経営学部 卒業生インタビュー
多重露光を用いた写真家 後藤 美臣さん(1996年卒)

今回私たちがインタビューを行ったのは、ゴトウヨシタカと言う名前で多重露光を用いた写真家として活躍されている後藤美臣さんです。多重露光は、1つのフィルムに2回以上撮影をする方法です。経営学部佐々木ゼミ15期生で平成8年に卒業した後藤さんの活躍の場は、日本だけにとどまらず、キューバ、バンコク、台湾、インド、ドバイ、ウズベキスタンなど世界中に広がっています。毎年1回は、世田谷、銀座など東京を中心に個展を開催し、さらにLomography International主催の写真コンペで金賞を獲得するなど、着実に知名度を上げています。後藤さんは将来レディーガガさんを撮影してみたいそうです。多重露光というクレイジーな撮影方法でクレイジーな人を撮ってみたいというのが理由です。実際にお会いすると、世界中を回っているだけあって逞しい体つきをされていて、日焼けもされていました。大学卒業時期が私たちの生まれる前であり、親とも年齢が近いのですが、どこか若々しさを感じる方でした。

インタビュアー

経営学部 佐々木ゼミ:安達 大翔さん・小林 宏彰さん・光本 直輝さん・吉見 恵里さん

ゴトウヨシタカ写真展「光と遊ぶvol.3」会場art box caféにて:左から:安達 大翔さん・吉見 恵里さん・後藤美臣さん・光本 直輝さん・小林 宏彰さん
多重露光を用いた写真家
後藤 美臣さん(1996年卒)

デザインクラブと海外体験

後藤さんは、自分の学生時代について二つのことを話してくださいました。
一つは、学生時代に所属していた団体です。後藤さんは、学生時代にデザインクラブという文化団体に所属していたそうです。その文化団体では、主に絵を描いたり、写真を張り合わせて一つの作品にするコラージュなどを創作していたそうです。後藤さんはこのころからアートには興味があったそうですが、カメラは全く興味がなかったそうです。アートに興味を持った理由の一つは、父親が趣味で絵を描いていたことが影響しているかもしれないとおっしゃっていました。父親は抽象的な絵を描かれていたそうです。
二つ目は、海外の語学学校に通いながらホームステイをした経験です。一ヶ月間のイギリス海外経験は、大学の紹介ではなくて旅行会社から探して、三回生の春休みに行ったそうです。海外に行った理由を聞いてみると、当時のアルバイト先の先輩が海外に留学しているのを見て、かっこいいと感じ、自分も行ってみたいと思ったことが理由だそうです。海外に一人で行くうえでの不安や心配についても、期間も一カ月間で、勢いで決めてしまったので、不安に駆られることも心配したこともないとおっしゃっていました。勢いで海外に行くことを決めて、実際に行くというその行動力に尊敬の念を抱きました。
ここで強調したいことは、デザインクラブの活動と海外経験が、現在の後藤さんの活動に繋がっていることです。学生時代に挑戦したことが将来役に立つかどうかは分かりませんが、無駄なことは何もないことを後藤さんとの会話を通じて学びました。「好きなこと」「勢いでやったこと」のどちらも大切な経験であり、今の後藤さんを支えている基盤になっていると感じました。
 

写真家としてのストーリー

大学卒業後に就職した会社が、今で言うブラック企業だったそうで、「自分の仕事って一体何だろう」と悩むこともあったようです。その会社を4年で退職し、個人で輸入雑貨を取り扱う店を起業しています。輸入雑貨の仕入れから販売まで全てを担当し、輸入雑貨販売の他にも国内の吹きガラス職人や陶磁器職人の作品も販売していました。
仕事に関して後藤さんは、「若い頃は自分の適職が何なのかは分からないし、実際に就職して働きはじめるまで分からない部分もあると思う。それに今は就職しても、転職する人も多いので、学生時代から自分はこういう職業に就くんだと決めつけてしまうのではなく、柔軟に物事を考えられるようになって欲しい。そのための地盤を若いうちに作っておいて欲しいな。」と私たちにアドバイスをして下さいました。
ここで後藤さんの写真家としてのストーリーを説明しておきます。はじめは一眼レフで写真を撮影していましたが、一眼レフカメラは性能が良すぎることから自分で撮っているという感覚よりもカメラが撮っているという感覚だったそうです。これは裏を返せば、誰でも綺麗な写真が撮れるということで、自分の意思が伝わらず面白くないと感じたそうです。その後ロモグラフィーという撮影法で撮った写真のサンプルに出会います。このサンプルに大きな衝撃を受け、この写真は楽しそうと思ったそうです。これが多重露光の撮影スタイルを始めたきっかけです。
多重露光の撮影スタイルを始めて数年後に、メーカー主催の国際的ロモグラフィーコンテストがあり、後藤さんが応募しグランプリを獲得します。その写真が香港にある直営店に展示されたことが大きな転機になりました。初めて人に認められたと感じ、とても嬉しくて、カメラを通して他の人との差別化ができたと感じ、このスタイルで頑張っていこうと決めたそうです。
東京都世田谷にあるギャラリー世田谷233をたまたま訪れたとき、自分の写真を気に入ってもらったことからギャラリーとの付き合いが始まります。個展を開くチャンスも頂き、現在も継続的に個展を開催しています。メーカー主催のコンテストにも参加し、これまで三度グランプリを獲得しています。グランプリはカテゴリーごとに分かれていますが、後藤さんは二部門でグランプリを獲得しています。これまでは外からオファをもらう形で個展を開くことが多く、自らチャンスをつくる機会が少なかったことの反省から、今回大阪で開催中のUNKNOWN ASIAにも応募しています。審査も通過し現在も参加されています。

