生命科学部 西田 貴明 准教授と首都大学東京などの研究グループが、もと湿地の水田が洪水の発生を抑制すること、を明らかにしました。

本研究成果は、3月18日付で、Elsevierが発行する英文誌Ecological Indicatorsに発表されました。

研究概要

近年、台風や豪雨、さらにはそれに伴う洪水や土砂災害といった大規模な自然災害が毎年のように発生し、我々の生活を脅かしています。しかし、防災ダムや堤防をはじめとする防災インフラの多くは老朽化し、人口減少社会に突入した日本では、近い将来に既存防災インフラの維持管理すら困難になることが予想されています。生態系を利用した防災・減災(Ecosystem Based Disaster Risk Reduction:Eco-DRR)という考え方は、増大する自然災害への対応策として期待されています。
首都大学東京大学院 都市環境科学研究科の大澤 剛士 准教授、京都産業大学 生命科学部の西田 貴明 准教授、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの遠香 尚史 主任研究員の研究チームは、日本全国に存在する生態系:半自然環境である水田に注目し、長期的な洪水災害の発生データと、水田の立地条件の関係を検討することで、表層水を受け入れやすい地形条件下に水田が存在する、すなわちもともと湿地であったと考えられる場所に水田が存在すると、陸水由来の洪水が発生しにくい傾向があることを明らかにしました。このことは、水田が食料生産の場としてだけでなく、Eco-DRRを実現する防災インフラ、すなわちグリーンインフラ(注)としても利用できる可能性を示しています。このように半自然環境が持つ防災機能を明らかにすることは、自然災害に強い土地利用計画に繋がることが期待できます。

ポイント
(1)自然環境を利用した防災、減災という考えは、近年増加している自然災害に対抗できるアイディアです。
(2)もともと自然湿地だった場所に立地する水田は、洪水発生を抑制する機能が高いことが示唆されました。
(3)本研究の結果は、水田という半自然環境を防災インフラとして利用できる可能性を示しています。

用語解説

(注)グリーンインフラストラクチャー:
自然の有する機能をインフラと捉え、それを利用して社会資本整備等を進めるという考え方。日本ではグリーンインフラ研究会によって「自然が持つ多様な機能を賢く利用することで、持続可能な社会と経済の発展に寄与するインフラや土地利用計画のこと」と定義された。

掲載論文

論文タイトル High tolerance land use against flood disasters: How paddy fields as previously natural wetland inhibit the occurrence of floods
掲載誌 『Ecological Indicators』
DOI 10.1016/j.ecolind.2020.106306
研究体制 首都大学東京、京都産業大学、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの共同研究
著者 Takeshi Osawa、Takaaki Nishida2、Takashi Oka3

※1首都大学東京、2京都産業大学、3三菱UFJリサーチ&コンサルティング

謝辞

本研究は、環境研究総合推進費4-1805「グリーンインフラと既存インフラの相補的役割-防災・環境・社会経済面からの評価」の助成を受けて実施されました。
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