【文化学部】竹本碩太夫氏に学ぶ文楽の世界太夫・三味線弾き・人形遣いの役割とは~

2023.12.26

文化学部専門教育科目「京都の芸能」(担当:ディエゴ ペレッキア准教授)は、京都で生まれた芸能や京都の特色のある芸能に慣れ親しむことを目的に開講しています。今回は、文楽義太夫として国立文楽劇場などで活動される竹本 碩太夫(たけもと ひろたゆう)氏をゲストに招いた講義の様子を取材しました。

(学生ライター 法学部1年次 中尾 柚葉)

竹本 碩太夫氏のプロフィール

1995年北海道生まれ。2015年4月に国立劇場文楽第27期研修生となり、2017年4月に竹本 千歳太夫に入門、竹本碩太夫と名乗る。同年7月、国立文楽劇場にて初舞台。2020年度、2022年度に文楽協会賞を受賞。

はじめに、文楽の概要について説明がありました。文楽とは「人形浄瑠璃文楽」のことをいいます。人形浄瑠璃文楽は太夫・三味線・人形が一体となった総合芸術で、江戸時代初期に成立しました。人形浄瑠璃座が盛衰を繰り返し、幕末に大阪で始まった一座が中心的な存在となり「文楽」が人形浄瑠璃の代名詞になりました。2008年にはユネスコの「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に記載されたことが紹介されました。

文楽は「時代物」と「世話物」に分けられ、時代物は江戸時代から見た昔話のことで大化の改新などがテーマとして取り上げられます。現在の感覚でいう大河ドラマのようなイメージです。一方で世話物は、日常生活など当時実際に起こった出来事を演目にしているもののことを指します。世話物を現代で例えるとワイドショーのようなイメージで、大阪が舞台の「曾根崎心中」は事件から1か月後に舞台化され、大変な人気を博したそうです。

次に、文楽の世界における芸名について説明がありました。苗字にあたる「竹本」は、江戸中期に義太夫節という浄瑠璃を始めて活躍した太夫「竹本義太夫」から取っているそうです。このことから同じ苗字の人が多いので、文楽の世界でお互いを呼ぶ時には下の名前で呼ぶことが紹介されました。下の名前にあたる碩太夫(ひろたゆう)は師匠が名付けたと説明されました。

 

碩太夫氏が出演される文楽の公演は、700人~1,000人を収容できる大きなホールを会場に、マイクを用いずに演目を行います。もちろん三味線にもマイクはありません。演劇の場合は正面にステージがありますが、文楽の場合は客席にせり出した小さなステージを使用します。

 

文楽では「太夫」、「三味線」、「人形遣い」の3つの役割があります。「太夫」は物語の語り手として、場面の説明や登場人物のセリフなど、物語の全てを1人で語り分けます。例えば、小さい女の子の語りを行う場合は一本調子で話すのに対し、音の変化を大きくすることで一変し、おばあさんの語りになるのだそうです。太夫は舞台上手の「床(ゆか)」 に座った状態で物語を語り、基本的に30~40分で他の太夫に交代しますが、交代の時に立つと時間がかかり、観客が物語から現実の世界に戻ってしまうため、「床世話」という専門職が人力で移動させているのだそうです。また、太夫は床本という台本を持って舞台に出ますが、基本的に見ないとのことです。
「三味線弾き」は、太夫の横で三味線を演奏しますがただの伴奏者というわけではなく、情景描写やペース配分などの重要な役割を担います。太夫には床本という台本がありますが、三味線弾きには台本がないとのことです。
舞台上で人形を操る人のことを「人形遣い」といいます。文楽では、人形を操ることを「遣う」といいます。江戸時代は1体の人形を1人で担当していましたが、現在はリアルな動きを表現するために3人(人形の首(かしら)と右手を遣う「主(おも)遣い」、左手を遣う「左遣い」、足を遣う「足遣い」)で操っています。甲冑を付けた人形は10㎏の重さがあり、その重さを人形遣いは左手だけで支えることが説明されました。
 
碩太夫氏は男性、女性、若者、老人の声の種類を比較し、語り手としての技術を披露されました。また、文楽劇に登場する悪役の特徴である有名な「大笑い」もデモンストレーションをしていただきました。この実技のおかげで、受講生たちは、太夫の語りに必要な努力を感じることができました。
 
最後に、碩太夫氏が舞台で使用する道具を紹介されました。戯曲と語り方を筆で書き写したものを床本(ゆかぼん)といいます。先に紹介があったとおり、太夫の台本となるもので、1ページ5行で1行あたり8~9文字で記されています。黒色の文字は語る部分、赤色の文字は指示記号で、音楽でいうクレッシェンド(強調)などを意味します。床本に記載されている内容は伝承されており、江戸時代から変わっていないことが説明されました。昭和初期の頃は義太夫節が流行しており、当時は床本が書店で販売されていました。大衆向けの床本は1行当たりの文字数が多かったり、読みがなが記載されていたり、実際に使用されているものとは異なることが説明されました。
太夫が床本を置く台のことを見台(けんだい)といいます。漆塗りに蒔絵が施されたものが多いため、演目の雰囲気に合った見台を選ぶそうです。義太夫節では座って語らなければならないため、尻引(しりひき)という小さな台を使用することで、上半身を立った姿勢と同じようにすることができ、下腹部に力を入れて声を出すことができると説明がありました。
太夫や三味線弾きが着る衣装を裃(かみしも)といいます。上半身に身に付けるものを肩衣(かたぎぬ)、下半身に身に付けるものを袴といい、三味線弾きの衣装も太夫が用意するのが原則であることが説明されました。

私は取材前まで文楽とは何かを知りませんでした。今回の取材をとおして、文楽と人形浄瑠璃は同じではないことや人形の遣い方などを初めて知りました。
太夫は1人で語り分けを行いますが、実際に碩太夫氏の語り分けを聞いて声の調子の変化で誰が語っているのかが明確に変わることが印象に残りました。
文楽は毎年3月には京都でも公演が行われるそうなので、興味のある方は見に行ってみてはいかがでしょうか。

PAGE TOP