経営学部 卒業生インタビュー
株式会社六盛 会長・三代目当主 堀場 弘之 さん(1970年卒)

株式会社六盛は、明治32年(1899年)に創業し、1965年に株式会社が設立された、京料理の老舗です。お店は、平安神宮のすぐ西側に位置し、目の前に疏水があって静かで落ち着いた所にあります。スフレを提供するカフェも併設されています。
インタビュー当日、私たちはお店の前に集合しました。お店の外観は、さすがに京料理の老舗という厳かな雰囲気で、私たち学生にとっては入りづらいかも、と少し気おくれしました。が、お店の前に出ていたカフェの案内を見て、なんだか安心しました。私たちの印象ですが、他の老舗と比べて、カフェもあるという点で親しみやすいと思います。お店に入ると多くのお客様で賑わっていて、私たちのイマドキの表現で「インスタ(インスタグラム)映えしそう」な素敵な場所だと感じました。
「京都の老舗料亭の三代目当主」という言葉から、みなさんはどのような方をイメージしますか? 私たちは、訪問前は、厳格で気難しい方なのかな、とドキドキしていました。ところが、実際にお会いすると、堀場弘之様は、優しげな眼差しで、とても気さくで話しやすく、私たちの緊張もほぐれました。また、堀場さんはとても快活で、時々冗談をおっしゃったり、私たちにも質問をくださったりされましたので、インタビューは和やかな雰囲気で進みました。

インタビュアー

経営学部 在間ゼミ:天川 大毅さん、後藤 稔貴さん、佐々木 良輔さん、福岩 彩羽さん、古田 千尋さん

株式会社六盛 会長・三代目当主
堀場 弘之さん(1970年卒)

経済学部から経営学部へ移り、会計を深く学ぶ

堀場さんは、京都産業大学の第2期生として経済学部に入学されました。入学の1年後に経営学部が創設されて、経済学部から経営学部に転部され、経営学部第1期生となられました。転部された理由は、経済学部は広い範囲の勉強をするのに対し、経営学部では絞った領域を深く学べるため、お店を継ぐという観点からも、とても役立つと考えたからだそうです。経営学部では会計のゼミに所属されました。「自分の専門分野をつくって、それを深く学ぶことが大切」と話しておられました。堀場さんは、仕入れ、設備、人件費など、六盛の「お金の流れ」を管理する上で、会計学を学んだことが役立ったと実感されているそうです。

学生生活の思い出

大学時代、茶道部の活動を4年間続けられたそうです。過去には、学校のクラブ活動のテニスやブラスバンドは長続きしなかったそうですが、茶道だけは大学4年間続けられたそうです。大学設立から間もない当時は、もちろん茶室といったものはなく、教室に畳を敷いて練習したそうです。堀場さんは第2期の幹事長を務められ、その後も茶道部の幹事やOB会で、つながりはずっと続いているそうです。
私たちが学生生活のお話の中で驚いたことは、当時は学生も自動車通学が許可されていたことです。「4年間、雨の日も風の日も、自動車で通っていました。ただし、雪の日は、大変な思いをして運転して大学に着いたら、休校になっていたこともしばしばあります。」とおっしゃいましたので、思わず吹き出してしまいました。

「見覚え」は「そこに至るまでの過程」を学ぶこと

大学を卒業後、東京の築地の料理店で1年間修業されました。京都だとすぐに帰って来られるので、遠くの築地が選ばれたそうです。通常、高校卒業後3年かけて修業するそうですが、大学卒業後だったので、修業期間として認められたのは1年でした。他の人の3倍もの速さで学ばなければならず、必死で努力されたそうです。「先輩のコピーをするわけですが、材料や料理をメモして、こうすればできるなと想像しても、実際にやってみると、同じものができるわけではないのです。料理はとにかく複雑なため、とにかく技術をコピーするだけでなく、そこに至るまでの過程が大切です。そのことを学びました。」と堀場さんは話されました。

堀場さんは、修業を終えて、六盛に戻られて再び修業に入られました。そこでも、先代の料理する姿を、その過程を、見様見まねで学び続けられました。小学生の頃から料理の手伝いをしておられて、幼い頃から「見覚え」で多くのことを身に着けていかれたそうです。

