彗星を紫外線・可視光線・近赤外線の波長で観測すると、彗星核の氷に含まれていた様々な分子(と、それが太陽紫外線で壊れてできる原子・分子)による輝線が無数に観測されます。これらの分子輝線をしっかりと分離して個別に分析するには、「高い波長分解能」(より細かい波長まで分解する能力)が必要です。こうした観測を行う天文観測装置を「高分散分光器」と言います。しかし、より細かく波長を分解すればするほど、装置で光を検出する感度が下がってしまうため、多くの光をあつめることができる8mクラス大口径望遠鏡に設置されることが一般的です。
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これまででにいくつかの研究成果をホームページ等でお知らせしたとおり、神山宇宙科学研究所では太陽系外から飛来した恒星間天体 3I/ATLAS の観測的研究を推進しています。今回、神山宇宙科学研究所の河北秀世 副所長(理学部 教授)を含む国際研究グループは、 3I/ATLAS を可視光線波長域をカバーする高分散分光器 UVES※1(欧州の8m口径望遠鏡 VLT に設置)を用いて、長期間の継続観測にもとづく研究成果を発表しました。観測は、2025年8月から2026年2月まで実施され、期間中、OH、NH、CN、C3、CH、C2 といったラジカル分子(および、鉄、ニッケル原子)からの輝線が検出されています。これらの観測結果を通じて、3I/ATLAS と太陽系の彗星との詳細な比較が可能となりました。とくに、通常、太陽系の彗星において検出される NH2 は UVES による観測でも検出されておらず、NH2スペクトルのモデル計算結果からも、先に発表した本学 神山天文台での観測結果と矛盾ないことがわかりました(2026年3月3日 ニュース「恒星間天体3I/ATLASはアンモニアが欠乏していた:太陽系とは異なる"彗星"の多様性が明らかに!」)。
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図1でもわかるように、太陽系の彗星だけを見ても、各種分子の組成比には多様性があり、過去の研究で彗星のグループ分けなどされていました。しかし、3I/ATLAS の観測結果は、この恒星間天体が極端に異なる特徴を持っていることを示しています。一方、過去に観測された恒星間天体 2I/Borisov については、太陽系の彗星における多様性の範囲に入っていたことから、ひとくちに恒星間天体といっても実に様々な起源があることを示唆しています。このことは、3I/ATLAS の鉄、ニッケル原子の輝線が、太陽系の彗星に比べて極端に強いことからも明らかです(図2)。
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高分散分光観測データには、様々な微量成分の輝線も含めて多くの情報が記録されており、究極的な観測手法のひとつです。今回の観測成果は、そういう意味で 3I/ATLAS の素性を詳細に調べることができた、と言えます。一方、多くの高分散分光器は比較的狭い範囲をスリット状に(細長い長方形の区画で)区切って、その中の光だけを分析しています。波長分解能は低くても広い範囲が観測できるような観測の重要性もあり(2026年8月20日 ニュース「恒星間天体アトラス(3I/ATLAS)は太陽系の彗星とは似て非なる!〜イタリア・パドバ大学との共同研究で、アトラス彗星に多量の鉄およびニッケルを検出〜」)、彗星の研究には、それらを組み合わせた観測が必要です。今回の成果について、恒星間天体にくわしい神山宇宙科学研究所の渡部所長は「神山天文台での初期の観測における 3I/ATLAS のアンモニア関連成分の組成異常を確認しただけでなく、C2やCNなど炭素系の分子についても、これまでの太陽系の彗星と異なる値を示す重要な結果だ。今後、その解釈や起源について、さまざまなアイデアが提案されるだろう」とコメントしています。
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本研究成果は、米国天文学専門誌『Astronomy and Astrophysics』に掲載されます(Aravind et al. "High-resolution optical spectroscopy reveals the distinctive volatile composition of the interstellar comet 3I/ATLAS")。論文のプレプリント(arXiv:2609.26577v1)も閲覧ください。
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用語解説
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※1 UVES(Ultraviolet and Visual Echelle Spectrograph)
ヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡VLTに搭載されている高分散分光器。天体から届く光を波長ごとに細かく分けることで、天体の化学組成や運動などを詳しく調べることができます。紫外線から可視光、近赤外線にかけての広い波長域(約300~1100 nm)を、高い波長分解能で観測できます。
関連リンク
- 2026年3月3日 ニュース「恒星間天体3I/ATLASはアンモニアが欠乏していた:太陽系とは異なる"彗星"の多様性が明らかに!」
- 2026年4月15日 ニュース「恒星間空間からきた彗星の太陽接近前後の変化を捉えた!~すばる望遠鏡がとらえた3I/ATLASのCO2/H2O比~」
- 2026年8月20日 ニュース「恒星間天体アトラス(3I/ATLAS)は太陽系の彗星とは似て非なる!〜イタリア・パドバ大学との共同研究で、アトラス彗星に多量の鉄およびニッケルを検出〜」
- 2026年09月16日 ニュース「世界最大級の望遠鏡がとらえた恒星間天体3I/ATLAS ― ガスの空間分布から明らかになった特異な金属組成と遅いガス膨張」
- 河北秀世(神山宇宙科学研究所 副所長/理学部 教授)
- 渡部潤一(神山宇宙科学研究所 所長)

