2021.11.16
カルチャー漆って、オシャレでスグレモノ!新プロジェクトを立ち上げた下出祐太郎教授と成田智恵子助教に突撃インタビュー

京都産業大学には、京都の伝統文化に携わる教員がたくさんいます。その中でも、文化学部京都文化学科の下出祐太郎先生は、京都迎賓館にあるプラチナ蒔絵の飾り台「悠久のささやき」や、今春発売のカシオの蒔絵の腕時計などを手がけ、蒔絵師として活躍されています。卓越した技能者を厚生労働相が表彰する「現代の名工」にも今年度選ばれました!!

漆器=英語では「japan」

——漆の新しいあり方を提案するプロジェクトを立ち上げられたと聞きました。きっかけは何だったのでしょうか。
下出先生:漆は最強の天然塗料です。塗ると器や道具の強度が増し、水にも強くなる。だから何世紀も前から東アジアで使われてきたんですね。漆器の上に漆で文様を描き、金や銀の粉末を蒔いて触っても大丈夫なように加飾したものが蒔絵です。京都で1200年以上の歴史をもち、蒔絵の漆器を海外では「japan」と呼ぶんですよ。
ところがいまやプラスチックなどの工業製品の誕生により、使われる機会が少なくなってきました。漆器は天然素材なので身体にやさしく、使い捨てのプラスチックとは違ってゴミ問題とも無縁。何より見た目が美しく、使うときの手ざわりが心地いい。皆に知ってもらわなければもったいない!と思っています。
成田先生:ある日、落ちていた葉っぱを拾って研究室に持ち帰りました。これに漆を塗ったらどうなるのだろう、と下出先生と話し、タイサンボクやモミジ、イチョウ、松ぼっくりなどいろいろ試してみたところ、面白い作品になりました。葉っぱは乾くと崩れてしまいますが、漆を塗ることで半永久的に保存が可能になります。少しの汚れなら洗うこともできる。そのまま飾るのもいいですが、食器のように日常使いにしてもいいな、と思い付きました。

下出先生:そこで京菓子の「亀屋良長」さんに提案したところ、菓子器として和菓子と共に展示することになりました。コンセプトは「落葉の彩りを日々の生活の中に」です。
展示は全3回の期間で、いずれも展示内容が季節とともに変わる予定です。


「落葉の彩りを日々の生活の中に」
概要:和菓子と漆のコラボレーション作品の展示。
場所:亀屋良長 本店(京都府京都市下京区柏屋町17−19)
期間:第1回:10月30日~11月5日、第2回:11月14日~20日、第3回:11月29日~12月5日
——面白そうですね!ぜひ見に行きます。下出先生は京蒔絵の三代目だそうですね。普段から今回のような作品作りをされているのですか。
下出先生:はい、現在は家業の蒔絵制作とオリジナル作品の創作、研究者として文化財や漆文化に関わっています。専門学校や大学院などで漆を専門に教えてきましたが、京都産業大学の授業やゼミで京都文化について皆さんと幅広くディスカッションできるのは、私にとっても大きな喜びであり、学びになっているんです。
——伝統工芸は難しそうな職業と感じます。
下出先生:天然材料と向き合いながら、さまざまな道具を用い、技能と自分の創意で作り上げる。それが日本の伝統工芸です。金粉一つにしても形状と粗さが80種類以上あり、金のほか銀やプラチナ、青金などを含めて何百という膨大な組み合わせを考えながら表現します。私もこの年齢になり、ようやく全体像が分かるようになりました。それでも極められたわけではなく、一つ一つが一品生産という思いで作っています。
——そうなんですね。最初から家業を継ぐつもりだったのですか?
下出先生:私は小児喘息を患い、小学校時代は学校にもろくに通えず家で寝たきりでした。「元気になったら祖父や父のように働きたい」という思いが、闘病生活のモチベーションだったのです。回復した後、大学は畑違いの文学部へ。そこで「能」と「現代詩」にのめり込みましたが、これが自分の考え方や生き方を広げてくれました。
進路に悩んだときは、どうすればいい?
——高校までは受験という目標があったけれど、何に向けて何をすればいいかが分からないと悩む学生も多いです。大学生活で力を注ぐことを探すコツはありますか。
下出先生:私も悩みました!大学の友人は皆、ネクタイを締めて意気揚々と会社へ。私だけ暗い部屋で、真っ黒な漆で泥だらけ。「自分はこれで、ええのか?」と(笑)。
転機となったのが、日展※に出かけて漆の素晴らしい作品に出会い、漆工家の東端眞筰先生に師事したことです。自分でも日展を目指し、ようやく3年目から連続入選するようになりました。美しいものを見て感動することも第一歩と思います。
※日展…日本画・洋画・彫刻・工芸美術・書の五つの部門に全国から応募し、厳しい審査を経て選ばれた作品のみが展示される日本最大級の公募展。
成田先生:私も大学時代はボヤッとしていました(笑) 。全く違う分野の学問を専攻していたのですが、そこで漆と出会い、その美しさに圧倒されました。その後京都に来て専門学校で漆と蒔絵を学び、さらに大学院に進学して伝統工芸を研究し、2020年度から本学に着任しました。いまやりたいことが無いのは決して悪いことではありません。これから多角的な視野をもっていろいろな体験や挑戦をしてみてください。
——ありがとうございます。本学Webサイトの下出先生の言葉「一歩前へ」を見て、すごく心に残っています。
下出先生:寝たきりで天井ばかり見ていたある日、外の水の反射が天井にゆらゆらと映ったんですね。「ああ、光の世界だ、美しいなあ」と思ったとき、「自分は生かされているんだ!」と実感しました。では何をもって自分が生きた証とするのか。まずは今の自分から一歩前へ進むしかない。そうすれば必ず自分を高みに引き上げてくれる出会いが待っています。私は50歳で大学院に入り、学術的に漆を捉え直すことができました。漆はどんな歴史があり、どこで使われているのか。例えば、なぜ女性の髪の毛で塗るのか、そういった意味を一つずつ解明しようとすれば、世界はどんどん広がっていきます。生きるって、そういうことだと思います。
成田先生:私も、漆が素敵→京都で学ぼう→専門学校でたまたま下出先生に教わる→大学院で学びを深める…で、今があります。一歩を踏み出してよかったと思っています。
——参考になります。最後に、プロジェクトの今後の展開について教えてください。
下出先生:「うるし+α」プロジェクトは私の工房の若手職人も加わり、第二、第三の展開を進めています。どんな素材で何ができるか、今後も模索し、新しい漆のあり方を考案していきたいと思います。