国際関係教員によるニュース解説!

今世界で起こっていること、日本との関係、私達の、未来について。
国際情勢を知り、世界の諸問題に対する自分なりの解を深めてほしいと思います。
このコーナーでは、国際関係の専門の教員がタイムリーな話題を学術的に紹介していきます。


難民問題に揺れるEU/正躰 朝香 教授 2018.8.01

2014年ごろから続く欧州の難民問題は、依然として深刻な状況が続いている。6月末には、NGOに救助された難民船の寄港を、受入に消極的な連立政権が発足したばかりのイタリアが拒否し、マルタも受け入れず、スペインが受け入れるまでの数日間、劣悪な船内状況のまま洋上を彷徨うという衝撃的なニュースも伝えられた。日本で報道される日もされない日も、「安全」と「自由」を求めて、アフリカや中東からヨーロッパを目指して地中海をわたる危険な賭にでる難民が毎日のようにヨーロッパの沿岸国に押し寄せる。

難民問題は2つの点で、EUを揺るがす。1つは、ヒトの自由移動への制限である。EUは「ヒト・モノ・カネ」の自由移動をその根幹とする共同体である。無秩序な難民の流入やそれに乗じた治安上の不安への対策として、通常を行われないEU域内での国境管理が復活したり、自由移動の恩恵をEU市民が感じられなくなったりすることは、結果としてEUの中心的理念である「ヒトの自由移動」へ疑念を抱かせている。

もう1つは、EU加盟国内での対立の激化である。EUは統合の深化(協力する分野が広がり、協力の程度が深まること)と拡大(加盟国が増えること)のなかで、加盟国間での利害対立や意見の不一致はありながらも、これを交渉と妥協で乗り越えてきた。しかしここ数年の難民受入をめぐる対立では妥協点が見いだせていない。日々大量の難民が押し寄せ、現在のEU規則では受入の義務を負う沿岸国(イタリア、ギリシャ、マルタなど)、難民が行き先として望む国(ドイツ、フランス、スウェーデンなど)、そして民主主義の歴史が浅く難民受入への抵抗が強く割り当てを拒否する東欧諸国(ポーランド、チェコ、ハンガリーなど)。EU域外での難民審査施設の設置、EU内での受入負担の均等化の仕組みなど、EUがここ数年制度化しようと試みている対応は、これら立場の異なる加盟国間で依然として実効的な合意点を見いだせていない。

難民受入をめぐる物理的コスト、文化的他者の受入をめぐる摩擦、これらの負担は、経済停滞が続き寛容度の下がるEU各国において、次々と右派勢力(反移民・難民、反EU勢力)の拡大を引き起こしている。難民問題は現実的負担や目に見える対立以上に、EUが数十年にわたって積み重ねてきた統合の理念や支持、加盟国間の一体感を脅かすという点において深刻な意味をもっている。

正躰 朝香 教授

国際関係論

米国のパリ協定離脱表明と、自治体や企業で進む温暖化対策/井口 正彦 准教授 2018.7.19

「自国ファースト」を掲げる米国のトランプ大統領が、地球温暖化対策の枠組みである「パリ協定」からの離脱を表明したことは記憶に新しい。同協定は米国の産業と雇用を損なうものであり、自国利益にならないというのが理由だ。しかし、このような方針とは裏腹に、米国ではカリフォルニア州を始めとした自治体や企業による温暖化対策が進んでいる。
こういった背景には、温暖化対策は経済成長を阻害するのではなく、むしろ二酸化炭素削減をビジネスにしなければ、生き残れないという認識が当たり前になってきていることがある。トランプ大統領の方針を歓迎したのは石炭産業や重工業のみであり、むしろその他の産業界からは、パリ協定離脱は海外事業や技術革新の妨げになるという批判が出ていた。米国内では、トランプ大統領の意向に関係なく、自治体や企業が「我々はまだパリ協定の中にいる」と表明し、温室効果ガス削減目標への取り組みを更に前進させる「米国の約束(America’s Pledge on Climate Change)」といったイニシアティブを設立した。現在では、温室効果ガス排出量の多い石炭は競争力を失い、太陽光などの再生可能エネルギーの普及が目覚ましい。さらに、これまで米国が温暖化対策に消極的だと批判してきた中国が、去年12月に二酸化炭素に価格をつけ、市場で取引をする排出権取引制度を導入すると発表したことで、パリ協定の削減目標達成に弾みがついた。
実は、米国はこれまで地球環境政策を牽引してきた国だった。例えば、1987年に採択されたオゾン層破壊問題を解決するためのモントリオール議定書は、米国のリーダーシップなしには実現し得なかった。そして、これを支えていたものこそ、米国企業の環境問題への自主的取り組みだった。米国は、温暖化対策においても「偉大」になれるのだろうか。今後の動きが注目されよう。

