2021.04.30

特集

京都産業大学ラグビー部の魅力が詰まった本「楽志が実る日~大西健の47シーズン~」に込められた若者へのメッセージ

著者である宮部氏(卒業生)が若い人にこそ読んでもらいたいと語る一冊

2021年4月20日、京都産業大学の開学と同時に創部したラグビー部の魅力が詰まった本「楽志が実る日~大西健の47シーズン(京都新聞出版センター 1,760円 税込み)」が発売になりました。著者は、本学卒業生で京都新聞記者の宮部真典氏。記者として20年近くラグビー部を取材され、1973年から2019年まで47シーズンにわたり監督を務められた大西健元監督(京都産業大学名誉教授)の指導哲学や歩みを、チームの歴史や卒業生の活躍とともに紹介する1冊にまとめられました。宮部氏の「ラグビーファンや関係者はもちろんだが、特に若い人(学生)に読んでもらいたい」との言葉に込められた真意を探りました。

著者である宮部氏(卒業生)が若い人にこそ
読んでもらいたいと語る一冊

ラグビーの魅力は?

プレーの迫力やフィジカル的な強さも魅力ですが、やはり一番の魅力は「メンタル」の部分だと思います。ラグビーは激しく接触するスポーツですが、ラグビー選手であっても恐怖を感じています。しかし、選手は仲間の代表であるという気持ちと責任を果たすために、さまざまな恐怖や試練を乗り越えてグラウンドに立っている。それこそが、ラグビーの魅力だと思います。

ラグビーでは、実はやさしい人が集まっているチームが強いんです。仲間がピンチになる場面で真っ先に駆け寄るような人。自分がどれだけつらく苦しくても、一歩踏み出して仲間を助けようする人が集まるチームが強いんです。そのような人間関係の強さ、チームワークとも少し違う責任感、自分が大学を代表しているという責任感が必要で、チームが勝利すればそれは全部員の勝利になる。そのような気持ちを感じてプレーしているということが、ラグビーの良さだと思っています。

タイトルの「楽志(らくし)」に込められた意味

「日本一」に向けて選手と共に夢を追った大西監督(当時)

大西元監督が若い頃に自分の指導に限界を感じて諦めそうになった時に、比叡山延暦寺で千日回峰行を成し遂げた叡南俊照師から『楽志』という言葉をいただいたそうです。意味は『志を楽しもう』。目標達成に向けて一生懸命頑張っている人ほど思い悩み、苦しむことになりますが、大西元監督も「京都産業大学が日本一になる」という目標に向けて頑張る中で、常に「その道のりすら楽しんでみよう」という姿勢を大切にされていました。
実際は日本一になっていないので、本当のことを言うとまだ「楽志」は実ってないことになりますが、「いずれ実ってほしい、実らせたい」との思いを込めてタイトルにしました。

京都産業大学ラグビー部の魅力である『ひたむき』とは?

100本以上におよぶスクラム練習をした後、居残り練習でも押し続ける

京都産業大学ラグビー部の魅力は「チーム理念」にあると思います。それは『いついかなる場合もチャンピオンシップを目指す集団であること』、そして『何事にも学生らしく一生懸命ひたむきに取り組むこと』。ここで大切なキーワードは『日本一』と『ひたむき』という言葉だと思います。
『日本一』を目標に掲げるチームはたくさんありますが、口で言うだけなら誰にでもできます。京都産業大学ラグビー部の価値は、『日本一』という目標を単なるスローガンで終わらせず、学生らしく『ひたむき』に本気でチャレンジし続けてきたことに意味があります。『ひたむき』にプレーする選手の姿が多くの人の心を打ち、応援されてきた理由でもあります。 この『ひたむき』な姿勢は、練習の時に最も表れます。京都産業大学の練習は特に厳しいと言われていますが、試合に出る選手だけでなくスタンドで応援する部員やマネージャーも含めた全員が、試合に勝つために『ひたむき』に頑張っている。このような空気を背負って、仲間を代表する15人が戦う。もちろん相手があるので毎試合勝てるわけではないんですが、部員の1人目から90人目までが一生懸命練習することがチームの力になる。それが京都産業大学の『ひたむき』な姿であり、このチームの魅力だと思っています。

