【理学部】第22回林忠四郎記念講演会を開催しました

2024.07.11

林 忠四郎記念講演会は、故 林 忠四郎京都大学名誉教授が1995年に京都賞を受賞したのを契機に、林先生の宇宙物理学諸分野に対する輝かしい功績を記念し、林先生の時代から現在に至る宇宙物理学の歩みを後世へと受け継ぐため、およそ1年ごとに湯川記念財団と日本各地の大学・研究機関との共催の形で開催されている一般向け講演会です。今年度の第22回は2024年7月3日に本学で開催されました。
すばる望遠鏡を用いた宇宙論の国際共同研究を牽引されている東京大学国際高等研究所カブリ数物連携機構の高田 昌広教授と、林 忠四郎先生に師事し、ご自身も宇宙論、一般相対性理論の分野で数多くの重要な研究をされた、京都大学の佐藤 文隆名誉教授のお二人をお招きして、宇宙物理学の歴史から最新の研究成果に至るまで、貴重なご講演をいただきました。

黒坂 光 学長 挨拶

開会に先立ち、本学の黒坂 光学長より挨拶がありました。黒坂学長は、林先生のご経歴を簡潔に紹介し、本学の学祖である荒木 俊馬先生とのご縁について言及されました。そして、宇宙物理学者を祖とする本学において、このような講演会が開催されることの意義について述べられ、これをもって開会の辞としました。

「すばる望遠鏡で探る膨張する宇宙」高田 昌広 氏

「すばる望遠鏡で探る膨張する宇宙」と題された高田先生の講演は、宇宙を考える上での重力の重要性に関する一般向けの平易な解説から始まりました。そして、アインシュタインの一般相対性理論の登場により、人類の重力に対する認識が大きく変わったこと、特に、空間それ自身が膨張、収縮可能な不思議な存在であり、アインシュタイン方程式というツールを得た人類は、その振る舞いについて具体的に計算できることを強調されました。続いて、この理論に立脚し、宇宙膨張や宇宙マイクロ波背景放射(CMB)などの観測的な証拠が出揃うことで、ビッグバンから始まる現代の宇宙の標準模型であるΛCDM模型が確立されたことを分かりやすく解説されました。講演の後半は、この標準模型が抱える、ダークマター、ダークエネルギーという未解明の問題と、その解決に向けた現在の取り組みについて話されました。CMBを初期条件として、ΛCDM模型を仮定すれば、コンピュータシミュレーションを用いることで宇宙の構造形成の予測が可能であり、これをすばる望遠鏡などを用いた大規模な観測と比較することで、標準模型の検証ができることを解説されました。その中で、すばる望遠鏡に搭載された大型カメラ、Hyper Suprime-Cam(HSC)による弱重力レンズ効果の解析による最新の成果と、来年観測開始予定の多天体同時分光器Prime Focus Spectrograph(PFS)による銀河3次元マッピングに対する期待について、情熱たっぷりに語られました。HSCを含め、最近の観測データは、いまだ統計的有意性は低いものの、ΛCDM模型の綻びを示唆しており、PFSをはじめとする次世代の観測で決着をつけるべき、重要な局面にあると言えます。講演後は本学学生、教員から質問が出て、次の講演までの休憩時間の間も議論が続くほどの盛り上がりでした。

「林先生の宇宙物理」佐藤 文隆 氏

佐藤先生は、「林先生の宇宙物理」と題して、これまでの宇宙物理学の歴史について概観されました。はじめに、林 忠四郎先生の師である湯川 秀樹について、このほど左京区下鴨にある旧湯川邸が再生され、迎賓施設「下鴨休影荘」として京都大学に寄贈されたことをご紹介されました。そして、湯川博士が日本人として初めてのノーベル賞を受賞したニュースに対する当時の興奮と、佐藤先生ご自身と湯川博士に関するエピソードについてお話されました。その後、これまでの物理学・宇宙物理学に関する京都賞やノーベル賞の受賞対象となった研究を振り返りました。長きにわたる現代物理学の歩みの中で、その時々でどのような研究が日の目を見たのか、基礎的な理論研究と、新しい観測・実験技術の開発が、いかにしてブレークスルーとなり、現代の物理学を形作ったのか解説されました。その中で、量子力学などの新しい考え方が、当時の科学者にどのように受け止められたか、貴重なエピソードを交えてユーモアたっぷりにお話しいただきました。講演の後半は、林 忠四郎先生の歩みについて話されました。日本初の共同利用研究所であり、英語名に湯川の名を冠した基礎物理学研究所の異分野を巻き込んだ取り組みと、天文学と物理学を行き来していた林先生の貢献が、いかにして戦後の日本における宇宙物理学の発展の契機となったかを話されました。最後に、林先生のビッグバン元素合成の正確な計算、今では教科書にも載るような基礎的な成果である、恒星の進化段階の林フェイズの発見などの、宇宙物理学者 林 忠四郎としての研究について紹介されました。佐藤先生のご講演は、当時の貴重な写真がふんだんに盛り込まれ、単なる教科書的な宇宙物理学の解説ではなく、歴史の中での位置付けや当時の研究者の受け止めがありありと伝わる、大変学びの多いものでした。

講演会の総評

当日は学内外から多くの参加者が集まり、会場は熱気に包まれていました。高田先生、佐藤先生のご講演は、最先端の宇宙物理学研究から歴史的な視点まで幅広くカバーし、参加者全員に深い感銘を与えました。講演会後の懇親会では、お二人の講師を囲んで活発な議論が展開され、学生や若手研究者たちが熱心に質問する姿が印象的でした。本講演会は教員にとっても大変学びの多い機会となりました。宇宙物理学の最新の知見に触れるだけでなく、この分野の歴史的な発展過程を振り返ることで、研究の本質や科学の進歩について改めて考えさせられる貴重な時間となりました。参加された学生たちにとっては、第一線で活躍する研究者の生の声を聞く稀有な機会となりました。彼らの眼差しの輝きや、講演後も熱心に質問を続ける姿勢から、この経験が彼らの更なる学習意欲や研究への情熱を大いに刺激したことがうかがえました。この講演会をきっかけに、将来の宇宙物理学を担う人材が本学から輩出されることを期待しています。今後も本学では、このような刺激的で有意義な講演会を継続して開催し、学生たちに幅広い知識と深い洞察を得る機会を提供してまいります。最後に、ご多忙の中ご講演いただいた高田先生、佐藤先生、このような貴重な機会をいただいた湯川記念財団、そして本講演会の開催にご協力いただいた全ての方々に心より感謝申し上げます。