井口 正彦 准教授

グローバル・ガバナンス論

今日のロシア—遠のく民主主義/河原地 英武教授  2018.6.20

今年3月18日に行われたロシア大統領選挙では、不正投票のことが話題になった。同じ人間が二度も三度も投票する様子や、選挙管理委員会の女性スタッフが何枚も投票用紙を箱に入れている場面が、日本のテレビでも取り上げられた。しかし、そもそも大統領選挙そのものが出来合いのレースであって、公正性を欠くものだった。それは投票結果をみれば一目瞭然としている。8名が立候補したが、その結果を見てみよう。
第1位はプーチン(76.69%)、第2位はグルジニン(11.77%)、第3位はジリノフスキー(5.65%)、第4位はサプチャク(1.68%)。第5位以下は微々たる得票率なので省略する。これを見てもわかるとおり、プーチン以外に国民が国政を委ねたくなる候補者は事実上いないのだ。ロシアにおける大統領選挙は国民のためでなく、ロシアにも民主主義はあると世界にアピールするための、対外宣伝にすぎないといえよう。
では本当に、プーチン以外に人材はいないのだろうか。実は当初、有望視されていた候補者がいた。現在42歳の、反政府的な活動家ナヴァーリヌィだ。彼は現政権の汚職を糾弾し、反プーチンキャンペーンの中心人物として頭角を現してきたが、根拠のあやふやな横領や詐欺の容疑で逮捕され、これを理由に立候補資格を剥奪された。これはナヴァーリヌィに限ったことでなく、過去にも類似の事例をいくつも挙げることができる。政権に立ち向かおうとする者は当局に捕まり、犯罪者としての烙印を押され、政治の舞台から退場させられるのである。 むろん、すべての国民がこの状況に納得しているわけではない。大統領就任式を間近にひかえた5月5日、ナヴァーリヌィの支持者たちが主催する政府への抗議デモが多くの都市で行われた。参加者はそれぞれの都市で数百人から数千人に達した模様で、ロシア内務省によれば1500人以上が拘束された。
とはいえ、このようなデモの動きを変化への胎動と見ることはできない。ロシアには彼らの力を結集して立ち上がる政治家が育つ土壌がないからである。プーチンが初めて政権の座についてから18年が経ち、今後さらに6年続くが、ロシアの民主主義は確実に遠のいている。

河原地 英武教授

ロシア政治、安全保障問題、国際関係論

「エルサレム問題」をめぐって/北澤 義之教授 2018.5.28

トランプ政権によるイスラエル米大使館のエルサレムへの移転決定は、国際的な波紋を呼んでいる。ではエルサレムへの移転がなぜ問題になるのか。それは、大使館のエルサレム移転によって、エルサレムがイスラエルの首都であることを追認することになるからだ。慣例上、国交のある国の大使館は相互の首都におかれる。しかし、1947年の国連総会決議181号で、エルサレムは単独の国家の都市ではなく、中立の都市として国際的管理下に置かれることになっていた。そのため日本を含むほとんどの国は、決議を尊重して地中海よりのテルアビブに大使館を置いているのだ。エルサレムの城壁に囲まれた旧市街は3つの宗教(ユダヤ・キリスト・イスラーム)の聖地とされており、国連は宗教問題が政治問題化することを避けようとしたものと考えられる。また決議181号は、英国委任統治領パレスチナを、ユダヤ人国家(イスラエル)とアラブ人国家(パレスチナ)に分割することを決めている。イスラエルは自らの国家樹立の根拠となったこの決議に反して、1980年に「エルサレム基本法」を定め、一方的にエルサレムを首都として扱うようになったのである。他方、米国はイスラエルを独立させるべく決議181号の成立に向けて、国連の調査委員会(UNSCOP)に強烈な圧力をかけていた。現在、自ら支持した決議に反する行動を米国がとっていることは、まさに歴史の皮肉と言えるだろう。

北澤 義之教授

中東地域研究・国際関係論(ナショナリズム)

PAGE TOP