【文化学部】舞台芸術プロデューサー川崎 陽子氏が登壇 制作秘話を語る
2022.10.18
文化学部専門教育科目「国際文化フィールドワーク実習B」(担当:田中 里奈助教)は、「今日における演劇と音楽の批評」をテーマに、座学やフィールドワークを通して作り手や発信者、批評家といった方々から実際にお話を聞き、自分の視点を発掘して実際に批評を書くことを目標とした科目です。
今回、受講生11人が「町家 学びテラス・西陣」にてフィールドワークを行いました。ゲストとして、KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 共同ディレクターの川崎 陽子氏をお迎えし、同氏がディレクションを担当する芸術祭のプログラムや裏話について伺いました。
(学生ライター 外国語学部4年次 福崎 真子)

1.川崎氏プロフィール

三重県生まれ。舞台芸術プロデューサー。東京外国語大学ドイツ語学科を卒業後、ドイツ・ベルリン自由大学で学ぶ。2011年から2014年まで京都芸術センターのアートコーディネーターを務める。2014年から1年間、文化庁新進芸術家海外研修制度により、ドイツ・ベルリンのHAU Hebbel am Ufer劇場で研修。2011年よりKYOTO EXPERIMENT京都国際舞台芸術祭の制作に携わる。
2.KYOTO EXPERIMENT京都国際舞台芸術祭とは?
KYOTO EXPERIMENT京都国際舞台芸術祭(以下、KEX)は、2010年より京都市内で毎年開催されている舞台芸術の祭典です。世界各国のアーティストが招かれ、劇場やホールなどの会場を用いて、ワークショップ、トークセッション、舞台上演、フィールドワークが行われます。
芸術祭には、演劇、ダンス、音楽、美術、デザイン、建築などのさまざまな芸術ジャンルを組み合わせた作品が集います。そのような舞台芸術が観客やアーティストに対してどのような新しい可能性を生み出すのかを“実験(EXPERIMENT)”することが、開催趣旨のひとつとなっています。
2022年度KEXのwebサイト
芸術祭には、演劇、ダンス、音楽、美術、デザイン、建築などのさまざまな芸術ジャンルを組み合わせた作品が集います。そのような舞台芸術が観客やアーティストに対してどのような新しい可能性を生み出すのかを“実験(EXPERIMENT)”することが、開催趣旨のひとつとなっています。
2022年度KEXのwebサイト
3.川崎氏の講義内容ピックアップ
講義中、川崎氏は今年度開催するKEXの開催概要や制作秘話などを詳細に語られました。一部厳選してご紹介します。
KEX主催方法における大きな特徴「自主性・独自性」
KEXの実行委員会は、京都市、ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)、京都芸術センター(公益財団法人京都市芸術文化協会)、京都芸術大学 舞台芸術研究センター、THEATRE E9 KYOTO(一般社団法人アーツシード京都)の5つの団体によって構成されています。
行政主導でもなく、どこか1つの団体主導でもなく、京都の文化・舞台芸術を支える数多くの組織が集まってイベントを主催・運営していく仕組みが特徴です。
これに対し川崎氏は「もともとこのフェスティバルは『こういう物があったら良いのではないか、必要なのではないか』という思いを持った人たちによって“インディペンデント(自主的、独自)”に立ち上げたので、この体制はこれからも続けていきたいですね」と説明されました。
行政主導でもなく、どこか1つの団体主導でもなく、京都の文化・舞台芸術を支える数多くの組織が集まってイベントを主催・運営していく仕組みが特徴です。
これに対し川崎氏は「もともとこのフェスティバルは『こういう物があったら良いのではないか、必要なのではないか』という思いを持った人たちによって“インディペンデント(自主的、独自)”に立ち上げたので、この体制はこれからも続けていきたいですね」と説明されました。
“共同ディレクター”であることへの思い

