2024.07.30

特集

学内にも多数ある陶板を作る、大塚オーミ陶業。京都産業大学卒業生の大杉社長にインタビュー

大塚オーミ陶業株式会社 代表取締役社長の大杉 栄嗣さん。1955年滋賀県生まれ。京都産業大学経営学部卒業後、製薬会社勤務。1979年大塚オーミ陶業株式会社入社。2012年から現職。

国会議事堂の屋根、中之島フェスティバルタワーの外壁モニュメント、キトラ古墳壁画レプリカなど、陶板は街の至る所で目にします。過去のサギタリウス記事でも北山の「京都府立陶板名画の庭」や、キャンパス内にある陶板を紹介しました。そんな陶板を制作する大塚オーミ陶業株式会社の代表取締役社長であり、本学10期卒業生の大杉 栄嗣(おおすぎ・えいつぐ)さんにお話を伺いました。

学内にもたくさんある陶板。この4月に開寮した本山寮でも発見!

本山寮食堂。京都生まれの染色家・皆川 泰蔵氏の「版画 京都百景」
寮生活を送る学生たちに、日常で絵画に親しみながら京都の文化や芸術に触れてほしい、という願いから、中央棟(食堂棟)には日本画や版画の陶板が設置されています。また、エントランスにある創設者・荒木 俊馬先生直筆の書の陶板には「勉学とともに自分の夢を持ち、実現してほしい」との思いが込められています。荒木先生は絵を描かれ、勉強だけでなく芸術も重んじられた方だったそうです。
本山寮入り口。荒木先生直筆の「夢」。実際の5.5倍に拡大して再現されている。

他に、本学で見られる陶板について教えてください。

キャンパス内には大塚オーミ陶業の作品が4カ所あります。図書館の「葵祭」、真理館の吹き抜けの階段にある「大イチョウ」。本館エントランスには「神山・本山の山並み」のシルエット、天地館1階には荒木先生著「大宇宙の旅」の挿絵にあった「十二星座」。学生の皆さんに京都産業大学の理念やスピリットを日頃から感じてもらえるとうれしいです。
図書館の「葵祭」

屋外設置も多数。陶板は丈夫なのですね!

陶板は堅牢で、日光や風雨にさらされても大丈夫です。さらに色彩はもちろん、質感や筆遣いまで、細やかな表現が可能です。書や絵画は取り扱いに気を遣いますが、陶板ならその心配はありません。
奥の写真が中之島フェスティバルタワー。手前は旧フェスティバルホールの外壁に設置されていたモニュメントの現物。
通常、焼き物は1回焼いたら終わりですが、弊社の陶板は温度管理や土の配合で何度も焼き直すことが可能です。色も釉薬(ゆうやく)*の配合で2万種類以上の色を編み出し、絵具の質感や立体造形も表現できます。こうした研究を重ねることで、アーティストとのコラボレーションや文化財の複製事業にもつながっています。

*釉薬:陶磁器の表面を覆うガラス質の部分のこと。陶磁器の素地に水や汚れが染み込むことを防ぎ、扱いやすくします。

以前、ピカソ財団を運営するクロード・ ピカソさん(ピカソのご息子)が弊社の信楽工場にお越しになった際、陶板の精巧さを見て、「類まれな作品のクオリティに納得することができた」と、ピカソ作品を陶板にすることを許可いただきました。現在その絵は、弊社が制作した他の1000点余りの名画の複製陶板とともに、徳島県にある大塚国際美術館に展示されています。ちなみに6年前のNHK紅白歌合戦で、米津玄師さんの中継場所が大塚国際美術館ということでも話題になりました。

文化財の複製事業についても教えてください。

文化財の陶板複製には2つの大きな意味があります。一つは陶板が1000~2000年耐えられる素材のため、文化財を今の状態で半永久的に残せること。もう一つは国宝クラスの文化財も、陶板なら身近に見て手に触れることができることです。小さなお子さんや目の不自由な方にも名画や彫刻を楽しんでもらえるので、文化庁や県から依頼が相次いでいます。
国宝・高松塚古墳壁画 東壁「女子群像」 の複製

本学出身の大杉社長。どんな大学時代を過ごされましたか。

京都産業大学入学後、「変わったことをしたいな」とサークルを見て回り、邦楽部に入りました。担当は尺八です。これが高価な楽器で、当時でも10万円前後。毎朝5時から中央卸売市場でアルバイトをして、眠い目をこすりながら授業に向かいました。
3年次は幹部主幹として定期演奏会や合宿、他大学との合同演奏などの運営・マネジメントに奔走。人が50人もいれば揉め事は付き物で、年齢も性別も考え方も経験も異なるメンバーをどうまとめていけば良いか、リーダーシップや心理学の本まで読みあさりました。人を動かすには「それぞれ意識が違うことを理解し、目的とする方向を見つけてイメージを描き、皆で共有する」が大事です。こうした経験は社会人になってからも大いに役立ちました。
ちなみにサークルのメンバーとは50年以上経った今も一緒に旅行をする間柄です。仲間からは変わらず「大杉君!」と呼ばれるので、当時に戻った気分になります。

学生へメッセージをお願いします。

いろいろなことにチャレンジしてください。可能ならひと月でも海外に行き、言葉が通じない経験や考え方、文化の違いを体験してほしいです。私は海外に行く余裕はなかったですが、全国のユースホステルを泊まり歩いていたことが印象に残っています。日常とは異なる生活や体験を通して、自分の内面を見つめ直すことができます。
今は情報があふれていますが、そこにどんな考え方があるのか、真実は何かを確認し、本質を見極める目を養ってほしいですね。それが社会人になったときに皆さんを100%生かす力になるはずです。
もう一つ大事なのは、「目標を定め、それが意義ある事と確認できたら、ずっと続けていく」です。あきらめずにコツコツ。この言葉も皆さんに贈ります。
笑いの絶えないお話と温かいまなざしが印象的でした。

大学内に掲げられている素敵な陶板。背景にいろいろな思いや多くの人の時間が詰まっていることが分かり、見え方が変わりました。人をまとめる大変さは私も実感することがあるので、大杉社長の「リーダーシップは我慢も大事」との言葉にも励まされました。

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