イスラエルとアラブ諸国の国交正常化をめぐって 2021.02.01

2020年の後半、アラブ4か国(UAE、バハレーン、スーダン、モロッコ)はイスラエルと次々に国交正常化を決めた。1948年にイスラエルが独立すると、アラブ諸国はこれと対立し、長年中東の紛争の焦点となった。その点からは、アラブとイスラエルとの和平は、歓迎すべきことだろう。しかし今回の合意の経緯やパレスチナの処遇などを考えると、手放しで喜ぶことはできない。

アラブ諸国とイスラエルの関係正常化

国交樹立アラブ諸国 イスラエルとの関係正常化 アラブ側の主な動機 仲介国
エジプト 1979年3月(和平条約締結) 戦争コスト・シナイ半島返還 米国
ヨルダン 1994年10月(和平条約締結) 安全保障・経済 米国
UAE 2020年8月 経済・技術 米国
バハレーン 2020年8月 経済・技術 米国
スーダン 2020年10月 テロ支援国家解除・経済支援 米国
モロッコ 2020年12月 西サハラ問題 米国

出所:筆者作成

最近の米国主導のイスラエルとの和平に関して、UAEやバハレーンは、これまでもイスラエルとの交流に前向きな国家と見なされており、それほど違和感はない。しかし、イスラエルとの関係改善には消極的であったスーダンに、テロ支援国家リストからの削除や経済協力と引き換えに関係正常化を促したことは、トランプ政権の大統領選挙のための外交的実績作りの印象が強い。
国際社会への影響に注目すると、安保理決議242(1967)のイスラエルによるパレスチナへの占領地返還という国際的義務が回避されたまま、政治的取引で和平が進められている。従来は、イスラエルが占領地返還は和平後のアジェンダであると主張するのに対し、パレスチナ人やアラブ諸国は、和平の条件として上記決議の実施を求めていた。一連の和平ラッシュに対して、パレスチナ側は強く反発し、以前の勢いは衰えたとはいえイスラエルの強硬策に反発する大衆の動向も気になるところだ。
イスラエルとアラブ諸国の「和平」が真の和解になるためには、イスラエルが占領地問題への入植政策を国際的約束にどう近づけることができるか、アラブ諸国政府が和平の目的をどのように国民に説明していくかが必要になってくるだろう。

北澤 義之教授

中東地域研究・国際関係論(ナショナリズム)

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