「創作平安王朝料理」の開発

六盛には堀場さんが研究開発された「創作平安王朝料理」というメニューがあります。ある時お客様から「京都の昔の料理ってどのようなものですか?」と尋ねられたことが開発のきっかけだったそうです。「資料を探したところ、材料の説明が書かれている資料はありましたが、実物がわかるものはありませんでした。当時、奈良時代の料理を研究されていた料理研究家の奥村彪生先生にも相談しながら、平安時代の料理の再現に挑みました。資料は漢文で書かれていて、それを読み解くのも大変でした。」と堀場さんは話されました。料理の再現だけではなく、平安時代の机や器、お箸といった料理にかかわるものも探究されました。  「創作」という名称がつけられている理由は2つあります。第1に、資料には料理の作り方すべてが載っているわけではないので、文献に残っているものを掘り下げて、模索しながら作ったので、完全な創作料理であるということです。  第2に、味を現代風にアレンジしているということです。実は、平安時代の料理を再現して試食したところ、「まずい!」と感じたそうです。そこで、材料はそのままで味を現代風に、現代人の口に合うように置き換えたのです。そういう点からも「創作」という名称にされています。「これは私見ですが、平安時代の料理がおいしかったら、和歌にも、もっと食のことも詠まれていたのではないでしょうか? おいしくなかったのだと思うのです。」と話されていました。
「創作平安王朝料理」は、6年の歳月をかけて開発され、平成6年に完成されました。当時、「唯一、京都に残る昔ながらの平安王朝料理」として、新聞社やテレビ局から取材が殺到したそうです。料理を求めてお客様もたくさん来店され、「AKBの方が来られたこともありますよ。」とのことです。それほどメディアで大々的に取り上げられたのだなぁ、と思いました。

古典的なものを受け継いでいくことをライフワークに

京料理のお店は、「斬新派」「古典派」とその中間にある「中間派」に大別することができて、顧客のニーズが異なるので、互いに差別化され、それほど競争はないそうです。堀場さんのお父様である先代は「斬新なもの」を好まれ、スフレを提供するカフェを始められました。それに対し、斬新なものよりもむしろ「古典的なもの」「昔のままの京料理」に力を入れてこられました。上で紹介した「創作平安王朝料理」もその1つです。

古典的なもの、続いていったら希少価値があるもの、技術の継承を、ライフワークにしようと思いました。売り上げが上がらなくても続けていこうと考えました。」と話されました。六盛のメニューには、「手をけ弁当」という料理もあります。これは、人間国宝の方が作られた器を用いて、四季折々の料理を盛りつけられたものです。

「食べ残しゼロ推進」について思うこと

六盛は、京都市が推奨する「食べ残しゼロ推進店」に認定されたお店です。一般に、ご高齢の方に提供する量を少なくすることなどで、食べ残しが削減されると考えられますが、「実際は、ご高齢の方でもしっかりした量を望まれるケースもあり、そううまくはいきません。」と堀場さんは指摘されます。
工夫されていることは、食べ残されているお客様に、さりげなく、「珍しいものですよ。」「この時期にしか召し上がることができないものですよ。」などとお声がけされていることです。少しでも残りを召し上がっていただけるようにと努力した結果、食べ残しが減少し、ゴミの排出量も、わずかではあるが減少したそうです。 ただし、「制度を変えることの方が、もっと重要です。」と指摘されています。

「認定された少数の店舗で工夫をしていっても、全体としてのゴミの排出量に大きな影響を与えるわけではありません。消費期限は安全性の観点から短めに設定されています。以前は、製造年月日の記載で、消費者は五感を使い、食べられるかどうかを判断していました。そのほうがよいのではないでしょうか? 食品に対する制度から変えていくべきです。」と言っておられました。確かに、加工食品のおいしく食べられる期間を示す賞味期限についても、業界の3分の1ルールがあり、まだ十分食べられるにも関わらず、商品棚から回収されています。現在、この業界ルールの見直しが行われていますが、国、地方自治体、業界が、ルールを再検討し、制度を再設計することが必要なのだと、改めて考えさせられました。

