経営学部 卒業生インタビュー
五十家コーポレーション代表 五十棲 新也さん(1998年卒)

私たちは、佐々木ゼミ17期生の五十棲新也さんが経営している「五十家コーポレーション」にインタビューに行きました。五十棲さんは、自ら運営する「五十棲農園」と協力農家から新鮮な京野菜を調達し、5つのお店で提供しています。

インタビュアー

経営学部 佐々木ゼミ:荒田 実悠さん・大家 妃奈子さん・窪田 正太郎さん・島尻 塔也さん・森井 恭佑さん

店内にて:左から窪田 正太郎さん・森井 恭佑さん・五十棲 新也さん・荒田 実悠さん・大家 妃奈子さん・島尻 塔也さん
五十家コーポレーション 代表
五十棲 新也さん(1998年卒)

経営する5店舗の特徴

女性でも気軽に入れる赤提灯がコンセプトの「五十棲」、ここでは新鮮な京野菜と旬の食材を使ったおでん、バリエーション豊かな串焼きを提供しています。「おにかい」では旬の京野菜をおいしく食べようをコンセプトに、カウンターの真ん中に置かれた大鍋で煮たり、炊いたり、湯がいたりした京野菜を提供しています。旬の京野菜を焼かせてくださいをスローガンに掲げている「五十家」では、カウンターの真ん中の鉄板で焼いたり、蒸したり、炒めたりとそれぞれの野菜に合った火の入れ加減とこだわった塩、味噌、ソースと合わせて素材の味を引き出した焼き野菜を提供しています。
京野菜をワインに合わせて美味しく、楽しく!をコンセプトにした「五十松」では、シンプルなワインには生野菜をそのまま、少し酸味のあるワインには野菜をピクルスにして、そしてしっかりとしたワインには野菜にチーズや動物性の食材とあわせて、とそれぞれのワインに合う料理を工夫して調理し、厳選したワインと合わせて提供しています。
「isoism」では味噌漬け、酒粕漬け、オイル漬けなど、短時間に、あるいはゆっくり時間をかけて、など野菜一つ一つと向き合い一番おいしくなってくれる方法を、伝統的な漬物の技法にとらわれることなく、五十棲流のやり方で漬け野菜を提供しています。
四条界隈に店舗が集中していることに関して、五十棲を一店舗目に開いたとき、半年で人があふれかえったそうです。14坪で26席とれて毎日、お店に人があふれかえったのです。近くでお店をだしても勝算を感じたので3店舗集中させました。経営学でいうドミナント方式を基本に考えたといいます。
五十家コーポレーション全体のターゲット層は、20代後半~30代後半の感度が高い独身女性です。一番のこだわりとしては、五十家コーポレーションでは「FARM TO TABLE~畑から直接みなさんのお皿の上に~」をコンセプトにしています。これはその日の営業が終了すると、次の日に必要な野菜をグループメールで連絡し、早朝に発注数を確認した農家スタッフが収穫し、お昼には各店舗に野菜が運ばれます。そして、その野菜を仕込み、夕方にはその野菜を使って、営業を開始します。
朝に収穫した野菜が、その日のうちにお皿の上にのってテーブルに運ばれる、という仕組みは、自家農家をもつ五十家コーポレーションならでは仕組みです。その様子をINSTAGRAMなどのSNSに掲載することで、店舗に関心を持ってもらい来店につなげています。
 


野菜にこだわるきっかけは?

五十棲さんは、大学を卒業して自分のお店を持ちたくて4年間居酒屋で修業しました。農家の子ですが農家は継がないつもりでした。しかし居酒屋で修業しているとき、高値で取引されている野菜がある一方で、お客さんも満足感を感じている現状を垣間見ました。農家に生まれた自分としては、野菜の知識を活かせば勝算があると感じて「野菜を使う」店を考えたと語ってくださいました。こうした経験を通じて、安くて満足感を提供できる京野菜を素材にしています。
そして独立を考えた時代は、世の中は「尖ったこと」を求めていました。よくある総合居酒屋ではうまくいかないため、自分は何が売りにできるのか考えたとき、身近にあったのが野菜でした。昔は農家に生まれたことをコンプレックスだと思っていましたが、野菜で事業ができると気づいた頃から、親に感謝する気持ちが芽生えました。家の発展とビジネスをくっつけられる方法を探りながら仕事をしています。
契約農家との関係についての質問に対しては、「近くの親戚や地域の方々の農園とのネットワークがあります。それぞれの契約農家さんに、特定の野菜を専門的に、かつ無農薬にこだわりながら栽培してもらっています」と語ってくださいました。契約農家との深いネットワークを通じて、季節や栽培状況を確認することを重視しているとおっしゃっていました。
店には何種類の野菜が置いてありますかという質問に対して、インタビューのときは13種類の野菜がありました。季節によって変わりますが、夏のオススメはトマト、きゅうり、なす、などです。また野菜の調理方法のこだわりについては、できるだけ手をかけず、本来の味を楽しんでもらえるような調理方法・味付けを行っています。メニューの書き方のこだわりは、料理名ではなく野菜名と栽培農園を書き、下にそれぞれのオススメの味付けを書いています。野菜が主役というメッセージです。
野菜の仕入れについては、夜中のうちに各店から発注メールを受け、朝に農園から野菜を採ってきます。「Farm to table(畑から直接お皿の上に)」の実現を目指し、朝採れたものがその日の夕方には皆さんのテーブルの上に乗っているというスピード感を大切にしています。この流通スピードはなかなかありえないことなので、お店の売りにしています。そのために、常に一定数の野菜が農園にあるように計算して作っています。季節によって、収穫量や収穫できる野菜が変わってはきますが、お店の判断でうまく調整をしています。