自分を成長させてくれる存在

ノーサイド(試合終了)後はライバルチームの健闘を称える

京都産業大学のライバルとして大阪体育大学を取り上げています。同じ頃に創部し、「同志社を倒すのは自分たちだ」と監督同士も、選手同士もライバル意識を燃やしていました。お互い絶対に負けない気持ちでプレーするので、観ている方がハラハラするくらいに激しく、毎年白熱した試合を繰り広げました。
そんなライバル関係にある両校が、全国大学選手権で関東の大学と対戦する時に、お互いに試合前の送り出し(ロッカーからグラウンドに出ていく時に気合いを入れること)をやったんです。普段は激しくぶつかり合うライバルですが、打倒関東という意味では仲間でもある。練習が厳しくて苦しい時や、気持ちが入らない時でも、大阪体育大学のジャージを思い浮かべると力が湧いて頑張れたこともあったでしょう。ライバルとは自分を苦しめる嫌な存在なんだけど、結果的には自分を成長させてくれる存在でもあるわけです。

印象に残っている卒業生アスリート

3人挙げるとすれば、元ラグビー日本代表の廣瀬佳司さん(1996年経済学部卒、トヨタ自動車所属)、元メジャーリーガーの平野佳寿さん(2006年経営学部卒、オリックス・バファローズ所属)、リオデジャネイロオリンピック女子マラソン日本代表の伊藤舞さん(2007年法学部卒、大塚製薬所属)ですね。
廣瀬さんは現在、京都産業大学ラグビー部の監督ですが、私が取材をした時は日本代表の選手でした。パスを受けて走るのが専門のバックスの選手ですが、耳が潰れて変形しています。フォワードの選手はスクラムを組みすぎて変形することがあるんですが、バックスの選手では珍しいことです。でもそれは、廣瀬さんが一生懸命にタックルにいったという証なんです。 廣瀬さんはワールドカップに3度出場していますが、2003年のオーストラリア大会で、日本代表が激しいタックルを連発したことを評価され、現地で『ブレイブ・ブロッサムズ(勇敢な桜たち)』と称えられました。
廣瀬さんはさほど体が大きくなく、性格も温和な方なんですけど、グラウンドに出ると人が変わったように熱いプレーを見せる。どうしてそんなにタックルするのかと聞いたら「責任感です」と。
司令塔にあたるポジションなので、「自分がタックルに行かないと、誰も自分を信頼してついてこない」と言っていました。とても京都産業大学らしい選手だったなと思っています。

2人目の平野さんは、鳥羽高校時代から取材をしていました。鳥羽高校は甲子園に出場する強豪校でしたが、当時の平野さんはエース級ではなく、ベンチに入れるどうかくらいの選手でした。それでも大学に入ってからスケールの大きな投手に成長しました。先日、通算700試合出場を達成しましたが、メジャーリーグやオリックス・バファローズで活躍している姿を見ていると、大学時代に時間をかけて体のケアや走り込みをしていたことなど、地道に努力を続けられるということが長くプレーできている秘訣なのかなと思っています。話をしてもとても気さくですし、大学時代に伸びたというところも含めて京都産業大学らしい選手だと思います。

3人目の伊藤さんは、京都新聞が毎年1月に京都市内で開催している「全国都道府県対抗女子駅伝」の徳島県チームのメンバーとして長く取材をしてきました。伊藤さんは本当に頭が下がるくらいの努力家で、レースでもずっと我慢し耐えて、最後に勝つという粘り強い人です。
廣瀬さんと平野さん、そして伊藤さんには共通項があって、3人とも高校時代はそれほど有名な選手ではありませんでした。その3人が京都産業大学に来て大きく成長した。おそらく劣等意識というか、「自分はこのままでは終わりたくない」「もっと頑張りたい、頑張れるはずだ」と思って入学し、良い指導者に出会って自分の才能を大きく開花させた。そして、今も頑張っている。 才能ある人が活躍するのを見るのも爽快感がありますが、3人の人生を取材していくと、人には真似できない努力を続けてきて結果を出していく姿に、こちらも勇気が出ます。そのような理由で、特にこの3人が印象に残っています。

