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生命科学の力で、食料問題は解決できる?

世界の人口は年々増加しており、今後いかに食料を確保していくかが 大きな課題となっています。
これに対し、生命科学はどのようにアプローチできるでしょうか。

葉緑体の遺伝子組換えが
栄養支援、食料問題解決につながる。

「遺伝子」と聞くと細胞の中にある核を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし遺伝子を含むゲノムは、葉緑体やミトコンドリアにも存在します。特に葉緑体には同じゲノムが多数存在し、遺伝子組換えでこのゲノムに適当な遺伝子を導入すると、植物の栄養素やストレス耐性を飛躍的に高められると期待されています。実際私は、レタスの葉緑体にダイズのフェリチン※1遺伝子を組み入れて、葉の鉄分を3倍増させることに成功しました。また、除草剤や強い光などのストレスでも育つタバコの栽培にも成功しており、葉緑体の遺伝子組換え技術を他の作物にも応用できないか、研究の裾野を広げています。

葉緑体は母性遺伝をするので、ゲノムは母親のみから子孫に伝わり、組み換えられた遺伝子は花粉から環境中へ拡散されません。これが、核の遺伝子組換えとの大きな違いです。環境を脅かすことなく、栄養価の高い、厳しい環境にも強い作物を作ることができる。そんな可能性を秘めているのが葉緑体の遺伝子組換えなのです※2。 世界には鉄欠乏症をはじめとする栄養障害で苦しむ人が多くいます。さらに、地球の人口は今後もさらに増加すると考えられており、この先いかに食料を確保していくかが国際的な課題となっています。しかし、葉緑体の遺伝子組換えの実用化が進めば、世界の栄養失調、食料危機の解決も夢ではないと考えています。

※1 鉄を貯蔵する働きを持つタンパク質
※2 葉緑体と同様に、ミトコンドリアも母性遺伝の性質を持つ。しかしサイズが小さいなどの理由から緑葉体と同じ方法では遺伝子組換えが難しい。最近はゲノム編集などの新しい実験方法が開発され、実用化に向けた研究も進んでいる

生命科学部 産業生命学科
寺地 徹 教授

専門分野:植物分子遺伝学、植物オルガネラゲノミクス

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