企業理念の浸透にどう取り組んでいるか

「ビジネスなのでお金を稼ぐということは必要不可欠です。しかし、それを優先するのではなく、個人個人がお客様にどう満足してもらえるかについて考え続けることが大事です。そのためのマニュアルはなく、スタッフ自らが考えてお客様にしっかりと向き合うことを最優先にしています」と語ってくださいました。私たちも「心のこもったおもてなしを提供する」という経営理念を浸透させる素晴らしい取り組みだと感じました。
各店舗のコンセプトについては、「既存のものではなく、常に新しいものを生み出すことを考えています。どういう調理をすれば、野菜の新鮮さやお客様がワクワクするかを考えながら生み出しています。」と語ってくれました。五十棲さんは、常に新しいものを求める姿勢や多面的な視点を持っていることを感じました。またサービスやホスピタリティを守りながらも、各店舗の業態を柔軟に変化させながら多様性を生み出していることが分かりました。
そして14年間野菜だけでやってきて手に入れたのは、ブランディング=「オーガニック」「健康志向」「ナチュラルフード」というキーワードです。例えば、お酒でも野菜ジュースと酎ハイで割ってみたり、人参と生姜とオレンジを漬けたものにお酒を入れてみたりしています。一見、酒場で夜更かしして身体に悪いことしているように見えて、仲間としゃべっている最中に食べているのは野菜で、飲んでいるものも野菜ジュースで最後にオリジナルブレンドの身体にいいお茶をお出ししてというところが、楽しい会なのに身体にいいことというのでやはり健康につながります。たとえ野菜から離れたとしても、「健康」をキーワードに店ができたらと思っています。

大学で学んだ経営学の知識は役立った

「ゼミの先生の授業を通じて、新しい事業への参入すること、誰もやってないことをすることの大切さを学びました。そして今までにないことをすることは、チャンスであり挑戦しようと思った。」と語ってくださいました。自分たちも、授業を通じてチャンスや挑戦のきっかけをつかむために大学生活でしっかり学んでいきたいと感じました。
五十棲さんも、今年大阪学院大学の経営学部教養講座において「人気居酒屋の経営戦略」というタイトルで講演されています。講演では、自分が大学生の時どう感じていたのか、大学生にどう感じて経営者になったのかという話をしたそうです。話を聞いてくれない彼らと同じような私が学生時代にいて、そこから何かヒントを得て、もがき苦しんでお店を出したという流れを話せないかな、というのが私の思いでした。
大学の時には、どんなゲストでも授業は眠く刺激的な話もなく、ただ単位を取るためだけに学校に行っていた大学生活だったので、それをひっくり返す授業をすることがその日のコンセプトでした。経営学の難しい話は一切していません。学生がこれから働いていく中で、ヒントになる一言やキーワードを話せないかと考えながら話していました。学生にどう響いたかは分かりませんが、少しでも刺激になればと思います。私たちも、五十棲さんのインタビューから多くのことを吸収して、新しいことや多様性を求めることの重要性が分かってよかったと思います。

従業員の独立

社員は18人、アルバイトは40人ほどです。従業員のなかで独立して店を持った人も数名います。こうすればお店が流行る、売上ではなくお客様一人一人に喜んでもらって帰って頂く、ということを繰り返していけば必ずお店は繁盛する、という話を真摯に受けとめてくれた人たちです。野菜に関係あるお店を出した人もいれば、そうじゃない人、ワインが好きだった従業員はワインを使ったお店を出しています。ラーメン屋を出した人もいます。彼は毎日早くきてラーメンを仕込み、おすすめメニューとして出していました。

後輩へのメッセージ

大学卒業後は就職せず、自分に合った仕事とは何かを一年間考えました。その中で、自分は人を喜ばせるのが好きという点に気が付き、「自分の店を持つ」という夢をみつけ、まんざら亭というお店で修行をしました。修行の間に、自分がやりたいお店の雰囲気を学びました。「自分のやりたい事」をじっくり考える事が重要です。大学生のうちに決まる事がベストですが、もし決まらなくても、長い人生の中では問題はありません。しかし、大学卒という肩書きがないと世間の目は冷たいです。
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