2026.08.20

恒星間天体アトラス(3I/ATLAS)は太陽系の彗星とは似て非なる!〜イタリア・パドバ大学との共同研究で、アトラス彗星に多量の鉄およびニッケルを検出〜

恒星間天体とは、私たちの太陽系の外から飛来した天体です。惑星や小惑星、彗星などが太陽の万有引力によって引っ張られ、太陽のまわりを周回するのに比べると、恒星間天体は太陽の近くまで近づいたとしても再び遠ざかり、2度と戻っては来ません。これまで人類が目撃した恒星間天体は3例だけでしたが、その3例目となった3I/ATLAS(アトラス)彗星は、昨年7月に発見された後、同年10月後半に太陽にもっとも近づき、明るくなりました。その後、太陽から急速に遠ざかり続けています。この貴重な機会を逃さぬよう、世界各地の天文台や宇宙望遠鏡がこぞって3I/ATLAS彗星を観測・研究しています(図1)。

これまで神山宇宙科学研究所でも、神山天文台の荒木望遠鏡を使った観測研究、そして国立天文台のすばる望遠鏡を使った観測研究で成果を出してきました(2026年4月15日 ニュース)。これまでに、太陽系の彗星と比べて3I/ATLAS彗星にはアンモニアが欠乏している可能性や、二酸化炭素の割合が多めであることなどを明らかにしてきました。今回、イタリアの研究グループとの共同研究によって、新たに鉄やニッケルといった金属原子が大量に検出されたという成果を得ることができました。その量は、太陽系の彗星で見られる量を大きく上回るものです。

そもそも鉄やニッケルといった金属は、太陽系の彗星においては塵(ダスト)に多く含まれていると考えられてきました。実際、太陽にきわめて接近した彗星のダストの尾は溶けて蒸発し、鉄やニッケルの原子が放出されていることが分かっていました。このとき観測で得られた鉄とニッケルの成分比は、太陽のガス組成比とほぼ一致しており、太陽系のもととなった物質の成分比を反映していると考えられてきたのです。しかし、2021年に欧州の研究者らによって、太陽の熱でダストが溶けないような太陽から離れている彗星でも、鉄やニッケルの原子が彗星コマ(ガスやダストからなる大気)の中に検出され、議論となりました。観測で得られた鉄とニッケルの成分比は、太陽のガス組成比と一致しなかったのです。ダストが起源ではないとすれば、これらの鉄やニッケルはいったいどこから来たのでしょうか。現在では、これらは金属原子を含む分子が彗星氷に含まれており、それらがガスとして放出された後に、分子が壊れて金属原子が露わになるのだと考えられていますが、どのような分子から放出されるのかについては、いまだに議論が続いています。

このように現在注目が集まっている彗星の鉄およびニッケルですが、それらが出すシグナル(輝線)は、可視光線より波長の短い紫外線の波長域に多く見られます。この度、京都産業大学では、イタリアのパドバ大学から大学院生を短期で受け入れ、イタリアのAsiago天文台で観測された3I/ATLAS彗星の紫外・可視光波長域の分光スペクトルについて共同研究を行いました(図2)。人類史上2番目に発見された恒星間天体である2I/Borisovにおいても、これら鉄、ニッケルの原子ガスは検出されていましたが、太陽系の彗星との際立った違いはありませんでした。しかし、3I/ATLAS彗星は違いました。極端に鉄、ニッケルが多く検出されたのです。水に対する相対比では、一般的な太陽系の彗星の数十倍以上と推定されます。このような特異性が3I/ATLAS彗星に見つかるとは、彗星研究者は誰も想像していなかったことです。海外の他の望遠鏡を用いた研究でも同様の成果が得られつつありますが、今回の研究では広がった彗星コマをより広範囲にカバーした観測を行ない、不確定性の少ない議論ができた点が特筆されます。その原因については、将来の研究に委ねられていますが、太陽系の彗星とは極端に異なる環境で生まれたことは間違いないでしょう。どのような化学反応が3I/ATLAS彗星の氷を作ったのか、世界中の研究者が注目しています。

この研究成果は、査読付き天文学誌「Astronomy and Astrophysics」に2026年7月30日付(世界時)で掲載されました (Mura et al. 2026, "Spatial Profiles and Scale Lengths of Nickel, Iron and CN on Interstellar Comet 3I/ATLAS")。

彗星研究の第一人者である神山宇宙科学研究所の渡部 潤一 所長は「まだサンプルが少ない恒星間天体のひとつが太陽系と全く異なる環境で生まれたことを示唆する、驚くべき発見です。今後も見つかると予想される恒星間天体の多様性がわかってくれば、それらの成分の差から生まれ故郷の環境の差を明らかにしていく研究にも発展していくかもしれません。その意味でとても楽しみです。」と述べています。

今後も、神山宇宙科学研究所の研究成果にご注目ください。

図1:3I/ATLAS 彗星
(写真撮影:津村光則氏)

図2:3I/ATLAS 彗星の紫外・可視光線波長域のスペクトル。観測されたスペクトルには一般的な彗星で強く観測される CN 分子の輝線が波長 388 nm 付近に見られます(緑色のハッチ)。●印は、鉄やニッケルの出す輝線のパターンを理論的に再現したもので、観測と良く一致しています(鉄:オレンジ、ニッケル:青)。一般的な太陽系彗星では、鉄やニッケルの輝線はもっと微弱であり、このように強くはありません。

図3:3I/ATLAS彗星における鉄・ニッケルとCNの生成率の比較。横軸はCN分子の生成率、縦軸は鉄(Fe)とニッケル(Ni)を合わせた生成率を示します。赤点は太陽系の彗星、青点は3I/ATLAS彗星を表しています。3I/ATLAS彗星では、CNに対する鉄・ニッケルの相対量が太陽系の彗星より著しく高く、組成比として100倍近くに達する可能性があります。こうした鉄・ニッケルの過剰はVLT/UVESなどによる観測でも先に報告されていますが、本研究ではロングスリット分光により、彗星コマ内での空間的な広がりも調べた点が重要です。

論文詳細

題名 Spatial Profiles and Scale Lengths of Nickel, Iron and CN on Interstellar Comet 3I/ATLAS
(恒星間彗星3I/ATLASにおけるニッケル・鉄・CNの空間分布とスケール長)
著者

Alessandra C. Mura, H. Kawakita, F. La Forgia, G. Cremonese, M. Lazzarin, P. Cambianica, A. Farina, H. Kobayashi, F. Manzini, G. Munaretto, P. Ochner, Y. Shinnaka, K. Tsujimoto

※本学所属者に下線

掲載雑誌 Astronomy and astrophysics
DOI 10.1051/0004-6361/202660649

本研究は科研費「基盤研究B(課題番号:JP26K00771、研究代表者:河北秀世)」により実施されました。

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