恒星間天体3I/ATLASはアンモニアが欠乏していた:太陽系とは異なる"彗星"の多様性が明らかに!

2025年11月30日にNASAのハッブル宇宙望遠鏡で撮影された恒星間彗星「3I/ATLAS」
(画像クレジット:NASA, ESA, STScI, D. Jewitt (UCLA). Image Processing: J. DePasquale (STScI))
京都産業大学は2026年4月1日付で、世界的に著名な天文学者である渡部 潤一(わたなべ じゅんいち)氏を「神山宇宙科学研究所」所長としてお迎えする予定ですが、就任前にもかかわらず、さっそく、渡部氏が専門とする彗星科学の分野で世界的な成果を本学より発信できることとなりました。それは、私たちの太陽系の外からやってきた謎の天体、恒星間天体に関する成果です。
私たちの太陽系には太陽や惑星だけでなく、小惑星や彗星といった小天体が無数に存在しています。彗星はH2Oの氷や砂つぶ・塵(ちり)を含んだ「核」をもち、太陽に近づくことで表面が暖かくなってガスや塵を放出します。そのため、ぼおっとした姿(コマ)と「尾」が見られるという特徴があります。彗星は太陽系が誕生した約46億年前から残る「生きた化石」であり、太陽系の起源をさぐるために重要な天体です。
一方、私たちの太陽系以外にも惑星や小天体をともなった星が、わたしたちの銀河系には多く存在すると考えられており、他所の星の周りをまわっていた彗星が放り出され、たまたま私たちの太陽系にやってくることがあります。それが「恒星間天体」です。現在までに、恒星間天体であるとはっきり確認されているものは3つあります。最初の天体は2017年に発見され、1I/ʻOumuamua(オウムアムア)と名付けられています。次が、2019年に発見された2I/Borisov(ボリソフ)、そして3番目が2025年7月に発見された3I/ATLAS(アトラス)です。3I/ATLASは2025年10月29日に太陽に最接近し、その後、永遠に太陽から離れる軌道をたどっています。
京都産業大学の神山天文台(神山宇宙科学研究所)では、2025年11月下旬から12月上旬までの間に3夜、この恒星間天体3I/ATLASを口径1.3m荒木望遠鏡と可視光・低分散分光器LOSA/F2を用いて観測することに成功しました。その結果、恒星間天体3I/ATLASは、一見したところ、可視光波長域では太陽系に通常見られる彗星とよく似たスペクトルを示していることがわかりました。これは、3I/ATLASに含まれる氷成分が、太陽系の彗星と大きくは違わない、ということを示唆しています。可視光波長域には、CN、C3、C2といった分子の発光と、酸素原子による発光(酸素原子の禁制線:[O I])が見られています。これらは、太陽系の彗星でも一般的に見られるものです。ちなみにここで発光しているCN分子は、もともとHCN分子が彗星核の氷中にあり、ガスとして放出されたHCN分子が太陽の紫外線によってCN分子とH原子に壊れてできたものと考えられています。発光している酸素原子も、もともとはH2O分子だったものが、同様に太陽の紫外線で壊れてできたと考えられます。しかし、くわしく調べてみると、3I/ATLAS彗星では、太陽系の彗星には一般的に見られるNH2分子が極端に欠乏しているということもわかりました。NH2分子は、彗星氷に含まれていたアンモニア(NH3)が太陽の紫外線で壊れてできると考えられますので、3I/ATLAS彗星の氷中にはアンモニアが欠乏していると言えます。NASAの宇宙望遠鏡JWSTなどでも太陽系の彗星とは異なるガス成分の兆候が他の分子について報告されており、今回の神山天文台での観測結果も、3I/ATLAS彗星が誕生した他所の星の周囲環境が、太陽系とは異なっていた可能性を示唆しています。

現在も次々と世界中で3I/ATLAS彗星に関する成果が報告されている中、京都産業大学がいちはやく世界トップレベルの研究施設と並んで成果を上げることができたことは、本学の研究施設・研究力のレベルの高さを物語っています。本研究成果は、米国天文学会誌 The Astrophysical Journal Letters に掲載される予定です。論文の著者のひとりである渡部 潤一・神山宇宙科学研究所長(予定)は今回の成果について、次のように語っています。
アンモニアが欠乏しているという特徴がわかったときにはワクワクしました。恒星間天体は天文学でも新種に属します。今後、同種の天体が続々見つかり、それらにどんな特徴があるかがわかってくることで、逆に太陽系がどのくらいユニークなのかが明らかになるかもしれません。天文学の最先端を走る、京都産業大学 神山宇宙科学研究所の今後の活躍に、ぜひご期待ください。

論文詳細
論文の詳細情報は、以下の通りです。著者には本学理学研究科の学生(辻本倖さん・物理学専攻1年次生)や神山宇宙科学研究所のメンバーが含まれています。とりわけ辻本さんは、観測データの取得および解析において中心的な役割を担っています。京都産業大学では、学部生・大学院生を問わず、最先端の研究に挑戦できる環境が整っています。
| 題名 |
Post-Perihelion Optical Low-Resolution Spectroscopy of Interstellar Comet 3I/ATLAS (近日点通過後の3I/ATLAS彗星の可視光低分散分光観測) |
|---|---|
| 著者 |
河北 秀世(京都産業大学)*責任著者 辻本 倖(京都産業大学) 新中 善晴(京都産業大学) 小林 仁美(株式会社フォトクロス/京都産業大学 客員研究員) 大坪 貴文(産業医科大学) 渡部 潤一(国立天文台) |
| 論文誌 | The Astrophysical Journal Letters(印刷中) |
本研究は科研費「基盤研究A(課題番号:JP21H04498、研究代表者:河北秀世)」、「基盤研究B(課題番号:JP23H01234、研究代表者:大坪貴文)」、京都産業大学神山宇宙科学研究所、神山天文台の支援により実施されました。