ドイツでのコロナ・パンデミックの体験

私は、2019年9月1日から2020年8月31日までドイツのハンブルク市にあるマックス・プランク外国法・国際私法研究所で在外研究を行っていたため、コロナ(Covid-19(コーヴィット ノインツェーン))のパンデミックもドイツで経験しました。

2020年2月には、横浜港に寄港していたクルーズ船ダイアモンド・プリンセス号での集団感染が連日ニュースで流れて、ドイツでも関心が高まりましたが、中国や日本という遠い国の話という感じでした。しかし、2月末のカーニバルのシーズンにヨーロッパではコロナウィルスが拡大し、3月からはイタリア、スペインを始めヨーロッパ各国でパンデミックとなりました。ドイツでも3月の第2週ごろから感染の急速に拡大し、ハンブルク市では3月16日から行動制限が始まるということで、買い占めが始まっています。

ハンブルグのメインストリートの様子
ハンブルグで最も観光客に人気で、常に満席になるカフェ

ドイツ語で買い占めは、”Hamsterkauf”「ハムスター買い」というかわいい言葉です。スーパーマーケットでは、日本と同様にトイレットペーパーが品薄になったほかに、パスタとパスタソースの棚からは商品が消え、冷凍食品もほとんどなくなりました。

ドイツでは、イタリア、フランス、スペインに比べると感染の広がりはましな方でしたので、3月に開始したロックダウンでも、買物や散歩などの外出は自由にできました。それでも、早朝にエルベ川のそばで行われるハンブルク名物フィッシュ・マルクト(魚市)は、数百年以来の中止となりました。街中の繁華街も店が閉まり、閑散となりました。

買い占めにより空っぽになったスーパーのパスタ棚
休業している高級ブティック店

ドイツでは、感染症予防法に基づいてロックダウンが行われました。この法律では、国ではなく、州が法令によってロックダウンの内容を定めることになります。例えば、1.5mのソーシャルディスタンスや、スーパーマーケットなどの例外を除いた店(例えば、百貨店やレストラン)を閉めることを定め、違反した者に罰金を科すことも可能です。この点で、日本の新型インフルエンザ特措法45条が要請・指示としているのと大きく異なります。国民性もあるでしょうが、行政が取り締まることが前提ですので、 自粛警察のようなものはドイツには存在しませんでした。

高級デパートの休業のお知らせ

もっとも、ロックダウンの間でも、ハンブルク市の中心にあるアルスター湖(繁華街から歩いてすぐ)では、いつもより多くの人が散歩しており、公園でもソーシャルディスタンスはとりますが多くの家族連れが来ていました。

ソーシャルディスタンスということでは、2020年の8月4日に行われたLGBTのパレード(ハンブルク・プライド)は、歩くのではなく、自転車に乗ると自動的に前後で1.5m以上空きますので、サイクリングのパレードで行われました。

予期しなかったことばかりですが、ドイツでは貴重な経験をすることができました。普通ならば決して覚えないような、「自宅隔離」などの言葉も頻繁に聞くうちに覚えました。マスクは仮面を意味するので、「口と鼻を守るマスク(Mund und Nasenschutzmasken)」あるいは「口を守るマスク」という長い名前になります。

マスクをする習慣はドイツにはなかったため、日本のように薬局で不織布のマスクを手に入れることができませんでした。4月になって、公共交通機関、店内でのマスク着用が義務づけられるときには、布マスクを売っている店をハンブルク市のホームページで探さなくてはなりませんでした。普段はマスクなんか売らないカバンのブランド店でも手作りマスクを売っていて、面白そうなので買いました。アベのマスクは日本で批判されていましたが、ドイツにいる私からすると、布マスクを配ってくれていいなあと思っていました。

また、コロナは、他の社会問題を明らかにしました。例えば、5月にニュースを見ていると、外国からの労働者の受入が問題となっていました。その理由は・・・ドイツ人が大好きな白アスパラガスの収穫に人が足りないとのこと。また、テニーズ(Tönnies)という会社の巨大な食肉工場でパンデミックが発生した時には、そこで働く外国人労働者の劣悪な環境が社会問題となりました。

10月からヨーロッパでは再びコロナが急速に広がり、制限的なロックダウンが11月から始まりました12月のクリスマス・マーケットも中止を発表する都市が増えています。グリュー・ヴァイン(ホットワイン)を飲みながら屋台を巡ることができないクリスマスは想像できません。日常の生活が戻ったドイツを再び訪れることができる日を楽しみにしています。

 
 

渡邉 泰彦 教授

民法(家族法)


PAGE TOP