タンパク質局在化装置関連遺伝子の新たな翻訳一時停止因子を発見 「Nucleic Acids Research」に掲載
2021.02.03
京都産業大学生命科学部 千葉 志信 教授(タンパク質動態研究所所員)の研究グループは、タンパク質局在化装置関連遺伝子の上流にコードされた新規翻訳一時停止因子を新たに3つ同定し、これらの因子が自身の翻訳伸長を制御するメカニズムの一端を明らかにしました。翻訳一時停止因子の分子進化の理解につながり、未だ明らかになっていない細胞の機能調節への関与についての解明が期待できます。
リリース日:2021-02-03
本件のポイント
- タンパク質局在化装置関連遺伝子の上流にコードされた翻訳一時停止因子を新たに3つ同定し、これらの因子が自身の翻訳伸長を制御するメカニズムの一端を明らかにした。
- これまで、翻訳一時停止因子が生物界に普遍的に存在し、様々な生物において細胞の機能調節に関与することは分かってきていたが、詳細については解明されていない。
- 本研究成果は、翻訳一時停止因子の分子進化の理解につながり、未だ明らかになっていない細胞の機能調節への関与についての解明が期待できる。
概要
京都産業大学生命科学部の千葉 志信教授の研究グループは、自身の合成(翻訳)を行うリボソーム(※1)に働きかけ、その翻訳伸長(※2)を一時停止させるタンパク質(翻訳一時停止因子)を新たに3つ同定しました。様々な解析から、いずれも、合成途上の新生ポリペプチド鎖(※3)がリボソームと相互作用することで翻訳の一時停止を引き起こしていることを見出しました。さらに、そのアミノ酸配列の一部に類似性があることや、その配列が、翻訳一時停止においても極めて重要な役割を果たしていることも明らかにしました。このことは、異なる翻訳一時停止因子間に共通の分子機構が存在していることを示唆しています。
背景
タンパク質は、生体内のほとんどの生命現象に必須の重要な分子です。生物は数千から数万種類もあるタンパク質の設計図(遺伝子)をそれぞれが持っており、すべての生物の細胞内でリボソームという分子装置がタンパク質を合成しています。多くのタンパク質は、合成が完了し、立体構造を形成した後に生理機能を発揮します。ところが近年、合成途上の新生鎖の状態で生理機能を発揮する「機能性新生鎖」と呼ばれるユニークなタンパク質がいくつも見出されました。これらは、合成後に生理機能を発揮する一般的に知られたタンパク質とは全く異なる様式で働く、新しいタイプのタンパク質です。この機能性新生鎖は、自身の合成(翻訳)を行うリボソームに働きかけ、その翻訳伸長を一時停止させる性質を共通に有しており、「翻訳一時停止因子」とも呼ばれます(図1)。多くのものは、細胞内の環境変化に応答して遺伝子発現制御を行い、細胞の機能を調節します。中でも、タンパク質局在化装置(※4)の活性を監視し、その恒常性(※5)を維持する機能性新生鎖が、これまで3種類見出されていました。そのうちのひとつ、枯草菌MifM(※6)は、同研究グループが過去に見出したものです。
今では、真正細菌(バクテリア)などの微生物からヒトや植物などの真核生物に至るまで、生物種のカテゴリーを超えて様々な翻訳一時停止因子が見出されています。つまり、翻訳一時停止因子は生物界に普遍的に存在し、様々な生物において、細胞の機能調節に関与することが分かってきています。しかしながら、どれほど多くの翻訳一時停止因子が生物界に存在し、その分子機構や生理機能にはどのような共通性や多様性があるのかについては、まだはっきりしていません。これらの疑問の答えを得るためには、未だ見つかっていない翻訳一時停止因子をできるだけ多く見つけ、その分子機構や生理機能を解明し、それぞれを比較し共通性や多様性を明らかにする必要があります。
今では、真正細菌(バクテリア)などの微生物からヒトや植物などの真核生物に至るまで、生物種のカテゴリーを超えて様々な翻訳一時停止因子が見出されています。つまり、翻訳一時停止因子は生物界に普遍的に存在し、様々な生物において、細胞の機能調節に関与することが分かってきています。しかしながら、どれほど多くの翻訳一時停止因子が生物界に存在し、その分子機構や生理機能にはどのような共通性や多様性があるのかについては、まだはっきりしていません。これらの疑問の答えを得るためには、未だ見つかっていない翻訳一時停止因子をできるだけ多く見つけ、その分子機構や生理機能を解明し、それぞれを比較し共通性や多様性を明らかにする必要があります。
