2020.12.24

カルチャー

京都産業大学近くに国の天然記念物が!深泥池は、氷河期から生き残る稀有な動植物の宝庫だった

京都盆地の北端で小さな山の谷合いにある深泥池。決して広大ではない池ながら、多様な生物が共存している。

京都産業大学のお隣、上賀茂本山を挟んだ南東側には、「深泥池(みぞろがいけ)」が広がっています。周囲約1.5km、広さにして9ヘクタールほどののどかな池です。
地元の人々の間では「タクシー運転手が深夜に女性客を乗せたところ、いつの間にか消えていて……」という怪談の舞台としても有名。街灯が少なく夜になると真っ暗になることも相まってか、学生の間では肝試しや心霊スポットとしての認識が強いようです。
しかし、深泥池にはあまり知られていない興味深い一面がありました!
実は深泥池には、氷河期から生き残る多数の動植物が存在し、生物群集が国の天然記念物に指定されているのです。
今回は、深泥池保全のボランティアで、観察や写真記録をされている田篭誠一(たごもり・せいいち)さんの写真とともに、深泥池で現存する貴重な植物や昆虫について、ご紹介します。

水上に浮かぶ不思議な小島にはさまざまな動植物が。浮島はなぜできる?

深泥池は水面の3分の1ほどが浮島湿原でおおわれており、そこには希少な動植物が生息しています。一見するとさまざまな野草や木々が生い茂って地面があるように見えますが、実は島のようになっており、湿原自体が水面にぽっかりと浮かんでいる状態です。
夏の浮島は、水面に浮かぶ面積が大きくなり、ハリミズゴケなど湿地の植物が姿を見せる。
秋から冬になると、浮島の一部が沈み、ビュルテのアカマツのような木々は生き残る。

一体なぜこのような浮島ができるのでしょうか。実は浮島は、さまざまな植物の死骸からできています。通常そういった有機物は微生物に分解されて循環していくのですが、深泥池の環境では水温や水質の関係で分解の進みが遅く、堆積して浮島の基礎をつくっているのです。
浮島は夏になると浮かび上がって面積を増し、冬になると沈んで冠水してしまいます。季節によって姿を変えるなんて、湿原自体がひとつの生物のようで面白いですね。
水に浸かりやすい部分(シュレンケ)にはハリミズゴケやミツガシワなどの湿性植物が育ち、冬でも沈まないオオミズゴケから成る小高い部分(ビュルテ)にはアカマツやネジキなどの木々が育っています。

ここからは深泥池の主要な植物を紹介していきましょう。

ハリミズゴケ
オオミズゴケ
まずはハリミズゴケとオオミズゴケです。ハリミズゴケは『シュレンケ』と呼ばれる、湿原の平坦部にマット状に点在しています。オオミズゴケはハリミズゴケの上に盛り上がり『ビュルテ』を形成します。
このうちハリミズゴケは「京都府レッドデータブック2015」で絶滅寸前種に位置づけられています。オオミズゴケもまた、環境省が定めるレッドリストでは準絶滅危惧種です。ハリミズゴケやオオミズゴケが減少してしまうと、浮島湿原そのものの存続がおびやかされます。多様な動植物を育む深泥池にとって、重要な植物なのです。

寒冷地にしか分布しないはずのミツガシワがなぜここに?理由は氷河期にあった

ミツガシワは3月末につぼみを水面から出し、4~5月にかけて花を咲かせます。
白く可憐な花をつけるミツガシワ。春から初夏にかけて咲き、ハリミズゴケやオオミズゴケが織りなす浮島を彩ります。
実はこの植物は太古の地球の生き証人かもしれません。分布地は日本を含めた北半球ですが、その多くは北海道などの寒冷地や高山帯です。京都市の、しかも住宅地のすぐ近くに生えているというのはかなり珍しいことなのです。
それではなぜ深泥池の浮島湿原で見つかるのかと言えば、氷河期が関係しているからと考えられています。
つまり氷河期で地球全体が非常に寒かった頃、ミツガシワはもっと広い地域に分布していたはずだというのです。気候が温暖になるにつれ分布地を北へ北へと後退せざるを得なくなり、現在のように寒冷地や高山で生きていくようになりました。しかし暖かな本州でもごく一部に生息地が残っており、そのひとつが深泥池であると考えられています。いわば飛び地のようなものですね。東京都の三宝寺池でも同じくミツガシワの群生が確認されています。
ヒメコウホネに飛来するハナダカマガリモンハナアブ。

さらにはミツガシワの花やヒメコウホネに集まるハナダカマガリモンハナアブも、自然豊かな湿地帯でしか生きられないことから絶滅が懸念されています。
植物の死骸、ハリミズゴケとオオミズゴケ、ミツガシワとハナダカマガリモンハナアブ。さまざまな生き物の生活がつながりあっており、どれかひとつでも欠ければバランスが崩れてしまうのです。
深泥池の生物群集には、このほかにもアカヤバネゴケやホロムイソウなどの植物が見られます。またトンボの種類も豊富で、日本に生息する約200種のうち3分の1が深泥池で見つかるそうです。
水生生物ではフナやスジエビやクサガメ、野鳥ではルリビタキやヒドリガモなど、実に多くの生き物が深泥池に集まっています。
地元のすぐ近くに楽園のように豊かな自然があるのは嬉しいもの。しかし、心配な点もあります。上で紹介したハリミズゴケやオオミズゴケなどの湿生植物は、栄養に乏しい環境の方がよく繁栄できるのですが、近年は池の水質の悪化や、富栄養化の傾向が懸念されています。
また外来種の侵入も問題です。園芸種である北アメリカ原産のナガバオモダカやヨーロッパ原産のキショウブ、さらに動物ではブラックバスやブルーギル、ミシシッピアカミミガメなど、さまざまな外来種が在来種をおびやかしているのです。

田篭さんのように、市民有志による保存や研究活動が続けられていますが、人間による外来種の持ちこみや鹿の食害など課題が多く残されています。ひとりひとりの心がけで、氷河期から連綿と続いてきた自然のサイクルを守っていかねばなりません。
春はミツガシワの花、夏から秋にかけては多くの昆虫類、冬には野鳥が見られるので、ぜひ散策に出かけてみてはいかがでしょうか。

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