経営学部 卒業生インタビュー
エッセイスト・読書家 井上 歩夢さん(2015年卒)

私達のゼミでは、経営学部卒業生を見つけてインタビューしようという学部創設50周年企画を受けて、お会いしたい方々をインターネットなどで探しました。その中で、読書好きの一人が、2014年に京都産業大学図書館主催のブック・ツイート大賞で優秀賞を受賞された井上歩夢さんのことを見つけ、卒業後にエッセイを出版されたことを知りました。

井上歩夢著『しゃーなし生きる』ヒロエンタープライズ(2016年5月発行)

Amazonの著者紹介から、井上さんが、幼い頃に生体肝移植を受けて奇跡的に命が助かるという体験をされたこと、度重なる入院体験などから「生き辛さ」を感じてこられたこと、その体験をもとに執筆されたことがわかりました。

漠然とした生き辛さを感じている若い人が、生き辛さを抱えながらも自己肯定感を持って生きていくための方法を、自分自身の体験を元に記している。何かしら辛いことがあり、「もう何もかも嫌で人生が詰んだ!」という暗い気持ちに陥ってしまった人に、ぜひ本書を手に取ってもらいたい。読後、「これから頑張って生きてやるぞ!」とはならなくても、「まあとりあえず、しゃーなしでも生きてみるか」くらいには思えるはずだと思うから。(引用:Amazonの内容紹介より)

きっと読んでみたい学生は私達以外にもいるはず。そう思って、電子書籍なのですが、オンデマンドの発注もできるので、大学図書館で購入希望を出しましたところ、入れてもらえました。
また、株式会社ヒロエンタープライズの「お問い合わせ」ページを通して、ゼミの先生から問い合わせてもらいました。ちなみに同名の会社が複数存在しますが、東京都の谷代 浩氏が代表をされている会社です。問合せ後すぐに谷代様から連絡があり、井上歩夢様につないでもらえました。

インタビュアー

経営学部 在間ゼミ:後藤 稔貴さん、石塚 健太さん、大西 祐輝さん、坂川 大輔さん

エッセイスト・読書家
井上 歩夢さん(2015年卒)

なぜ京都産業大学の経営学部への入学を決められたのですか?

京都産業大学経営学部への入学を決めた第一の理由は、オープンキャンパスに参加して、直感で「楽しそう!」と感じたことです。そして偏差値という点からも、「頑張れば合格できる!」ということで、勉強に励みました。私学ということで少し迷いはありましたが、学費が他の私大よりも若干安いことも後押しして、両親とも相談した上で最終的に入学を決めました。また、歴史が好きで、京都という土地にも興味があったのも入学を決めた理由の一つです。

大学ではどのように過ごされましたか? やはり本をよく読まれていましたか?

1年次生の間は、ホテルで配膳のアルバイトをしていて、2年次生ではキャンプやイベントを企画・実施する学生団体の代表として活動をしていました。例えば、「お笑いコントをつくるキャンプ」を開催し、そこでコンテンツを作ったり、語り合ったりしました。この体験で僕自身価値観が変わり、その価値観が、現在のエッセイや生き方に反映されていると思います。
3年次生の1年間は、大学在学中で、一番本を読みました。大学の図書館の本を、パラッと見て面白いと思った本は。棚の端から端まで、すべて読んだと思います。特に、図書館2階上がってすぐのところにある外国文学コーナーが僕のお気に入りでした。図書館に入りびたり、職員の方と顔見知りになるほどでした。またこの頃は、京都みなみ会館で上映される映画もよく観に行っています。僕の好きなジャンルはホラーですが、僕が3年次生の頃観た映画で印象に残っているものは「風立ちぬ」です。当時とても流行っていましたし、よく分からないシーンも多かったですが、個人的にはたばこを吸うシーンが凄く気に入りました。 4年次生になると、出町柳駅近くのスペースを借りて、本を使ったイベントを自ら主催するようになりました。ビブリオバトルや、本を紹介しあったり、お菓子をつまみながら語り合ったりするイベントを開催し、本好きな方々との交流を深めました。最終的に本屋をしたいという思いがあり、計画もしていましたが、途中で僕の力不足により頓挫しました。今現在は本屋は一旦おいといて、体調が回復し次第、自分ができる本を使うイベントを始めていけたらと考えています。ちなみに今も、そのイベントで交流した方々と一緒に、オンラインで本の紹介などの活動もしています。

ブック・ツイート大賞に応募してみようと思われたきっかけは?

