日本の真のパートナーは誰?2024.03.26

止まらない世界の経済交流

新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行(2023年5月)され、まもなく1年である。ウイルスは撲滅されたわけではなく、後遺症に苦しむ方々がいることを忘れてはならないが、日本経済はノーマルな活動を取り戻している。筆者が居住する京都市内には世界中から観光客が押し寄せ、一部の日本の輸出企業は円安効果もあり最高益を叩き出すなど、ヒト・モノ・カネの交流は確実に戻ってきている。
WTOによると2023年の財の貿易量は長引くウクライナ戦争や世界的なインフレの影響もあり、前年比1.7%増とこれまでの平均値より低くなると予想しているが、2024年は同3.0%増に回復するとしている※1。グローバル化信仰や海外市場開拓が華々しい時代は一旦落ち着いたものの、世界の経済交流が著しく減衰することはないであろう。そんな中、筆者は今回、EUが進める自由貿易協定、特に日・EU間の協定(EPA)について注目した。なぜならば、2019年にEPAが発効し、2023年に発効5年という区切りを迎えたからである。ちなみに2019年は本学国際関係学部が設立された年、かつ筆者が大学に転職した年でもあり、個人的な思い入れが強い年でもある。

伸び続ける日本とEUの貿易

さて、両地域間の財の輸出額の推移を、2019年を軸に、輸入国側の統計を使ってみてみよう(表1、2)。3年間の増減ではEPA発効前は16.8%増(日本の輸出額)、12.7%増(EUの輸出額)であったのに対し、発効後は28.0%(同)、44.3%増(同)とEPA発効後の3年間のほうが明らかに輸出額に高い伸びが認められる。本来ならば5年間比較を行いたかったが、2020年に英国がEUを離脱するという大事件を起こし、日本側の統計において2020年の統計以降英国が除去されていることから、EUの対日輸出額について2019年比の5年間の精緻な比較が難しくなってしまった事情がある。2020年のデータを見ると英国EU離脱が統計上でも大きな減少となったことが分かる。
いずれにしてもEPA発効後の両地域の貿易額は順調に伸びており、自由貿易協定の意義が確認できる。関税の譲許スケジュールは多くの品目が発効時に即時撤廃された。しかし、対EU輸出の自動車・部品、ターボジェット、バイク部品、ホタテなどの一部の品目は4年目や6年目、8年目に関税撤廃となっており、年月が経てば経つほど関税負担が軽くなる品目が増えるため、今後も両地域の貿易額は安定的に伸びていくであろう。

表1

表2

頼りになる同志国は?

EUは日本に対して日本市場のさらなる開放を求めている。2023年11月のEUレポート※2では、EU企業の政府調達参入が進んでいないことに不満を示している。また、洋上風力発電の入札に関して外国製風車が参入できるように標準・認証制度の規制緩和の促進に協力する姿勢を打ち出している。このようにEUはEPAを契機に(EU企業にとって有利になるよう)日本市場の規制緩和にも要求を強めており、そのしたたかさには目を見張るものがある。日本は世界でも有数の自由貿易協定のネットワークを有している。協定締結がゴールでは無く、スタートであり、EUのように他国の市場をあの手この手で取り込む術を身に付けたいものである。
また、「もしトラ」「ほぼトラ」と巷をにぎわす、米国の反自由貿易主義への不安が再び頭をもたげてくる。そのような事態に陥った際に、真に共闘できる同志国は誰であるのか(EUであろうか)、そのパートナー選びの巧拙が日本経済の行く末を決めるのである。


  1. Global Trade Outlook and Statistics(2024年3月21日アクセス)
  2. Register of Commission Documents (2024年3月21日アクセス)

植原 行洋 教授

国際ビジネス、欧州経済・産業、中小企業の海外展開

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