世界最大級の望遠鏡がとらえた恒星間天体3I/ATLAS ― ガスの空間分布から明らかになった特異な金属組成と遅いガス膨張
神山宇宙科学研究所の河北秀世 副所長(理学部 教授)を含む国際研究グループは、恒星間天体3I/ATLAS※1 について新たな観測成果を報告しました。研究グループは、2025年12月9日(世界時)に、米国・マクドナルド天文台の口径10mホビー・エバリー望遠鏡に搭載された可視・面分光装置VIRUS※2 を用いて3I/ATLASを観測しました(図1)。
観測の結果、広がった彗星コマ※3 の中に、太陽系の彗星でも一般的に見られるCN分子、C3分子、CH分子、C2分子に加えて、非常に強い中性鉄原子(Fe I)と中性ニッケル原子(Ni I)の輝線を検出しました。鉄やニッケル原子は太陽系の彗星からも検出されていますが、その輝線は通常非常に弱く、高い波長分解能を持つ分光器を使わなければ検出が困難です。これに対して3I/ATLASでは、比較的低い波長分解能のVIRUSでも明瞭に確認できるほど強い鉄とニッケルの輝線が見られました。特に3525 Å のNi I輝線は、彗星で代表的なCN分子の発光よりも強く見えるほどでした(図2)。
3I/ATLASから強い鉄やニッケルの輝線が検出されることは、これまでの別の観測からも報告されていました(2026年8月20日 ニュース)。今回の観測の大きな特徴は、彗星コマの狭い一部分だけではなく、広い範囲にわたってガスの空間分布を調べたことです。その結果、これまでに報告されていた、太陽系の彗星と比べて鉄・ニッケル原子が多いという3I/ATLASの特異な性質を、よりコマの広い範囲で確認することができました。さらに、彗星コマ中のガスの膨張速度は、同じ太陽距離にある太陽系の彗星とくらべて半分程度であることがわかりました。この結果は、電波望遠鏡を用いた別の観測とも整合しています。
彗星のように空間的に広がった天体では、核付近の狭い範囲だけの観測から全体像を推測するだけでは、その性質を十分に理解できない場合があります。今回の研究は、彗星コマを広い範囲で観測し、広がったガスの空間分布の全体像を調べることの重要性を示す成果です。
神山宇宙科学研究所からは、恒星間天体に関する研究成果が今年だけで既に3件出版されており、今回の成果が4件目となります。これは、神山宇宙科学研究所が太陽系の彗星のみならず、太陽系外から飛来した恒星間天体の研究においても、世界的な拠点のひとつになっていることを物語っています。彗星科学の世界的な権威である神山宇宙科学研究所の渡部所長は「太陽系の彗星だけでなく、恒星間天体においても、当研究所が最先端研究をリードしつつあることを示す貴重な成果のひとつです。今後の活躍にも是非、期待してほしい」と述べています。
本研究成果は、米国天文学専門誌『The Planetary Science Journal』に掲載されます(Cochran et al. "IFU Observations of Comet 3I/ATLAS = C/2025 N1 (ATLAS) using the Hobby-Eberly Telescope with the VIRUS Instrument")。論文のプレプリント(arXiv:2609.01785)も閲覧ください。
用語解説
※1 恒星間天体 3I/ATLAS
太陽系の外から飛来した天体です。2017年に発見された1I/ʻOumuamua、2019年に発見された2I/Borisovに続き、史上3番目に確認された恒星間天体です。3I/ATLASは2025年7月に発見され、同年10月に太陽へ最接近しました。
※2 可視・面分光装置VIRUS
分光器は、天体から届く光を波長ごとに、いわば虹のように分けて調べる装置です。通常の分光観測では、天体の細長い範囲(スリット)から届く光を分光します。今回使用したVIRUS(Visible Integral-Field Replicable Unit Spectrograph)は「面分光」と呼ばれる方法で、空のある範囲について、位置ごとのスペクトルを同時に取得できます。今回の観測では一つの面分光ユニットを使用し、約50秒角×50秒角の範囲を観測しました。この特徴によって、3I/ATLASのコマの広い範囲について、ガスの種類だけでなく、その空間分布まで調べることができました。
※3 彗星コマ
彗星が太陽に近づくと、核に含まれる氷が昇華し、ガスや塵が放出されます。核を取り囲むように広がったガスや塵の領域を「コマ」と呼びます。

彗星の模式図。(画像クレジット:国立天文台)
論文情報
| 題名 | IFU Observations of Comet 3I/ATLAS = C/2025 N1 (ATLAS) using the Hobby-Eberly Telescope with the VIRUS Instrument |
|---|---|
| 著者 |
Anita Cochran, Gregory Zeimann, Emmanuel Jehin, Hideyo Kawakita, Adam McKay ※下線は本学関係者 |
| 掲載雑誌 | The Planetary Science Journal |