大学4年次生のときに、本を使ったイベントを開催していて、特に自分の大好きな本を誰かに伝えるということが好きでした。そのような中で、図書館の掲示でブック・ツイート大賞を見かけて、「この文字数なら自分でも書けそうだ」と思い参加を決めました。

ブック・ツイート大賞応募の際に、『月と六ペンス』を選ばれた理由は?

サマセット・モーム著『月と六ペンス』は当時読んでいた本の中で特にお気に入りの1冊でした。これは画家のゴーギャンの生涯を題材にした小説ですが、狂気的な行動を取る主人公に、妻子を含めてさまざまな人物が翻弄される作品で、その普通ではない行動や発言に物凄く惹かれ、この作品を選びました。「強い意志をもって、もっとやりたいことをやりたい」と強く感じた作品です。

『しゃーなし生きる』の執筆に至る経緯や思いを、お聞かせくださいますか?

大学卒業後に持病で体調を崩され、しばらくの間通院を繰り返す療養生活をしていたためどこにも就職することなく一時何もしていなかったんです。療養生活の中で体調が良くなってきたとき、暇をもてあまし、エネルギーを吐き出す手段がほしかったんです。「就職して働いている同級生達を見て自分だけが何もできないことに悔しくなったこと」「何かしたいのに何も始まらない、自分は何をしているのか、という焦りを感じたことが執筆を決意した理由です。「それまで大学生だったのに、今は会社員でもなく、所属がなくなるという無所属の不安とでも言うべきものを初めて味わいましたね。
その当時、苦しかった思いやたまっていたエネルギーを記事に書いてブログで発信したりもしました。それがたまって本にしようと思い、出版社に相談されたところ『しゃーなし生きる』の電子書籍化に至りました。「日本語がおかしいところありますし、すぐに本になるとは思いませんでしたが、出版社の方が強く推してくださり、出版が叶いました。

今後も、執筆活動を続けられるご予定ですか?

今後も続けていくつもりですが、もっと執筆以外の可能性も模索したいと思ってます。この『しゃーなし生きる』を出版したことで、「何かをつくることで、誰かの役に立てる」ということを経験できたので、今後も社会に対する問題意識を常に持ち、体調を回復させた暁にはこれまで溜め込んできたエネルギーを自分のやりたいことで一気に放出させようかと考えています。今はまだエネルギーが溜まっていないので、ひとまず体調を回復させることを第一に考え、日々の仕事に邁進していきます。

現在、会社で働いておられるそうですが、就職活動についてお話しくださいますか?

正直いうと、4年次生の時はほとんど就職活動をせず、リクナビ、マイナビなどの新卒求人情報サイトには一切登録されていませんでした。4年次の後半になって、主催していた本のイベントで知り合った人のつながりで、就職先を見つけたんです。上述のように、その会社への就職は病気のため辞退せざるを得ませんでしたが……笑
療養を通して体調が落ち着いてから、実家のある岡山で新たに就職先を探すことになり、ハローワークも活用しました。職場選びのポイントは、持病があるため、家から歩いて通うことのできる職場、勤務時間帯が適切なこと、スキルアップもできることの3つ。その結果、現在の会社の面接を受け、最初はアルバイトの処遇でしたが、働きぶりが評価されて、途中から正社員として採用されました。僕の場合は持病のこともあったので会社選びのポイントが皆と少しずれているかもしれませんが、自分の現状を受け入れて分析し、無駄な体力とお金をなるべく使わずに済ませ、心身に余計な負担をかけない努力をすることは誰にとっても大事なことだと思います。

会社勤めをしながら現在でも読書会などをされていますか?

現在は体調のこともあってオンラインを中心に、休日などの都合のいい時に集まってイベントを開催しています。「20時から23時の時間帯でちょうど都合のつく人が3人集まれば開催します。社会人になると学生の時よりも時間に制約ができるので、読書会での情報交換によって効率よく本を読むことができるのが良い点です。現在の読書会を通して、昔はあまり読まなかったビジネス書も詠むようになりました。例えば、『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(森岡毅著、角川文庫、2016年)」を皆で読んでみて、マーケティング戦略はもちろん、新しいアイデアを発想をするために必要な考え方を学べる名著だと感じました。ぜひ読んで欲しい一冊です。

好きな本は? 好きな作家は?

