【文化学部】ジャズを聞いてみませんか?

2023.07.27

J-POPやアニソン、ロックなど多種多様な音楽のジャンルがある中でも昔から多くの人に愛されてきたジャズミュージック。長い歴史があるというイメージから、敷居の高さを感じている人もいるのではないでしょうか。しかし現在では、ロックやヒップホップの楽曲などもカバーして広く受け入れられています。
今回、文化学部専門教育科目「舞台芸術文化論」(担当:田中 里奈助教)では、音楽評論家・DJなどとして活動される柳樂 光隆氏をゲストに招き、一般からも参加者を募った特別講義が開講されました。本記事では、講義内の柳樂氏による解説を、講義内で紹介されたジャズミュージック(本記事に掲載しているリンク)とともに再構成して紹介します。ゆったりとしたひと時をお楽しみください。

(学生ライター 法学部4年次 八木 一真)

柳樂 光隆氏と田中 里奈助教
柳樂 光隆氏のプロフィール
1979年、島根県出雲市生まれ。音楽評論家。現在は、昭和音楽大学で教鞭を取っている。 21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。DJやラジオ・パーソナリティなども務めている。
—ジャズ・スタンダードとは—
はじめに、ジャズ・スタンダードとは何なのかについて楽曲を用いて解説がありました。

■1946年ジョセフ・コマズ作曲、ジャック・プリヴェール作詞、ジョニー・マーサ英詞 
 枯葉(本記事で引用している動画は1959年にビルエヴァンストリオによって演奏されたもの)

■1983年シンディ・ローパー 
 Time After Time (本記事で引用している動画は1985年にマイルス・デイヴィスによって演奏されたもの)

この2曲は全く異なる時代のジャズですが、どちらもジャズ・スタンダードに分類されます。それでは、そもそもジャズ・スタンダードとは何なのか。ジャズ・スタンダードとは、ジャズミュージシャンの定番曲のことを指します。セッションの中でしばしば演奏、録音され、時代の変化や流行によって変化したり増減したりもするのだそうです。最近では、アメリカ発の黒人差別抗議運動Black Lives Matter(BLM)を背景として、「Lift Every Voice And Sing」という19世紀の曲もスタンダードとして選出されており、時代背景や社会情勢によってしばしばジャズ・スタンダードが変化しているということが分かります。

—原曲から切り離されるスタンダード—
次に紹介されたのはこの曲です。
■1959年リチャード・ロジャース作曲、オスカー・ハマースタイン2世作詞
 My Favorite Things

■ジャズアレンジバージョン

この曲はもともと、1959年初演のミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」の劇中歌として作曲され、今でも多くの人に親しまれています。映画内で流れる原曲では、雷に怖がる子どもたちをなだめるために、主人公の家庭教師が「お気に入りのもの(My favorite things)」について歌を歌います。一方で、ジャズミュージシャンのジョン・コルトレーンによるジャズアレンジはどうでしょうか。オリジナルの雰囲気とは大きく異なっていますが、なぜここまで原曲と大きく異なったアレンジを行うのでしょうか。

—ジャズから生まれる新しいジャズ—
ジャズミュージシャンによって既存の楽曲は大きくアレンジされたりセッションされたりしてきました。その理由の一つとして、難曲をアレンジすることで演奏技術の高さを競い合ったり、セッションを行いやすくするために曲調を変化させたりしたことが挙げられるのだそうです。さらに、ジャズ・スタンダードの定番曲のコード進行を借用して、新しく作った楽曲が有名になることが柳樂氏から紹介されました。

その例として、こちら2曲が紹介されました。
■1930年ジョージ・ガーシュウィン作曲、アイラ・ガーシュウィン作詞
 I’ve Got Rhythm

■1950年代セロニアス・モンク作曲
 Rhythm-A-Ning (本記事で引用している動画は1963年にセロニアス・モンクによって演奏されたもの)

1曲目はジョージ・ガーシュウィン作曲の「I’ve Got」という、ミュージカル『ガール・クレイジー』(1930)が初出の曲です。2曲目はそのコード進行を借用してセロニアス・モンクが作った「Rhythm-A-Ning」(1957)という曲です。原曲の「I’ve got rhythm」が人気を博して以降、このコード進行はパブリックドメインのように一般に広まり、1940年代にはデューク・エリントンの「Cotton Tale」、1950年代にはソニー・ローリンズの「oleo」に使用されるなど、多くの楽曲に見られます。

—変化するスタンダード—
続いて、マイルス・デイビスとハービー・ハンコックによってジャズ・スタンダードが大きく変化したことについて解説がありました。1980年代以降、マイルスやハービーがポップスやロックの楽曲を原曲に忠実にカバーし、ジャズのシーンで高い評価を得たことによって、これまでの大幅なアレンジを主流としたり、古いミュージカルや映画の楽曲をカバーしたりしていたジャズ界隈に大きな変革をもたらしたのだそうです。その後、ブラッド・メルドーが多くのロックの楽曲をカバーしたことによって、新しいジャズ・スタンダードの動きは加速していきました。現在では、ロックやポップスだけでなく、ヒップホップの楽曲もカバーされるようになり、ジャズが広く多様化していったと、これまでの歴史と現在のジャズ・スタンダードについて解説がありました。
講義を聞く学生たちとビジターの方々
講義の様子

いかがでしたか。舞台ミュージカルから始まったジャズですが、著名な演奏家や作曲家たちの手によって、現在では広く受け入れられるようになりました。もともとはミュージカルのために作曲された音楽がジャズミュージシャンの手によってアレンジされたり、コード進行を借用して新たな音楽が生まれたりするなど、ジャズの重層性を学ぶことができました。ミュージカルの歴史記述とは異なる形で、ミュージカルの古い作品がジャズ・スタンダードの中に残っていることからは、音楽の歴史の多様な分岐を感じます。そして、その後はジャズミュージックの発展を通してロックやヒップホップなどとも接続し、新たなジャズ・スタンダードもとして加わっている点に、歴史から紐解く音楽のおもしろさを感じます。
講義内では本記事で紹介した以外の楽曲も多く紹介されました。学生と一般の受講者は柳樂氏の講義に聞き入っている様子でした。
「舞台芸術文化論」では普段、オペラやミュージカル、ボーカロイドなど、古今東西のさまざまな音楽劇のあり方を、歴史的・文化的・社会的な手がかりをもとに追究しています。普段何気なく聞いている音楽にも長い歴史と文化が備わっているので、そうした点に目を向けて音楽を聞くことも一つの楽しみ方ですね。

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