大学時代の経験が仕事に影響を与える

学生時代はローバースカウト部に所属していたんですけど、そこで自分なりに一生懸命仲間たちと活動に打ち込み、苦労し学んだことが、今でも原点だと思っています。体育会のクラブだったのでかなりハードに活動していました。先輩も後輩も同級生も一緒になって、濃密な時間の中で鍛えられました。新聞記者もさまざまな関わり合いの中で仕事をしていきますが、学生時代の経験が大きく影響しています。
今でも本気で思ってますからね、あの時間が自分の原点なんだと。

京都産業大学の後輩に向けたメッセージ

出版しようと思った動機でもありますが、チームの歴史を正確に記録して、しっかり書いておくことが伝統につながると思っています。歴史や伝統とは、誰のためにあるのか? 私は「今の人のためにある」と考えています。特に今回は、昔と同じように懸命に日本一を目指して頑張っている、現役のラグビー部員のためになればと思って書きました。
チームの歴史や伝統を作った「過去」という時間は最初から「昔」だったわけではなく、「今」という時間が長い年月をかけて続くことで形作られてきました。「今」という時間の中で『ひたむき』に取り組んできた人がたくさんいて、そうやって積み重ねた時間が歴史や伝統となった。それは「今」を生きる現役学生たちの教訓や道標となって励ますだろうし、時には戒めにもなる。どれほど過去に素晴らしい実績があっても、京都産業大学ラグビー部でプレーできるのは「今」の選手しかいませんから。

伝統校の慶応義塾大学にも『ひたむき』に立ち向かう

ラグビー部以外の学生にも、京都産業大学には本気で日本一を目指し『ひたむき』に挑戦し続けていたチームがあるということを知ってもらえたらと思います。そして、自分の興味がある分野に向き合った時、大きな目標に立ち向かう時、ラグビー部に負けないように頑張ろうと思ってくれればうれしいです。
歴史や伝統にこだわるのは、今の人たちの刺激になってほしいという思いが根底にあります。今回は、人生をラグビー部に捧げた「大西健」という指導者のロマンを中心に書きましたが、そのロマンを現役学生たちに引き継いでいってほしい。ヨーロッパには「ロマンは3世代、100年続いてこそ本物」という言葉もあるそうです。この本を通してその大切さを伝えることができ、「今」を生きる若い人たち、学生のみなさんのパワーになればと願っています。

宮部真典氏プロフィール

1967年、愛知県豊橋市生まれ(54歳)。
1986年、京都産業大学経営学部に入学し、ローバースカウト部に所属。3年次には主将を務めた。1991年、京都新聞社に入社し、木津支局、社会部などを経て1998年から運動部に配属。2016年から運動部長・論説委員を務め、2020年から東京五輪・パラリンピック報道室長を兼務。「ワールドマスターズゲームズ2021関西」京都市実行委員会幹事会委員。

4年に1度開催される「ラグビーワールドカップ」を何度も現地で観戦するラグビー好きで、過去に5大会を観戦している。(イングランド、オーストラリア、ニュージーランド、イングランド、日本)

ラグビーワールドカップに出場した本学卒業生・指導者

大会 開催年 ホスト国 出場選手
第2回大会 1991年 イングランド
フランス
ウェールズ
スコットランド
アイルランド
田倉 政憲さん(1989年経済学部卒)
前田 達也さん(1991年経済学部卒)
元木 由記雄さん(京都産業大学ラグビー部GM)
第3回大会 1995年 南アフリカ共和国 田倉 政憲さん(1989年経済学部卒)
吉田 明さん(1994年経営学部卒)
廣瀬 佳司さん(1996年経済学部卒)
元木 由記雄さん(京都産業大学ラグビー部GM)
第4回大会 1999年 ウェールズ 吉田 明さん(1994年経営学部卒)
廣瀬 佳司さん(1996年経済学部卒)
大畑 大介さん(1998年経済学部卒)
元木 由記雄さん(京都産業大学ラグビー部GM)
第5回大会 2003年 オーストラリア 廣瀬 佳司さん(1996年経済学部卒)
大畑 大介さん(1998年経済学部卒)
元木 由記雄さん(京都産業大学ラグビー部GM)
第7回大会 2011年 ニュージーランド 田中 史朗さん(2007年経営学部卒)
第8回大会 2015年 イングランド 伊藤 鐘史さん(2003年経済学部卒)
田中 史朗さん(2007年経営学部卒)
山下 裕史さん(2008年経営学部卒)
第9回大会 2019年 日本 田中 史朗さん(2007年経営学部卒)

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