独自の写真スタイル

フィルムにはネガフィルムとポジフィルムの2種類があり、それぞれ現像のための専用薬品があります。本来ポジフィルムにはポジフィルム用、ネガフィルムにはネガフィルム用の薬品で現像するのが普通ですが、後藤さんはポジフィルムで撮った写真をネガフィルム用の薬品で現像します。この方法によって、面白い発色で現像することが可能になるといいます。「ただ綺麗な写真を撮りたい」わけではなく、「絵を描くように写真を撮りたい」という想いから、自分が欲しい色があればそれに合わせた組み合わせをすることに拘っています。本当に「絵の具で絵を描く感覚」に近いと感じました。そして被写体のある現地に行く前に、どのような色が被写体や景色に使われているかの情報を入手し、様々なフィルムを持って現地に行かれるそうです。
自ら工夫して撮影した写真を飾ったり、展示会に出展することも好きだそうですが、自分の写真をもっと広範囲に使ってほしいという想いから、雑誌やジャッケットの表紙に使われることにも関心があります。最近、京都発インディーズバンドのファーストアルバムのジャケットに後藤さんの写真が使われるなど活躍の場が広がりつつあります。
後藤さんの撮影スタイルですが、観光地を訪れたときには、基本的に歩き回り路地裏に入って気に入った場所や人や物を撮ることに徹しています。その土地のシンボルになる写真を全く撮らないわけではなく、パリを訪れエッフェル塔を撮るにしても、ただ撮るのではなく、何気ない景色や通行人とエッフェル塔を多重露光で組み合わることで自分らしさを表現しようとします。この自分らしさの表現はかなり難しく細かな工夫が必要だそうですが、このときの勘やインスピレーションを磨くためにイラストレーターやグラフィック関連の人との交流を大切にしています。
写真のテーマによってカラーやモノクロも使い分けています。後藤さん曰く、カラーは色という面での情報量が多いためシンプルに人を楽しませることができるが、モノクロは白と黒しかないため情報量が少なく、写真を見た人に、本来どういう色なのか、という想像を膨らませる機能があるのだそうです。
我々の「デジタル技術を使わずにアナログ手法を使うことでどんな魅力が生まれますか」という質問に対して、後藤さんは、「デジタルは作品作りをする上で成長がない。理由はデジタルカメラだと気に入らなかった写真があるとすぐ消すことができ、失敗したものから何も学ぶことができない」と答えてくれました。失敗したことをしっかりと受け止め、そこから次の方法を考え、改善点を見つけることの大切さをいろいろな人に教えてもらってきましたが、カメラも同じだと思いました。
また写真を撮るときは完璧なシチュエーションで撮影することが第一で、数打てば当たる方式で写真を撮ることは、フィルム代もかかり何より撮影モデルに失礼と後藤さんは話します。一枚一枚を大切に撮ることが技術の向上につながり、結果的に良い作品を生み出すことに繋がると感じました。

後輩に伝えたいこと

インタビュー最後に在学生に伝えたいことを伺いました。1つは、自分が興味あることには時間とお金が許す限り手をつけてほしいという点です。自分が何に興味があるのか、何をしている時が一番満たされているのか、という疑問は、多くの経験をしてみないと分からないものです。少しでも興味があれば手を出してみて、実際に経験してみることです。多くの経験をしながら地盤をしっかりと作っておけば、将来就職をして仕事がマッチせずに転職を考える時にも役立つはずです。社会人になると時間を作るのが難しいので、何でもやろうと思って行動できるのは学生の時期ですよという助言でした。
2つ目は、友達をたくさん作ってほしいことです。関係は広く浅くでもかまわないので、何かあった時に少しでも繋がっていれば、声を掛けることもできるし、助けてもらえるかもしれません。社会人になると新しい友達よりも仕事関係の仲間ができてきます。新たな友達を作りやすい環境は学生時代までではないでしょうか。京都産業大学は全国から多くの学生が集まってきているので、友達をたくさん作って友達の輪を広げてほしいです。若い時の友達は、損得感情無しで付き合えるから一生の友達となります。
 

インタビューを終えて

インタビューを終えて第一に時間の大切さというものを感じました。自分の生活に置き換えてみると、大学に入学してはや1年半が経ちます。多くの夢ややりたい事を抱いて入学しました。しかし、頭の中では「やろう」という意識はあっても、まだ余裕があるという甘えや実感の無さから、なかなか行動に移せず実行できていない事がほとんどです。学生時代の今しかできない時間を大切に、多くのことに挑戦していきたいと改めて感じました。時間の流れはみんな平等です。私達はこの限られた学生時代を有意義に使い、悔いの残らないようにしたいです。後藤さんは学生の時から海外に行ったり、絵を描いたりと様々なことに挑戦された経験から、今の写真の仕事に至っておられるようでした。私達も多くの経験や挑戦から自分の興味や強みを見つけ熱心に取り組めるものを見つけたいです。
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