2020年度からのKEXディレクターチームメンバーは、川崎氏を含めて3人(塚原 悠也氏、ジュリエット・礼子・ナップ氏)いらっしゃいます。講義中、学生から「共同ディレクターとしてやっていく上で難しいことは?」と質問が挙がり、川崎氏が実際のエピソードを交えて回答してくださいました。
「基本的に何かを決めるときは、どんなに忙しくても3人で集まり話し合っています」と川崎氏。1人がリーダーシップをとり全てを決めるのとは違う、新しい方法でディレクションをしてみることも、実験(EXPERIMENT)の一部になっており、面白く感じているそうです。
一方「意見の不一致があった場合、もちろん民主的な手続きが必要になるので、全員が完全に理解するまで話し合うのに時間がかかります」と、複数人であるからこそ苦労している点についてもお話しくださりました。共同ディレクター3人の議論難航エピソードには、会場が笑いで盛り上がる場面もありました。
「基本的に何かを決めるときは、どんなに忙しくても3人で集まり話し合っています」と川崎氏。1人がリーダーシップをとり全てを決めるのとは違う、新しい方法でディレクションをしてみることも、実験(EXPERIMENT)の一部になっており、面白く感じているそうです。
一方「意見の不一致があった場合、もちろん民主的な手続きが必要になるので、全員が完全に理解するまで話し合うのに時間がかかります」と、複数人であるからこそ苦労している点についてもお話しくださりました。共同ディレクター3人の議論難航エピソードには、会場が笑いで盛り上がる場面もありました。
KEXのキーワード「ニューてくてく」への思い
今年のKEXのキーワードとして「ニューてくてく」が設定されています。ニューは「新たに捉えて考える」、てくてくは「歩くこと」のほか「意識・時間を移動させる」「感情が揺れ動く」などの意味を表しています。誰もが日常的に使う簡単な言葉の組み合わせであり、万人にとって考えるきっかけを作れるようなキーワードとなっています。
「これはコンセプトでもテーマでもなく、あくまで思考のきっかけにするための“キーワード”なんです。テーマという形で限定せず、個々人が何を見いだせるか考えてもらった方が良いのではないかと思って…」と川崎氏。芸術家や観客の意識が、設定したコンセプトやテーマに引っ張られてしまいがちであることの危険性をお話しされました。
2020年度のフェスティバルではキーワードを含め、芸術祭を表象するワードを決めていませんでしたが、2021年度からは「少し分かりにくく、何かが欲しい」と外部からリクエストがあり、キーワードを設定したとのこと。
一般的に、テーマやコンセプトを決めた後から、詳細なプログラムを決めるやり方が多く採用される舞台芸術界隈。そんな中、今回のKEXでは、テーマよりも先に上演する作品を選び、それらから抽出できるものは何かを考えて、後からキーワードが決められました。その理由について川崎氏は「コロナ禍による目まぐるしい社会の変化と、昨日の“当たり前”が今日通じなくなる感覚を経験して…。舞台芸術の実験をするなら、常にその場その時の問題と向き合って進めていけるよう、開催日程ぎりぎりに近いところで抽出できる言葉にした方が良いと考えたんです」と、KEXのキーワードに懸ける深い思いを打ち明けられました。
「これはコンセプトでもテーマでもなく、あくまで思考のきっかけにするための“キーワード”なんです。テーマという形で限定せず、個々人が何を見いだせるか考えてもらった方が良いのではないかと思って…」と川崎氏。芸術家や観客の意識が、設定したコンセプトやテーマに引っ張られてしまいがちであることの危険性をお話しされました。
2020年度のフェスティバルではキーワードを含め、芸術祭を表象するワードを決めていませんでしたが、2021年度からは「少し分かりにくく、何かが欲しい」と外部からリクエストがあり、キーワードを設定したとのこと。
一般的に、テーマやコンセプトを決めた後から、詳細なプログラムを決めるやり方が多く採用される舞台芸術界隈。そんな中、今回のKEXでは、テーマよりも先に上演する作品を選び、それらから抽出できるものは何かを考えて、後からキーワードが決められました。その理由について川崎氏は「コロナ禍による目まぐるしい社会の変化と、昨日の“当たり前”が今日通じなくなる感覚を経験して…。舞台芸術の実験をするなら、常にその場その時の問題と向き合って進めていけるよう、開催日程ぎりぎりに近いところで抽出できる言葉にした方が良いと考えたんです」と、KEXのキーワードに懸ける深い思いを打ち明けられました。

上記3つの内容以外にも、今年KEXで上演する各プログラムの概要、出演アーティストや上映作品を選ぶ基準、KEXの今後の方針など、受講生から約10個の質問に答えていただきました。
講義の終盤、学生から「今後の夢や目標は?」と質問があり、対する川崎氏は「国際性と舞台芸術に関わる仕事をしたいという自分の昔からの夢が、今現在かなっているので、まずはプログラミングや経営、事務局の運営など、今の仕事を全力で頑張りたいという気持ちです」と前向きに語り、講義を締めくくられました。
講義の終盤、学生から「今後の夢や目標は?」と質問があり、対する川崎氏は「国際性と舞台芸術に関わる仕事をしたいという自分の昔からの夢が、今現在かなっているので、まずはプログラミングや経営、事務局の運営など、今の仕事を全力で頑張りたいという気持ちです」と前向きに語り、講義を締めくくられました。
4.受講生の感想
講義中、終始真剣な眼差しで川崎氏のお話を聞いていた受講生にアンケートに答えてもらいました。
Q:国際文化フィールド実習Bを履修した理由を教えてください。
- 田中先生の授業「舞台芸術文化論」を前学期履修したときに学びが多く、より芸術などの理解を深めたいと思ったから。
- フィールドワークに興味があったため。
Q:講義中、一番心に残ったことを教えてください。
- 川崎さんが目標や夢を決めず、今やれることを一生懸命にこなしているという部分が心に残った。地道であるかもしれないが、KYOTO EXPERIMENTのディレクターに就任してからも思いや考えを持って活動しているということが非常に感じられた。
- 作品内容についてだけでなく、作品が出来上がるまでの過程や、制作陣のコラボレーションについてなどさまざまな裏話が聞けたので、実験的なプログラムについての理解がより深まった。
- 今日初めて制作やコーディネート、ディレクションといった裏方から舞台を支えている人に会えたことに、まず感激した。今まで、観客目線でしかこういった舞台芸術を見たことがなかったので、何を考え、どんな思いで、どういった苦労をして…といった経験をご本人に間近で話していただけたことが人生の中で素晴らしい経験になったと感じている。
Q:その他、感じたことがあれば教えてください。

- 町家 学びテラス・西陣の室内と坪庭の手入れが行き届いていて美しかった。もっと京都産業大学としても良さを学生と地域に発信するべきだと思う。それだけの美しさと価値があると思った。
川崎氏のお話から「多数のセクターが協力してイベントを主催する」「ディレクターは複数人で」「イベントのテーマを定めない」など、これまでの“当たり前”を疑い、物事の本質に沿った新しい挑戦をしようとする姿勢を強く感じました。そのような意味で、私にとって「新たな可能性」を感じられる場でもあったと思います。また、初めて町家・学びテラス西陣へ訪れ、京都の古き良き文化的空間に包まれながらお話を聞くことができ、非常に刺激的な時間となりました。