植物のゲノムが傷ついた際に活性化される、SOG1を介した転写ネットワークの制御メカニズムを解明

2017.12.06

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メディア掲載研究総合生命科学部プレスリリース

リリース日:2017-12-06

生態進化発生学研究センターの木村成介教授(総合生命科学部)と愿山郁研究員らのグループは、モデル植物のシロイヌナズナを用いて、植物のゲノムDNAに二重鎖切断(DNA損傷)が生じた際に、SOG1転写因子のリン酸化部位が増えると、DNA複製の停止、DNA修復、プログラム細胞死、細胞分化などのDNA損傷応答反応が徐々に強くなり、その結果、植物がDNA損傷に対して耐性を示すことを明らかにしました。
本研究成果は12月6日付けのAmerican Society of Plant Biologistsの米国学術であるTHE PLANT CELL(online版)に掲載されました。

研究内容・成果

生物の遺伝情報を担っているゲノムDNAは、自然放射線、太陽からの紫外線、または代謝過程に生じる活性酸素などによって常に損傷を受けています。遺伝情報を正確に維持するためには、傷ついたゲノムDNAを速やかに正確に修復しなければなりません。そのために細胞は、ゲノムDNA上に生じた損傷を認識すると、そのシグナルを多くの因子に伝達し、様々な応答反応を活性化するといったDNA損傷応答機構を保持しています。モデル植物であるシロイヌナズナでは、ゲノムDNAに損傷が生じると数百の遺伝子の転写量が変化します。この転写制御を統括しているのがSUPPRESSOR OF GAMMA RESPONSE 1 (SOG1) 転写因子であり、このダイナミックな転写ネットワークの活性化によって、DNA複製停止、DNA修復、プログラム細胞死、細胞分化といった様々な応答反応が活性化されます。しかしこのような多彩な応答反応を、SOG1という一つの転写因子がどのようにして制御しているのかは明らかではありませんでした。
そこで研究グループは、DNA損傷に応答してSOG1がリン酸化されることに注目し、SOG1のリン酸化とDNA損傷応答の関係を明らかにする事を目的として研究を行いました。まず、SOG1のリン酸化部位の候補となっていた5カ所のセリン-グルタミン(SQ)をアラニン-グルタミン(AQ)に一つずつ置換し、リン酸化部位を1〜5カ所に変化させたSOG1リン酸化変異体を作製しました(図1:1SQ ~ 5SQ)。

          図1.SOG1リン酸化変異体の構造 数字はSQが位置するアミノ酸部位

そしてこれらSOG1のリン酸化変異が、DNA損傷(ゼオシン処理)に応答した転写ネットワークの活性化に与える影響について、次世代シークエンス解析により網羅的に調べました。その結果、SOG1のリン酸化の数が増えるにつれ、徐々に転写が誘導される遺伝子群と徐々に抑制される遺伝子群の大きく二つに分かれる事が示されました(図2)。

図2.SOG1リン酸化変異体における、DNA損傷に応答した転写レスポンスDNA損傷誘導剤(ゼオシン)で処理した場合と処理していない場合で発現量に違いがあった遺伝子を示している。
1SQ→5SQの順にSOG1リン酸化部位が多くなる。白:発現量が高い。赤:発現量が低い。

その詳細をさらに解析すると、DNA修復や細胞周期の停止に関わるような遺伝子群の転写は徐々に誘導され、DNA複製や細胞周期の進行にかかわる遺伝子群の転写は徐々に抑制されていました。実際、ゼオシン(DNA損傷を引き起こす試薬)を含んだ培地で生育させると、根でDNA複製が停止し、根の伸長が徐々に抑制されていることが示されました(図3)。さらにプログラム細胞死や細胞分化に関しても、SOG1のリン酸化の数が増えるにつれ徐々に誘導されていることも明らかになりました。 本研究により、植物のDNA損傷応答の要となる転写ネットワークをSOG1が厳密に制御していることが明らかになりました。

図3.SOG1リン酸化変異体の根における、DNA損傷誘導剤(ゼオシン)に対する感受性
リン酸化部位が多くなるにつれ(1SQ→5SQ)、根の伸長が抑制されている。
スケールバー:1cm 図はすべてYoshiyama et al.(2017)を一部改変したもの

今後の展開

近年、植物が土壌汚染や病原菌感染、また低温ストレス条件にさらされた時にもDNA損傷応答が重要であるといった報告がなされています。よって本研究の成果は、放射線照射や紫外線などによって生じるDNA損傷に強い植物の開発にとどまらず、様々な環境ストレス条件下でも生育可能な植物の開発にまで発展すると考えられます。今後の研究の展開により、深刻化する農作物の生産性向上や環境問題の解決につながると期待されます。

掲載論文


論文タイトル:Increased Phosphorylation of Ser-Gln Sites on SUPPRESSOR OF GAMMA RESPONSE 1 Strengthens the DNA Damage Response in Arabidopsis thaliana
(シロイヌナズナSOG1のセリン-グルタミン部位でのリン酸化が増えるとDNA損傷応答が強くなる)
著者:Kaoru Yoshiyama, Kaori Kaminoyama, Tomoaki Sakamoto, Seisuke Kimura
 
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