発生細胞生物学(中村)研究室の大学院生スントンスィットさんらが、
細胞を酸性培養液に浸すとゴルジ体がバラバラになることを発見

 2014年2月、分化した体細胞を酸性条件で培養すると、細胞の初期化が起こり多能性幹細胞になるという報告が注目を浴びました。この報告の真偽はともかく、酸性条件で培養すると細胞にどのような変化が起きるのか?これまで詳しい研究報告はありませんでした。発生細胞生物学(中村)研究室のスントンスィットさん(大学院工学研究科2年次)、中小路暢公さん(2014年総合生命科学部卒)、大迫志帆さん(総合生命科学部4年次)と石田竜一さん(プロジェクト助教)達は、金沢大学、長浜バイオ大学との共同研究により、細胞を酸性培養液に浸すとゴルジ体がバラバラになり、細胞内のタンパク質輸送の不全が起こることを突き止めました。この反応を利用して、細胞の増殖や生育を制御する技術を開発すれば、がんなどの疾病の治療に応用できるかもしれません。

 本研究の成果は、2014年9月23日付けでExperimental Cell Researchのonline版に掲載されました。

掲載論文名

Low cytoplasmic pH reduces ER-Golgi trafficking and induces disassembly of the Golgi apparatus(細胞質pHが低下すると小胞体-ゴルジ体間の輸送が低下しゴルジ体が分散する)

著者

スントンスィット・ジーラワット(京都産業大学)、山口陽子(金沢大学)、田村大介(金沢大学)、石田竜一(京都産業大学)、中小路暢公(京都産業大学)、大迫志帆(京都産業大学)、山本章嗣(長浜バイオ大学)、中村暢宏*(京都産業大学)(*責任著者)

研究概要

 細胞外のpHは急激な運動やがん細胞の増殖など生理的、病理的な条件で局所的に顕著に低下することがわかっています。しかしながら、このような細胞外pHの低下に細胞がどのように反応するかは、あまり研究されて来ませんでした。今回、私達のグループは細胞を低いpHで培養すると、細胞質のpHが急激に下がること、また、それに伴ってゴルジ体が顕著に分散することを発見しました。ゴルジ体は、分泌タンパク質や細胞表面の膜タンパク質に糖鎖を付加するなどの加工を行う工場として、また、加工の済んだタンパク質を選別配送する物流拠点として機能し、これらの機能を通じて細胞の増殖や運動を制御しています。したがって、ゴルジ体が分散すると、これらの機能に異常を来すことが予想されますが、確かに、ゴルジ体が分散すると同時に、小胞体-ゴルジ体間のタンパク質輸送も著しく低下していることがわかりました。また、細胞質pHの低下によって、ゴルジ体のホスホリパーゼA2が活性化し、ゴルジ体を引きちぎって分散させているらしいことも明らかとなりました(図1)。この低pH処理による細胞反応は、細胞が周りのpHの低下に適応して生育・増殖するために役立っているのかもしれません。この反応を利用して、細胞の生育・増殖を制御する技術を開発すれば、がんなどの疾病の治療に応用できるかもしれません。

図1 細胞外pHの低下によるゴルジ体分散機構のモデル

(左)通常のpHでは、ゴルジ体はダイニンなどのモータータンパク質の働きによって中心体付近に集合します。さらにRabタンパク質の働きによって、膜が融合してつながり、リボン状の構造を作ります。(右)細胞外のpHが低下すると細胞質のpHが低下します。
細胞質のpHの低下により膜から突起を生成させるホスホリパーゼA2(PLA2)の働きが活性化し、キネシンやMYO18Aなどのモータータンパク質と協調することで、ゴルジ体が引きちぎられて分散するものと考えられます。

 
PAGE TOP