第1話 京育〜錦で育む京都の心

子どもたちに「ほんまもん」を伝えたい

 京の台所・錦市場。田中真理(経営・3)が所属する経営学部井村直恵ゼミでは、この錦市場をテーマに、調査を行ってきた。京都を代表する商店街だが、観光地化が進み、地元客が減少するという問題を抱える。

 「このままでは錦が担ってきた京の食文化が消えてしまう。将来の顧客となる子どもたちに、その良さを伝えたい」

 そこで田中らが考えたのが、錦の食材を使った食育企画「京育(きょういく)」である。子どもたちが、錦市場で珍しい食材を探したり、実際に食べたりしながら、錦に親しむ内容には、井村ゼミ生29人の想いが詰まっていた。

 だが、企画案をまとめるまでは苦労の連続だった。授業のない朝や夕方に自主的に集まってはアイデアを出し合った。「子どもたちが飽きない仕掛けにしなきゃダメ」「人に教えるためには自分が知識を身につけなきゃダメ」。井村准教授からは厳しい指導を受けた。市場の人たちからヒントをもらおうと、錦市場にも足しげく通った。

 田中らの熱意に市場も応える。「『ほんまもん』を伝えられるなら」と、錦市場商店街振興組合が食材費の助成を約束してくれたのだ。企画説明から始まり、田中らが錦市場に足を運んだのは20回を超えていた。

チームで取り組んだ充実感は苦労を上回った

 子どもたちに錦市場の魅力を伝えるイベント企画「京育」は、8月10日、 いよいよ本番を迎えた。4月に準備を始めてから4か月間の集大成だ。

 当日の朝、リーダーの一人・田中真理(経営・3)に不安はなかった。連日徹夜でメンバーと相談を重ね、できる限りの準備はしたつもりだったからだ。

 「あとは参加する子どもたちが楽しんでくれるかどうか……」。成功を祈り、本番に臨んだ。

 参加した小学生は23人。イベントには、錦市場での食材探しや、錦の食材とスーパーの食材の食べ比べなど体験型の内容を盛り込んだ。この日のために、市場は、夏に手に入りにくい棒ダラを、わざわざ北海道から取り寄せてくれていた。

 子どもたちは普段見ることの無い食材の連続に目を輝かせる。田中らは予想以上に敏感な反応に驚いた。「錦の魅力が伝わったかな」。準備の疲れも吹っ飛ぶほどの達成感に包まれていた。

 リーダーとして「はじめのうちはメンバー間の温度差解消に悩みました」と田中は振り返る。しかし、こうも続けた。「チームで何かを一から作りあげる充実感は、苦労を上回りました」と。実施後、錦市場からは「次回はいつ?」 との声が寄せられている。

読売新聞朝刊 2010年10月23・24日 掲載

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