理学部生が高エネルギー加速器研究機構主催「サマーチャレンジ」に参加しました

2022.04.14

今回は「大学生・高専生のための素粒子・原子核スクール サマーチャレンジ~宇宙・物質・生命 21世紀の謎に挑む~」に参加した経験についてレポートします。
サマーチャレンジは基礎科学を担う若手を育てることを目的に、大学3年次生を主な対象として行われる科学技術体験型スクールです。毎年8月上旬に講義と演習が高エネルギー加速器研究機構で行われ、今年度で第15回目になります。今年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により講義のみが夏に行われ、演習は3月に延期して各班に分散して行われました。

(学生ライター 理学部3年次 老田 将大)

電磁石の磁場の測定を行う演習4班

夏に行われた講義では、素粒子・原子核の実験をする上で必要な知識を学びました。講義のテーマは放射線、統計、加速器、素粒子、宇宙、原子核の6つです。

放射線や統計、加速器の講義では、加速器を実験道具としてデータを取得する上で必要な知識やデータの処理方法について学びました。加速器とは、電子などの粒子にエネルギーを与えて高速で飛ばす実験道具のことです。加速器を使用すると、X線解析を行ったり、高エネルギーの粒子同士をぶつけたりと、さまざまな実験を行うことができます。加速器を用いた実験には放射線が密接に関わっていることから、放射線に関する知識についても詳しく学びました。また、実験から得られるデータは膨大な量になるため、それらを適切に処理し物理学的に意味のあるデータにするための誤差統計についても学びました。

素粒子や宇宙、原子核の講義では、ミクロな物理とマクロな物理の概要を学び、最先端の研究ついて講義を受けました。素粒子とは、世の中を構成する粒子で最小単位の粒子のことです。素粒子同士はそれぞれ「強い相互作用」「弱い相互作用」「電磁相互作用」「重力相互作用」をしています。素粒子同士がどのような関わりをしているのかを読み解くことによって、宇宙初期の状態や素粒子同士の相互作用がどのような力なのかについて理解できるようになります。また、宇宙について理解する際にも素粒子が関わってきます。宇宙と素粒子はスケールが最大と最小の真反対のように見えますが、実は素粒子を理解することで宇宙についても理解することができるのです。他にも、宇宙には暗黒物質や暗黒エネルギーというような、存在していることはわかっているけれど、それらがいったい何なのかが解明されていないものがあります。現代では、こういったものが何であるのかについての研究も進められていることが紹介されました。原子核の講義では、少数多体系と呼ばれる数えられる複数の粒子の振る舞いを解くために必要な数学や考えについて学びました。実は、数えられるだけの粒子の振る舞いを正確に数式で解くことは簡単ではありません。このような問題を解けるようにするための研究も行われていて、研究が進むことによって、さまざまな分野で活用されることが期待されているのだそうです。

サマチャレ校長西田准教授、指導教員 大阪大学RCNPの野海教授と白鳥助教、TAと演習4班

夏の講義を踏まえて、3月には高エネルギー加速器研究機構で演習が行われました。実験をとおして手法や原理を理解することを目的としています。実際に研究所で実験する経験は、まるで本物の研究者になったかのような貴重な体験となりました。

私の班では「磁気スペクトルグラフとベータ線のエネルギー分布の測定」を行いました。放射線源から放出されるベータ線のエネルギーを測定することで、ベータ崩壊によってニュートリノという検出が難しい素粒子が存在することがわかります。
演習は5日間にわたって行われ、初めの2日間は実験装置のセットアップを行い、残りの3日間はデータの取得や解析、考察を行いました。

まず実験装置のセットアップでは、人よりも大きな電磁石の磁場の測定を行いました。実験結果の精度や正確性は、実験装置のセットアップ段階の対応が大きく影響するため、班のメンバーで慎重に議論をしながらセットアップを行いました。次にデータ測定では、2つの手法で計測を行いました。異なる手法で同じような結果を得ることができれば、精度の良い実験をできたことを示すことができるためです。データ解析では、膨大な量のデータに物理的な意味を持たせるために各種補正をかけ、実験の結論として公表できる状態にデータを加工しました。そして得られたデータを基に考察を行い、次に必要な情報を得るためにはどのような実験をすればよいかなど、さまざまな議論や意見交換を行いました。5日間の演習期間の中で「考察」が最も大変で時間がかかりましたが、最も面白いと感じました。

最後に、実験データをまとめてオンラインで発表を行いました。発表では他の班の実験データや考察について話を聞き、質問を投げかけるなど、活発な意見交換や議論が交わされていました。そして、この発表を最後に、新型コロナウイルス感染症の影響で約半年間にわたった今年度のサマーチャレンジは幕を閉じました。


今年度のサマーチャレンジは、オンライン講義や分散での演習となり、学生間の交流が以前よりも難しい状況でした。しかしオンラインだからこそ、場所にとらわれずに時間を合わせて議論したり、興味のある研究分野について語りあったりと、これまでにない新しい関わり方で関係を築けたと思います。また、サマーチャレンジに参加して、共同実験者との考察や議論などは、普段、大学で学んでいるだけでは得られない体験をすることができたと思いました。