お客様の好みや声を活かす

六盛のお客様はリピーターの方も多いそうです。お客様が召し上がった献立等を記録していて、同じ時期に来られる際には違う献立をお出ししたり、同じ食材でも違う形でアレンジしたり、器を変えたりしたり、お客様に楽しんいただけるように工夫されているそうです。

味にも流行のようなものがあり、辛い物が好まれる時代もありましたが、現在は、甘み、お惣菜では甘いと酸っぱい味が好まれている傾向があるそうです。また、国や地域によって好まれる味に違いもあります。お客様が予約される際に、お住まいの国や地域がわかれば、お客様の口に合うような味付けを工夫されるそうです。「おいしいかどうかは、お客様の口が基準なのです。一人一人に合わせられるわけではありませんが、好みを反映することを工夫しています。」と話されていました。

お客様からは、お褒めのお手紙だけではなく、お叱りのお手紙もいただくこともあるそうです。「いわゆる苦情をおっしゃるお客様は六盛のことを思ってくださっており、それを金言として受け止め、次は満足してもらえるように努力しています。」とおっしゃっていました。

お客様の中には、子供時代に両親と一緒に連れて来られたお客様が、大人になって来店されることも少なくないそうです。上のようなお客様に対する思いと工夫が六盛の魅力となって、世代を超えて愛されるお店になっているのではないかと感じました。

お店の経営での工夫

お客様への工夫以外に、経営で特に意識されていることは、仕入れと設備だそうです。料理の材料の仕入れでは、できるだけ安く、安定的に供給することが大切です。例えば、お米は、おいしく、いつでも安定した量が手に入る地域のものを仕入れているとのことです。また、設備は、メンテナンスをしっかりと行うことで長い間使えるようにしているとおっしゃっていました。

六盛のこれからについて

今後は、これ以上新しいものを始めるというより、今のまま続けていくことを大切にしたいと考えておられるそうです。
「初代はゼロから作るので、その意味では楽ですが、それを引き継ぎ、維持していく、というはとても大変なことなのです。」と堀場さんは話されました。六盛では、2代目は初代のお店を引き継ぎつつスフレのカフェという新しい方向を加え、3代目の堀場さんも、それらを引き継ぎながら、創作平安王朝料理を開発され、さらに、小中高生や大学生を対象としてマナー講座も開催されるといった新しい試みをしてこられました。特に、大学生に対しては、社会に出る前に、靴の脱ぎ方や箸の持ち方を含めた和食のマナーを身に着けてほしいという思いで取り組まれているそうです。六盛は、今後も、そういったこれまで積み重ねられたものを維持しながら、売り上げも伸ばしていこうという方向なのでしょう。

在学生へのメッセージ

転部のお話しでも紹介しましたが、「広く勉強するというよりも、一つの事により深く、専門的に勉強して、卒業後に即戦力となるような勉強をしてほしい。」とおっしゃっていました。
よく学び、よく遊べ。勉強だけでなく、よく遊び人脈を広げることも大切。」とも話されました。サークル・部活動などを通して、「いい友達をたくさん作ること」を強く勧めておられました。ご自身、50年来の友人との関係が続いておられるそうです。
最後に、「学生生活をなあなあですますのではなく、何事にも目標を持ち、諦めず、一生懸命に成せ」と私たち在学生にエールをいただきました。

インタビューを終えて

インタビューを終えたとき、改めて、堀場さんが努力家でエネルギーに満ち溢れた方だと感じました。とても有意義なお話を伺うことができ、またお会いする機会があれば、色々お話しを聞かせていただきたいと思いました。
インタビューの時に出してくださったお茶がとてもおいしかったことも、私たちの印象に強く残りました。さすが老舗なんだなぁ、と改めて感じました。

カフェコーナーでスフレを楽しみました

せっかくの機会なので、カフェに立ち寄り、スフレセットをいただきました。カフェはにぎわっていて、大きな窓から外の庭が見えてリラックスできる雰囲気でした。ゆっくりと寛ぐことができました。スフレは、甘すぎずふんわりとした食感とバニラソースがおいしく、飲み物ともマッチしていて、とても美味しかったです。
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