経営学部 卒業生インタビュー
聖護院八ッ橋総本店 社長 鈴鹿 且久さん(1972年卒)

鈴鹿且久さんが社長を務める聖護院八ッ橋は、1689年に黒谷参道にあった聖護院の森の茶店で業を興し、現在に至る創業320年以上の老舗企業です。

そのような長い歴史のある企業なので、本社を訪れるまでは、伝統的な和風の建物を想像していましたが、実際は近代的できれいなビルが本社でした。建物に入ると受付があり、すぐそばに色んな八ッ橋のサンプルが置かれていました。食べたことのある八ッ橋もあれば、見たこともない八ッ橋もありました。受付にいた女性の方が社長室まで案内してくださり、鈴鹿さんへのインタビューが始まりました。最初はみんなとても緊張していましたが、鈴鹿さんの方から気さくに話しかけて下さり、リラックスした雰囲気の中でお話を窺うことができました。インタビューでは、学生時代から現在に至るまでの様々なことを窺いましたが、ここでは社長就任後のお話を中心にまとめたいと思います。そして、その際には、お話を窺っていて特に印象に残った「伝統を守ること」と「革新すること」の2点に焦点を当てたいと思います。

インタビュアー

経営学部 森永ゼミ:荻野 大樹さん、川端 優佳さん、砂田 篤志さん、下関 海樹さん、山本 大和さん

聖護院八ッ橋総本店 社長
鈴鹿 且久さん(1972年卒)

社長就任

鈴鹿さんは、36年間も聖護院八ッ橋の社長を務めてこられました。大学卒業後勉強のため、他の会社に勤めようと思っていたらしいのですが、その道をやめ、聖護院八ッ橋にすぐに入社することにしたそうです。その決め手となったのは、父親からの説得だったそうです。鈴鹿さんは、「他の会社でそれを学ぶことができないのはプラスかマイナスかわからず、抵抗があったが、父の思いが強く、他の世界を見ることなく当社に入社した。結果的にはそれが良かったと思っている。」とおっしゃっていました。

伝統を守る

「会社と商品を守る(長く続ける)」

鈴鹿さんが入社した当時は高度経済成長期だったため、何をしてもお金が儲かるような時代だったそうです。しかし、そのような好況時でも鈴鹿さんは本業を守り、他の事業や不動産などへの投資は行いませんでした。そのため、バブル経済が崩壊してもその影響は少なく、会社の経営は順調にきているといいます。
また、鈴鹿さんが今一番力を入れていることは、後継者である娘さんに色々なことを教えていくことだそうです。娘さんに教えていることについてこう話してくれました。

「会社を守っていくということでもあるが、商品を守っていくということを教えている。商品の味が落ちると自然とお客さんは離れて行ってしまう。今後も100年、200年と商売を続けていくには、商品としてお客さんに飽きられないような味が大事であり、流行に乗ったような味付けには決してしたくない。」

このような考え方があるからこそ、300年以上もの間、たくさんのお客様に愛され、会社を続けてこられたのだと感じました。

「取引先との信用を大事にする」

鈴鹿さんは会社や商品を守ると同時に、取引先との関係も大事にされています。その結果、例えば、紙や砂糖などの原材料が手に入りづらい時代にあっても、取引先とそれまで築いてきた信用を糧に、乗り越えることができたと言います。その時のことについて、次のように話してくれました。

「原材料を取引していた企業とは昔から密接に関わっていため困らなかった。たとえ、その取引先の原材料が高騰していたとしても、そこ1つに決めて代々取引をしていた。そのつながりがあったからこそ、オイルショックで紙などが手に入りづらくなっても優先的に仕入れさせてくれた。(中略)大事だったのはやはり信用だと思う。信用があったから原材料なども仕入れることができた。今もその取引先との関係を大事にしようという気持ちは変わらない。」

短期的な効率性や損得勘定で取引先を変えなかったことが、結果として会社と商品を守ることにつながったといいます。このことから、長期的な視点の大切さ、お互いに助け合い協力していくことの大事さを学ぶことができました。

「暗黙の了解(ライバルとの関係)」

また、企業を長く続けていくためには、ライバル企業との関係も大事になると鈴鹿さんはおっしゃいます。

「商品を売る場所などははっきりしていないが、暗黙の了解として隣には手をださないようしている。確かに利益を求める上ではライバルだが、同時に八ッ橋や京都の伝統を守っていくために協力していく関係でもある。」

