生命のエネルギー変換を司る酵素タンパク質が従来と異なる相互作用で機能することを解明
2016.09.20
京都産業大学 生命科学研究科の馬場みほ里さんと東京大学工学系研究科野地研究室は、回転することで生命のエネルギー変換を司る酵素タンパク質が、鍵と鍵穴の例えで説明できない相互作用で機能することを明らかにしました。生命におけるエネルギー変換の仕組みの一端が解明されるとともに、タンパク質の人工設計に繋がる重要な知見を得ることができました。
回転分子モータータンパク質である V 型もしくはF 型のATP アーゼは、分子中心を貫く棒状の回転軸タンパク質の回転により、生命のエネルギー通貨であるATP の合成、細胞内部のpH 調整、細胞内の酸性小胞の酸性化などを担います。この回転運動は、中心回転軸を取り囲む球状の固定子部分での構造変化が回転軸に伝わることで起こります。従来、特定のアミノ酸残基間の相互作用や、鍵と鍵穴的な厳密に形に依存した相互作用により固定子から回転軸に力が伝わるとされてきました。
ところが、まったくアミノ酸の相同性がない外来の棒状分子をV 型 ATP アーゼの固定子部分に入れたところ、ATP の加水分解エネルギーによりこの棒状分子が回転しました。同じことがF 型ATP アーゼを使った実験系でも再現されました。
このことにより、固定子と回転軸の間の相互作用が、従来考えられているような厳密なものではないことが明らかになりました。人工的に作成した棒状分子が回転軸として働きうることが示され、人工分子モーターの設計に繋がる重要な知見が得られました。
研究の背景
結果
展望
生命の仕組みを理解するには、酵素タンパク質の機能を知る必要があります。タンパク質を設計し作ることは容易でなく成功例もほとんどないが、それはタンパク質の設計原理が理解されていないからです。今回の研究成果は、タンパク質の機能が従来考えられてきたより「*ロバスト」であることを証明しました。F1/V1の固定子部分のロバスト性を利用して、たとえばカーボンナノチューブなどの機能性素材を回転軸として機能させることができれば、自立運動するナノマシンになりえます(補足資料2)。タンパク質設計原理の理解が進めば、人工分子モーター、人工酵素、人工抗体などの産業応用可能な人工タンパク質の合成に繋がることが期待されます。
*ロバストネスまたはロバスト性とは、ある系が応力や環境の変化といった外乱の影響 によって変化することを阻止する内的な仕組み、または性質のこと。ロバストネスを持つような設計をロバスト設計、ロバストネスを最適化することをロバスト最適化という。
補足資料
補足資料1
c, d は、Forgac M. Nat. Rev. Mol. Cell. Biol. 8, 917-29 (2007) より引用
補足資料2
- お問い合わせ先
-
京都産業大学 広報部
〒603‐8555 京都市北区上賀茂本山
Tel.075-705-1411
Fax.075-705-1987
kouhou-bu@star.kyoto-su.ac.jp