交通広告『その挑戦が「型やぶり」』シリーズ2

その挑戦が「型やぶり」

鳥インフルエンザから
世界を守る

京都産業大学 鳥インフルエンザ研究センター長
大槻公一教授


 動物から人に感染し、命を奪う恐れもある疾病「鳥インフルエンザ」が近年、世界中で問題となっている。その感染メカニズムや病原体の解析、国内外での防疫体制の調査・研究に30年以上前から取り組んでいるのが、京都産業大学鳥インフルエンザ研究センター長 大槻公一教授だ。

 調査を始めたのは、まだ日本で鳥インフルエンザの発生がなく、ウイルスの存在自体も知られていなかった時代のこと。鳥以外の生物にも感染し、しかも渡り鳥を介して海をも越えるという他のウイルスには見られない性質に興味深さと使命感を感じて地道な研究を続けてきた。

 「流行は追わない。しかし重要だと思われることを息長くやり続ける。それが研究者としての挑戦」。そんな信念を胸に、西日本を中心とした日本でのフィールドワークのほか、ベトナムを主な拠点に、アジアでの野鳥や渡り鳥の調査も10年以上継続して行う。大槻教授の鳥インフルエンザ撲滅に向けた地球規模での挑戦はこれからも続く。

鳥インフルエンザについて研究を始めたきっかけは?

京都産業大学
鳥インフルエンザ研究センター長
大槻公一教授

鳥インフルエンザウイルス(H7N7)

鳥インフルエンザウイルス(H7N7)

 私の専門は「獣医微生物学」という分野です。哺乳類のような多細胞生物は「兆」がつくほど無数の細胞で構成されていて、とても複雑な分野です。それに比べ、微生物というのは一つの細胞が一つの働きしかしない。これは面白いと思いました。それで獣医微生物学の道へ進んだのですが、学ぶにつれてどんどん引き込まれ、夢中になっていきました。

 その後、1971年ごろから鳥のウイルスについて研究をはじめました。当時はウイルス学を専門で研究している教室はほとんどありませんでしたし、鳥類の研究というのも盛んではなかったので、それなら自分が挑戦してみようと思ったのです。自分も何か新しいことをしなければならないと思っていたので、ちょうど良い分野でした。

 私が鳥インフルエンザの研究を始めたのは1976年頃です。ちょうどその頃にWHO(世界保健機関)が、ヒトの新型インフルエンザの出現に鳥インフルエンザウイルスが深く関与している可能性があると発表しました。他の大学の研究者とも連携し、私は山陰地方の渡り鳥の調査を行うことにしたのです。人間の病気であるはずのインフルエンザにどうして鳥が関係するのか、まったく理解できませんでしたが、論より証拠、とにかくやってみようと決意しました。

鳥インフルエンザの研究をずっと続けてきた理由は?

 30年以上近く鳥インフルエンザの研究を続けて来られたのには2つの理由があります。

 一つ目の理由は、研究すればするほど非常に興味深いウイルスだったということ。ウイルスというのは通常、宿主は限定されています。哺乳類に感染して病気を起こすウイルスは鳥類には感染しません。もちろん例外はありますが、基本的には哺乳類だけで完結します。魚類にもウイルス病はありますが、ウイルスに感染した魚を刺身にして食べても、人間がそのウイルスに感染することはありません。しかし、鳥インフルエンザウイルスは哺乳類にも感染することがわかりました。人間を含むいろいろな動物に感染する特殊なウイルスだったのです。そのようなウイルスが出現して拡大すれば、いろいろなところにとても大きな影響を与えるでしょう。研究者としてはとても大きなやりがいのある分野です。

 もう一つの理由は、アメリカ、ヨーロッパなどの諸外国ではすでに病気が発生していたので、いつか日本でも大きな問題になるという確信があったことです。鳥インフルエンザウイルスは鳥類だけではなく哺乳類に対する感染力も強かったので、人間に感染する可能性があると思っていました。いずれは日本で鳥インフルエンザが発生するだろうなと。日本中の行政機関に依頼して鶏の血清1万例以上を収集し、ウイルスに感染した形跡である「抗体」があるかどうかを調べたところ、わずかですが感染した例が見つかりました。

 当時、日本では病気が発生していなかったのですが、世界の発生状況をみて、いつか日本にも必ずくるに違いないという気持ちで研究を続けていました。

 研究の世界には、研究費の問題や世の中から注目されないという理由で、途中で諦めてしまうケースもよくあります。常に研究の流行を追っていなければなりませんが、私たちは流行なんて関係ないと思っていました。

  • 渡り鳥のフンを採取し感染状況の調査を行う

最近はどのような挑戦をしていますか?

 鳥インフルエンザ研究は大きなスケールの内容を含んでいます。大方の感染病はある国か地域だけに発生しますが、鳥インフルエンザは国を超えて地球規模で発生する国際的な病気です。

 同じ鳥インフルエンザウイルスが日本のみならず、韓国、中国、東南アジアにも広がってしまい、多くの国々に大きな被害を与えています。

 他の大学やベトナムの研究機関と共同で、10年近くハノイを拠点とした鳥インフルエンザの調査研究を行っています。ベトナムでは、鳥インフルエンザウイルスが常在化し、今でも絶えず鳥類や人での感染事例を引き起こしています。

 このような国々からどのようにしたら、鳥インフルエンザウイルスを消滅させ、鳥インフルエンザの脅威を取り除くことができるのかについて、日々研究を重ねています。ベトナムと同じ状況にある他の東南アジアや南アジアの国々、中国の鳥インフルエンザ撲滅にも、私たちの研究が役に立ち、喜んでもらえる日のくることを確信して日々研究に励んでいます。

 鳥インフルエンザ研究を開始した初期の頃は、国内限定で研究を実施してきましたが、鳥インフルエンザ防疫体制の確立には国際的な研究活動が不可欠であることを認識し、挑戦がグローバルになってきました。鳥インフルエンザに苦しむ世界中の人々のために研究を続けています。


  • ベトナム北部での調査

  • ベトナム ハノイ近郊農場での検体採取

先生にとって「挑戦」とは何ですか?

 私は流行を追っているだけではダメだと思います。自分が大切だと思うことに息長く挑戦し続けることが大事。皆がやっていることはやりたくありません。皆が見落としている、とても重要なこと。自分はそれをやろうとしてきました。流行とは関係ないことをやり続けるということですね。私にとってはそれが「挑戦」だと思います。

 しかし、研究をやっていると純粋に楽しいです。時が経つのを忘れます。誰かに強制されてやっているわけではなく、自分がやりたいことをやってきました。大変なこともありますが、好きなことだからこそ頑張れたのだと思います。これから何かに挑戦しようとしている皆さんにはぜひ、流行を追わず、自分がコレだと思えるものを見つけてもらいたいと思います。

掲載期間2013年6月〜

鳥インフルエンザ研究センター

鳥インフルエンザ研究センター

全地球的に深刻な社会問題である高病原性鳥インフルエンザについて、ウィルスの実態調査や病状解析を行い、鳥インフルエンザ撲滅を目指した対策確立のために研究を行う。


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