データサイエンスプログラム【基礎編】

統計学を学べば、身近な経済が分かるようになり、
深い分析にも繋げられる

経済学部 吉村 有博 准教授

【担当科目:統計学など】

「統計」とはどのようなものですか?

統計とは「調査・実験・観測を通して得られたデータ」のことを意味します。元々は、国家を治める上で必要となる人口や国土面積などを、調査を通じて集計したものが統計の始まりとされています。統治者が国家「全体」の様々な動向を把握するために、統計が生まれたようです。
統計は現在も国家の運営を支えています。政府がリードして調査した統計を「政府統計」と呼びますが、単に統計というときは政府統計を指すことが多いです。おそらく皆さんが聞いたことのある「国勢調査」をはじめ、労働力調査、家計調査、商業統計、貿易統計など、日本には数多くの政府統計があります。経済学では国や地域「全体」の個人や企業の経済活動の動向を把握する必要があるため、これまで頻繁に政府統計が活用されてきました。

「統計学」ではどのようなことを学びますか?

統計学は統計データの処理方法に関する学問です。データを用いて、社会や人にとって有益な知識を引き出す方法を学びます。集計データをただ眺めていても、それは大量の数字や文字の羅列にすぎませんから、そのままでは何も分かりません。データを役立てて何か判断を下したい場合は、データから分かることを「まとめる」必要があります。
例えば、高校教師が今年から始めた新しい授業方法によって、30人のクラスの英語の成績が変わったかどうかを知りたいとします。このとき昨年と今年の成績を集計しますが、実はデータだけからは変化はよく分かりません。ですが成績の「平均」はどう変わったのか、「ばらつき」は変わっていないのか、などのデータの「まとめ」指標を調べれば、新しい授業方法を継続すべきかを判断できるでしょう。統計学はこうした平均やばらつきといった指標の性質や注意点を学ぶことから始まります。

「統計」とはどのように役立ちますか?

統計は国家の運営を支えていますが、特にその意思決定のための判断材料として役立ちます。例えば、2020年以降に大流行した新型コロナウイルスの感染者数の統計は、地域の医療崩壊を防ぐために政府・自治体が外出自粛要請を出すかどうかの意思決定に用いられました。当時、連日のように都道府県別の感染者数がメディアで公表されていたことは記憶に新しいかと思います。
もし日本に統計を取る仕組みがなければ、直近の感染者数を正確に追跡することも、病床数の逼迫状況や経済指標の急激な変化を捉えることもできませんでした。実際、統計調査を綿密に行う体制が整っていない国では厳しい医療崩壊を回避できなかったと指摘されています。統計調査を行う仕組みを整えておくことは、国の豊かさを維持するために役立ちます。

「統計」「データ」「情報」は同じ意味ですか?

これらの言葉は似た意味で捉えられることもありますが、統計学においては少しずつ意味が異なります。
まず統計はデータと言ってよいでしょうが、例えばSNSの「つぶやき」データは何か社会的な調査のために集計したものではありませんから、統計と呼ぶことはありません。この意味では、統計よりもデータの方が広い概念と言ってよいかもしれません。
また、データは意思決定に役立つ情報をもたらすため、データと情報も似た意味に感じられますが、例えばクラスの成績をただ数値の羅列として眺めただけでは、教師はせっかくのデータを授業に活かせません。成績の平均値の変化分を計算するなど、データをうまく加工して初めて意思決定に使える情報になります。このように、データと情報もやはり同じとは言えないようですが、まさに統計学によって、この差を埋めることを期待できます。

「統計学」が経済学を学ぶためになぜ必要なのでしょうか?

身近なところでは、物価や所得をはじめとする経済指標の近年の推移やごく最近の動向を整理して、理解するために、統計学が必要です。例えば、物価が上昇しているとき、具体的にどんなモノやサービスの価格がどれくらい上がっているかを調査し、結果を整理することは重要です。私達の日常生活に直結する身近な経済を把握するために、統計学はどうしても必要です。
本格的な経済学の学びにおいても、統計学は不可欠です。経済学では、個人や企業のとる行動をシンプルなグラフや数式を用いて分析するのですが、そうした経済学の理論や仮説を実際のデータを用いて検証したり、そこで得られた結果を政府や自治体への政策提言に繋げていくことがあります。このとき、限られたデータから安定した検証結果を得るために、統計学が重要な役割を果たします。

「統計学」を学ぶと経済学部でどのようなことができるようになりますか?

経済学の基本を理解した後であれば、統計学を学ぶことで、例えば日々の経済ニュースをある程度理解し、人にも説明できるようになると思います。本学では3年次に本格的なデータ分析のための統計学(計量経済学)を学ぶことができますので、これにより経済学の理論が実際のデータと当てはまるかを検証したり、経済指標の未来予測を立てることができるようになります。
統計学の知識は4年次ゼミの卒業研究において最も活躍するでしょう。本学では多くのゼミにおいて経済の本格的なデータ分析を行うことができます。本学経済学部には実証分析を得意とする先生が多数在籍しており、多様な先生方がそれぞれの得意分野で研究をリードしてくださることと思います。また地域の課題解決フィールドワークや、経済実験、経済の歴史を扱うゼミでも統計学の知識は役立ちます。
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