。一方、各実験テーマでの教育目標、内容、レポート課題の実施状況(フィードバックの有無など)および成績評価は、担当教員に一任されているため、教員の教育観により大きなばらつきが存在することが教育実感調査などで顕在化している。また、実験テーマの内容の大部分は本学部の開設時に設定されているため、近年の履修生の勉学意欲の低下に十分に対応できているかどうかの再検討も必要である。2回のワークショップでは実験担当者だけではなく、担当していない教員にも現状の問題点を共有してもらい、学部全体での4年間の教育カリキュラムにおける学生実験の意義づけに関して意見交換を行った。学生実験はレポートのまとめ方などを訓練することを主目的とするのか、それとも専門科目の履修への導入を目的とするのかに関して多様な意見が出された。各担当者の教育観により多様化することは避けられないが、多様性に柔軟に対応できない履修生が増加している現状からは、教育目的と成績評価などに関しては最低限の方針の共有が必要ではないかと考える。学生実験の改善は、情報理工学部への移行と合わせて継続して議論する必要があると考える。
基礎数学科目である「微分積分学Ⅰ・Ⅱ」および「線形代数学Ⅰ・Ⅱ」は今年度から本学部のスタッフが担当責任者となり、非常勤講師と協力して実施している。今年度は基礎数学科目の改善状況に関する検討をワークショップで行う計画であったが、来年度から移行する情報理工学部では基礎数学科目が必修科目から外れることになり、かつ「微分積分学Ⅰ・Ⅱ」は習熟度別クラスを実施することなどの大きな状況変化のために、今年度の検討は見送り、来年度以降に検討を行うこととした。習熟度別クラス導入の背景には、入学時での学生の高校数学の理解レベルが大きく分散することによる理解不足の学生の増加がある。このため、入学時に実施する高校数学の理解度テスト(プレースメントテスト)の成績から3つの習熟度別クラスに割り振ることを計画している。この変更の経緯と具体的な方法などに関して、ワークショップにおいて担当者から概要の説明が行われた。

3. 総括

(1)1 と2において確認された、本学部の授業・カリキュラムの長所

本学部の授業・カリキュラムの長所は、コンピュータ理工学において基盤となるプログラミング能力を身につけるために、グレード制と少人数制を導入していている点にある。プログラミングは数学と同様に積み上げ型の学問であるため、基本的なことが理解できていないと、より発展的な内容についてのプログラミングをすることができない。そのため、「基礎プログラミング演習Ⅰ」の内容をしっかり理解した上で、「基礎プログラミング演習Ⅱ」を履修するというグレード制は、プログラミング能力の習得に有効である。また、プログラミングの習得には、プログラミングを理解している教員やTAに気軽に質問できる環境が必須であり、少人数化により本学部はそれを実現している。
「コンピュータ理工学実験A・B」は学部生全員が1年間に渡り、多様な実験テーマを回り、自分が行った作業内容に関して第3者に説明するためのレポートの作成スキルの向上を目指している。目的、方法、結果、考察の各項目で説明する内容の違いや図、表の記載の形式など理工系の報告書作成の基礎を学ぶことに重点を置いている。この実験で身に付けるスキルは、3年次春学期での「プロジェクト演習」、3年次秋学期の「コンピュータ理工学特別研究I」、および4年次の「コンピュータ理工学特別研究ⅡA・ⅡB」での研究活動の基盤となる。

(2)1と2において確認された改善すべき点

授業内での理解向上と事前・事後学習に取り組むように学生に促すことである。本学部の学習は積み上げ型であり、それを習得するためには学習時間が必要である。そのための基本としては、講義に出席している学生がその内容を理解できるような講義内容に改善していく必要がある。しかしながら、授業内で学習分野の全てを身に付けさせることは難しいため、学生の事前・事後の学習時間は必要不可欠である。そのためには、事前・事後学習において、具体的にどのようなことに取り組めば良いのかを指導するなど、学生が学習する時間を取るような方策を行う必要がある。コンピュータ理工学の分野における技術の発展は速いので、授業内で基本的な内容を理解し、自学習において学生が発展的な内容に積極的に取り組むようにして行く方策も必要である。しかし、プログラミング演習の強化が学生の学修姿勢の改善に十分な効果を上げていないという現実からは、問題の深刻さを学部全体で共通認識し、方向転換の必要性を検討して行くべきである。
「コンピュータ理工学実験A・B」においては、多様なテーマの学習による広範囲な学びのメリットを生かす一方で、教育目的と成績評価に関しては異なる実験テーマ間での最低限の方針の共有を目指し、学生に対して一貫した教育目標・達成基準を示すことが必要と思われる。
更に深刻な問題としては、講義に参加しなくなる学生数の増加である。このような学生の割合が年々増加していることは十分な注意が必要である。これらの学生の実態は授業アンケートには反映されないため、全科目を通じた実態調査と対応策の検討が必要である。

4. 次年度に向けての取り組み

次年度に向けての取り組みとしては、以下の3点を挙げる。
  1. 習熟度別クラスの実施および必修化が外れた基礎数学科目の実施状況の把握
  2. 情報理工学部新入生の傾向把握と対策検討(情報共有)
  3. 「コンピュータ理工学実験A・B」の改革の継続
PAGE TOP