新星爆発は煤(すす)だらけ?

2017.01.16

新星(詳しくは「古典新星」)は、突如、星が輝きだすように見える現象ですが、その正体は「白色矮星と普通の恒星の連星系で起きる大爆発」です。普通の恒星からガスが白色矮星表面に降り積もり、臨界量に達すると爆発を起こすのです。
年間、数個の新星が発見されていますが、新星爆発によって飛び散ったガスから微小な粒子(ダスト)が大量に作られることがあり、太陽系や他の星・惑星系の材料の供給源としても重要な天体です(図1)。神山天文台では、この新星爆発の正体や、新星爆発が銀河系の進化に及ぼす影響などを研究しています。
特に、2012年に「へびつかい座」に発見されたV2676 Ophという新星は、種々の分子が爆発したガス中で作られたことが神山天文台での観測から分かっています※1  ※2  ※3。今回、神山天文台の研究チームは、V2676 Ophにおいて、爆発で飛び散ったガス中に大量の煤(スス)が発生していたことを、世界で初めて明らかにしました。
図1:新星爆発において、高温のガスから分子が形成され、さらに複雑な分子へと化学反応が進み、最終的に塵(ダスト)が形成されると考えられています。このダストは、太陽系のような星・惑星系の材料となります。実際、太陽系でも隕石中に「プレソーラー粒子」という形で、太陽系の材料となったダストの残りが見つかっています。※クリックで拡大

古典新星V2676 Ophは、2012年3月にアマチュア天文家の西村氏によって発見された新星ですが、非常にゆっくりと明るさが変化していた特殊なタイプの新星であることが当初より分かっていました。その新星を神山天文台で集中的に観測した京都産業大学大学院理学研究科の学生さんたちの活躍によって、C2分子という炭素原子が2個くっついた分子が、新星において世界で初めて発見されています※1。これは、この新星のガスに炭素がたくさん含まれていることを暗示していました。
そこで、同大学院理学研究科・博士前期課程2年の長島さん(当時)は、国立天文台の「すばる望遠鏡」(口径8mの日本最大の望遠鏡で、米国のハワイ島にあるマウナケア山頂に設置されている)を使ってV2676 Ophを2013年に観測しました(図2)。中間赤外線と呼ばれる波長における分光観測を実施し、新星から放射されている中間赤外線のスペクトルを得たのです。その後、2014年にも同じ新星を観測し、2年間に渡る観測結果を神山天文台・河北台長をはじめとする研究チームが詳細に研究したところ、非常に大量の煤(スス)、つまり炭素から成る微粒子が生成されていたことが明らかになりました(図3)※4
これは、V2676 Ophが炭素を大量に含んでいたことの証拠です。では、なぜ、炭素が大量に含まれていたのでしょう?
研究チームでは、新星爆発の原因となる白色矮星が、炭素および酸素に富んだタイプの白色矮星(CO白色矮星)であったからだと考えています。新星爆発が起きる時、白色矮星表面につもったガスは、もともと白色矮星にあったガスと強く混じり合い、そこに含まれていた大量の炭素や酸素といった元素を含んで爆発したのだと考えられます。また、炭素の微粒子の他に、ケイ酸塩の微粒子(公園の砂場にある砂粒の小さいものと思ってください)も含まれていたことを突止めています。そして、炭素を含む巨大分子と思われる物質の存在も明らかにしました。おそらく、「C2分子→炭素を含む巨大分子→炭素の微粒子」という具合に、次第に大きなサイズの物質が形成された結果だと考えられます。このような一連のサイズ成長の痕跡が観測されたのは、今回のV2676 Ophが初めてです。

観測を主導した長島さんは、「自分が携わった観測が論文になり、嬉しく思います。」と語っています。天文学研究は、観測から成果が論文として結実するまで数年かかることもしばしばです。そのため、学部学生や大学院生が行った研究は、後輩達に受け継がれ、様々な形に発展してゆきます。神山天文台では、こうした学生たちの想いを紡いで、様々な研究成果を上げています。
 

図2:標高4200mに設置された国立天文台の口径8mすばる望遠鏡(左)と中間赤外線分光撮像装置COMICS(右)【写真提供:国立天文台】。可視光線に比べて波長が10〜20μmと長い中間赤外線は、高い標高に設置された望遠鏡でなければ十分な観測ができません。※クリックで拡大
図3:V2676 Ophの中間赤外線スペクトル(上が2013年6月20日、下が2014年5月17日(世界時)に観測されたもの)。中間赤外線は、波長が約10μmの光であり、私たちの体や周囲の物体のように絶対温度300 K(摂氏温度で30℃程度)の物体からは大量に放射されています。宇宙空間にある300 K程度の物体からも中間赤外線が放射されており、その強度の波長分布(スペクトル)を調べることで、どのような物質が存在しているのか?を調べることができます。波長11.4μmに見られるピークは、「赤外未同定バンド」と呼ばれるもので、その正体ははっきり分かっていませんが、おそらく炭素をたくさん含む巨大分子ではないかと言われています。※クリックで拡大
図4: 若い星の周りに存在するダストからの中間赤外線放射スペクトル(提供:国立天文台)。全体的な放射は、炭素質のダストによるもの。波長10μm付近の盛り上がりがケイ酸塩と呼ばれるダストによる赤外線放射。彗星のダストも同様なスペクトルを示す。新星の場合(図3)、炭素質のダストが多いことが分かる。※クリックで拡大

本研究の成果は、米国天文学会の学術論文雑誌 Astronomical Journal, Volume 153, Issue 2 (2017)「2017年2月号」に掲載されました。

タイトル: Mid-infrared Spectroscopic Observations of the Dust-forming Classical Nova V2676 Oph
     (ダスト生成した古典新星V2676 Ophの中間赤外線分光観測)
著者 : H. Kawakita, T. Ootsubo, A. Arai, Y. Shinnaka, & M. Nagashima
雑誌 : The Astronomical Journal
号 ・ 頁 : Volume 153, Issue 2,74

※1 新星におけるC2分子の世界初検出!CN分子検出は史上2例目!

※2 古典新星の「火の玉」における分子生成の謎を解明:一酸化炭素による急激な冷却

※3 太陽系の材料は新星爆発で作られた

※4
 太陽系や他の星惑星系には、炭素質のダストの他に、ケイ酸塩(酸素が含んだ鉱物)ダストが見られることが一般的です。図4は若い星の周りに観測されたダストの中間赤外線スペクトルですが、図3の新星ダストのスペクトルと違って、酸素を含む鉱物(シリカ、輝石、カンラン石)のダストによるシグナルが目立っていることが分かります。
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