この発言の根底には、単に利益の拡大を求めるのではなく、多くの企業や人との関係を大事にし、地域全体を盛り立てていこうという鈴鹿さんの思いがあります。こういった思いも引き継がれているところに、老舗企業の凄みを感じました。

「家族主義(従業員を大事にする)」

聖護院八ッ橋では先代の頃から、障害のある人たちを従業員として雇っているそうです。そのことについても話してくれました。

「障害のある人を雇うということは、その家族への貢献にもなると思っている。普通の企業は1%ぐらいの割合で雇っているが、私たちは7%雇っている。障害のある人がいることでみんなが優しくなれる部分もある。彼らと仕事をしていく中で、そういったことを逆に教えてもらっているように感じる。」

このお話を窺って、従業員を常に平等に扱うように心がけ、従業員を家族のように思っていることが垣間見えたような気がしました。これは、かつての日本企業で多く見られた家族主義的な考え方に近いと思います。今では、ほとんど見られなくなりましたが、聖護院八ッ橋では脈々と受け継がれているようです。
 

革新する

インタビューでは以上のように厳格に伝統を守る一方で、新たに始められた取り組みについても、お話を窺うことができました。

「新しい販売チャネルの開拓」

聖護院八ッ橋では長い間、自分の店舗だけで商品の販売を行ってきました。しかし、鈴鹿さんが社長になられてからは、商品を売る場所を徐々に増やしていったといいます。例えば、エキナカのお土産コーナーでも商品を販売するようになりました。さらに、全国のデパートなどで開催される京都物産展にも参加するようになりました。ただし、鈴鹿さんの思いは、単に物産展に参加して八ッ橋の売上を伸ばすことにあるのではなく、お客さんに京都のものは美味しいことを分かってもらい、実際に京都を訪問してもらうことにあります。実は、鈴鹿さんは以前、京都の物産協会の会長をされていたことがあり、京都に来るお客さんの数を増やすことで、地域の経済を潤したいと考えておられているようです。鈴鹿さんの京都に対する深い愛情を感じました。

「新規顧客の開拓(新しいコンセプトの商品の開発)」

次期社長になられる鈴鹿さんの娘の可奈子さんからも少しお話を伺うことができました。会社に入社した当時は、会社の歴史や八ッ橋の歴史を守ることに固執していましたが、現在では良い意味でそれを軽く捉えられるようになったそうです。
商品の美味しさを保つのは当たり前のこととして、お客さんにそれをどうやって、笑顔で楽しく食べてもらうかを考え続けることが、結果的には会社が長く続いていくことにつながるのではないかと考えておられるそうです。その可奈子さんが開発した新商品が、「nikiniki(ニキニキ)」です。nikinikiはお土産としてではなく、「日常のお菓子として気軽に食べる八ッ橋」をコンセプトに作られた商品で、ターゲットも今までの八ッ橋とは異なる層になっているといいます。新商品を開発する中で、最初は可愛らしい見た目に合わせて色も女性向けにする予定でしたが、父親からの「ターゲット外の人も忘れてはいけない(新規顧客だけでなく既存顧客も大事にしないといけない)」という言葉で、男性にも買ってもらえるような色合いに変更したといいます。

「返品率を下げる取り組み」

その他にも、環境面での取り組みとして、商品の返品率を下げる工夫もされていると窺うことができました。具体的には、返品率を下げるために、注文された分だけ製造を行うなどの工夫をされているとのことでした。

学生へのメッセージ

鈴鹿さんからは京都産業大学生に向けて、次のようなメッセージを頂きました。

「礼儀だけはきちんとすること。言葉遣いや態度、何でもそうです。そこをしっかりしていたら、立派な人になれると思う。」

人としての礼儀はやはり大事で、きちんと身につけていきたいと改めて感じました。

全体を通しての感想

鈴鹿さんへのインタビューを通して印象に残っていることは、おもてなしの心を持ち続けることの大事さと、伝統を守っていくことの大切さです。インタビュー時にいただいた八ッ橋やお茶、お土産に持たせてくださった八ッ橋がとてもおいしく、大切に受け継がれてきたものだと感じました。企業として利益を追求するのは当然のことですが、それだけでなく、地域を大切にし、社会福祉などの活動も積極的に行うなど、周囲とのつながりを大切にしていることが分かり、そのようなところに事業を長く続けていく秘訣があるのではないかと感じました。
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