研究成果
研究チームは、情報生物学の手法を用い、400以上の真正細菌のゲノム情報から、過去に見出された翻訳一時停止因子と共通の特徴を持つ遺伝子の網羅的な探索を試みました。そこから得られた候補遺伝子について、遺伝学および生化学的な解析を行い、3つの新規翻訳一時停止因子(それぞれ、ApcA、ApdA、ApdPと命名)を同定することに成功しました。ApcA、ApdAは放線菌から、また、ApdPは根粒菌からそれぞれ見出されました。翻訳一時停止の分子機構を明らかにするために、網羅的な変異解析を行い、いずれも、合成途上の新生ポリペプチド鎖が、翻訳伸長の途上で自身を合成するリボソームと相互作用することで翻訳の一時停止を引き起こしていることを見出しました。また、新規に見出されたこれら3種の翻訳一時停止因子が、互いに類似のアミノ酸配列を有していること、さらに、この類似配列が、いずれの因子の翻訳一時停止においても極めて重要な役割を果たしていることも明らかにしました(図2)。
今後の展望
今回の発見は、類似の配列を持つ翻訳一時停止因子が、細菌の進化の過程で独立に生じたことを示唆する初めての報告例であり、この新たな知見は、翻訳一時停止因子の分子進化の理解につながり、未だ明らかになっていない細胞の機能調節への関与についての解明が期待できます。
用語の説明
1 リボソーム
細胞内でmRNAの塩基配列に基づいてタンパク質を合成する装置。
2 翻訳伸長
リボソームがmRNAの塩基配列(遺伝情報)に基づいてタンパク質を合成する過程を翻訳といい、その過程でアミノ酸がひとつずつ連結されてタンパク質の鎖が作られていくことを翻訳伸長という。
3 新生ポリペプチド鎖
ここでは、リボソームによって合成されつつあるタンパク質の合成中間体を指す。アミノ酸がひとつずつ連結されてタンパク質ができてゆく、その合成途上のタンパク質。
4 タンパク質局在化装置
ここでは、タンパク質の生体膜を超えた輸送や生体膜への挿入を媒介する装置を指す。
5 恒常性
何かを一定に保つ性質のこと。ここでは、タンパク質局在化装置の活性を常に生育に十分なレベルに保つことを指す。
6 MifM
千葉らが過去に発見した機能性新生鎖。枯草菌細胞内で、翻訳一時停止機構を巧みに利用し、特定のタンパク質の局在化装置の活性を監視し、その働きを一定に保つ機能を担う。
論文情報
タイトル | 「Search for translation arrest peptides encoded upstream of genes for components of protein localization pathways」 (タンパク質局在化装置関連遺伝子の上流にコードされた翻訳一時停止因子の探索) |
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掲載誌 | 英国科学誌「Nucleic Acids Research」(オンライン版) |
発行年月日 | 2021年1月27日(日本時間) |
著者 | 崎山 歌恋1、下川-千葉 直美、藤原 圭吾、千葉 志信2(京都産業大学) (1筆頭著者、2責任著者) |
DOI | 10.1093/nar/gkab024. |
謝辞
本研究は、科研費(16H04788, 20H05926, 26116008, 19K16044)の支援を受けて実施しました。
- お問い合わせ先
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内容について:生命科学部 千葉 志信 教授(タンパク質動態研究所所員)
〒603‐8555 京都市北区上賀茂本山
E-Mail:schiba@cc.kyoto-su.ac.jp
取材について:京都産業大学 広報部
Tel.075-705-1411