沢山有りますが、特に好きな本が、首藤瓜於著『脳男』で、この本は第46回江戸川乱歩小受賞作です。次元の違う名作だと思いますし、読んだことを一生誇れる傑作です。ほかには、中原昌也や、貫井徳郎の作品が面白くて昔から好んで読んでいます。中原昌也は『あらゆる場所に花束が……』で第14回三島由紀夫賞を受賞していますし、この本は登場人物のイカれっぷり、理解不能な行動の数々に新鮮な体験ができること間違いなしです。貫井徳郎の主な作品には『後悔と真実の色』(幻冬舎文庫、2012年)、『慟哭』(創元推理文庫、1999年)、『愚行録』(創元推理文庫、2009年)、『プリズム』(創元推理文庫、2003年)など多々ありますが、一番好きな作品は『灰色の虹』(新潮社2010年)です。これを読んで以来、人が逮捕されるということ、また人を逮捕するということはどういうことかを考えるようになり、漠然と恐怖を抱くようになりました。

学生時代に読んでおくといいよ、という本はありますか?

  • 『月と六ペンス』(サマセット・モーム著)
    ちょっと長めですが、とてもエネルギッシュな小説ですのでおすすめです。ブック・ツイート大賞で紹介された本ですが、複数の出版社のものがあり、昔の訳書と新訳書もあり、比べて読むのもおすすめです。
  • 『パルプ』(チャールズ・ブコウスキー著、ちくま文庫、2016年)
    有名なカルト作家の小説で、遺作が復刊されました。一言でいうと「めちゃくちゃロックな小説」です。柴田元幸氏の翻訳がとてもいいので読みやすくておすすめです。
  • 『コンビニ人間』(村田 沙耶香著、文芸春秋、2016年)
    第155回芥川賞受賞作で話題となったので、読んだ人も多いと思いますが、僕がこれまで読んだ芥川賞作品の中で一番衝撃を受けました。「ずっとコンビニで働き続けていること、いい年なのに結婚していないこと等々。社会の求める状態から「やんわり」とはみ出している主人公に対する周囲の感情をエゲツナイほどリアルに描いています。これを読んで、特に悪いことをしたわけでもないのに、社会の求めてくる在り方に一致していないというだけで周囲の人からあれこれ言われる現代社会の闇を体感してほしいです。
  • 『発声と身体のレッスン—魅力的な「こえ」と「からだ」を作るために』(鴻上尚史著、ちくま文庫、2012年)
    声の発声トレーニングなどの内容が具体的に書かれていて、俳優やアナウンサーといった職業の人だけではなく、営業や人前に出る人、これから就職活動の面接に挑む学生にもおすすめです。
  • 『短所を言えたら内定が出る』(柳本周介著、パブラボ、2012年)
    こちらも就職活動に役立つもので、長所を言うことが多い就活において、興味深い内容が書かれています。なにより僕自身就活時にこの本に凄く助けられました。ぜひ読んで頂きたいです。
  • 『私とは何か「個人」から「分人」へ』(平野啓一郎著、講談社現代新書、2012年)
    ぜひとも読んで欲しい一冊です。今後の人生を生きる上で凄く参考になる考え方を得られます。

在学生へのメッセージ

世の中分からないことが大半だから、とりあえずやってみることが大事です。一つのことがうまくいかなかったとしても、行動をおこしていれば何かやっているうちに、他のことがうまくいくことがあるから、一つのこと、うまくいかないこと、失敗に固執しないことが大切だと思います。今やっていることが全部うまくいかないと思ったり、会社や大学などの所属がなくなったり、自分の希望がかなわなかった時、どこか外に出て近場のカフェでも遠くの土地にでも行ってみるといいです。自分に新しい風を吹かせる努力をすることが大事。新しい風を吹かせるために読書はコスパ(コストパフォーマンス)がいい。本を通して、うまくいかない人の”どうして"を知ることができる。そこからマイナスをプラスに変えられる。

インタビューを終えて

私達は、井上歩夢さんのお話から、様々な取り組みやチャレンジをされていたことを知り、行動力がある方だと感じました。また、一つの質問に対してその答えだけではなく、関連のある事柄についてもエピソードを教えてくださり、私達が馴染みのある言葉やちょっとした面白話もしてくださって、とても気さくな方だなあと思いました。メインの紹介文章には書きませんでしたが、大学時代の競馬の話とか水道止められたとかいうエピソードも、一人暮らしの学生にとって共感できるものがあって楽しかったです。
また、井上さんの読書量がすごくて、おすすめの本の質問でも、様々なジャンルでこの本はどんな本かあらすじを簡潔に教えてくださって、すごいなと思いました。おすすめの本は一度読んでみようと思います。
私達が特に印象に残ったことは、上手くいかなくても他のことがあるから固執することはない。新しい風を吹かす努力をすればいいとおっしゃっていたことです。私達も、何かを継続すること、挑戦することは大切なことだと思ったので、心にとどめておこうと思いました。
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