PICKUP
RESEARCH
33

超大質量ブラックホール系の全貌

銀河の中心で何が起きているか

  • 理学部 教授 岸本 真 Kishimoto Makoto

銀河の中心に潜む超大質量ブラックホール(supermassive black hole:SMBH)は、宇宙でもっとも謎に満ちた存在の一つだ。SMBHと銀河はどのように影響し合いながら進化してきたのか。世界最先端の観測装置を駆使して国際共同研究を進める岸本真教授に、ブラックホール研究の最前線と、研究者としての歩みを聞いた。

海外15年、研究者としての〝放浪〟

中学1年生のとき、友人がポケットコンピューターを持っていたんです。「これは面白い」と思い、1週間後には自分でも買ってプログラミングを始めました。1行しか表示できない液晶画面にプログラムを書き、迷路ゲームなどを作っていました。母によると、学校から帰ると机に向かい、ひたすらキーを打ち続けていたそうで、その頃に視力も悪くなりました(笑)。その後、もっと大きなパソコンを手に入れ、さらにプログラミングにのめり込んでいきました。

一方で、宇宙への関心は別のところから生まれました。高校生の頃、ニュースでロケットの打ち上げを見て、「こうやって宇宙に行くのか」と強く印象に残りました。ですから当時の興味は宇宙工学だったんですが、進路を考えるうちに、その基礎には数学と物理学があることに気づきました。

また、その頃、ファインマン1の自伝を読んで、大きな影響を受けました。物理学者という仕事や生き方に魅力を感じたのです。

京都大学理学部に進学し、4回生で宇宙物理学教室に入り、そのまま大学院へ進学、宇宙物理学の研究に携わることになりました。

——— ブラックホールに興味を持ったきっかけは?

もともとはブラックホールそのものではなく、銀河の中心が異常に明るく輝く「クエーサー」と呼ばれる天体群に関心がありました。正体がよく分かっておらず、「これはいったい何なのだろう?」と考え始めたのです。

修士課程では理論計算を中心に研究していましたが、次第に「理論だけでは何とでもいえるのではないか」と感じるようになり、博士課程では研究の軸を観測データの解析へ移しました。実際のデータと向き合い、背後にある物理を解き明かしていく方が性に合っていたんでしょうね。ただ、院生時代は既存データを用いた研究が中心だったので、自分で観測して新しいデータを取得するようになったのはポスドクになってからでした。

——— 長く海外で研究されていましたね。

博士課程の頃、活動銀河核(AGN)や超大質量ブラックホール(SMBH)研究で世界的に著名だったロバート・アントヌッチ教授(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)に論文を送ったところ、直接コメントをいただきました。やり取りを重ねるうちに、「何とかしてこの人のもとでSMBHを研究したい」と思うようになり、博士学位公聴会の一週間後にはもう米国に引っ越していました。

サンタバーバラ校には3年間在籍し、その後、イギリス・スコットランドのエディンバラ大学へ移って講師として5年間勤務しました。授業も担当していたので、教育者として多くを学んだ時期でもありました。

さらに、ドイツのマックス・プランク電波天文学研究所へ移り、赤外線干渉計グループで7年間研究を続けました。ドイツでは、星形成初期段階の天体の研究者と共同研究する機会もありましたが、私自身の研究の中心は常にSMBH系の観測でした。その研究の軸は現在も変わっていません。

——— なぜ日本に戻ろうと思われたのですか?

海外に残る選択肢もありましたが、研究だけでなく教育の面でも日本に貢献したいという思いが、帰国を決めた理由になりました。欧米で計15年間研究生活を送ったわけで、振り返れば、ずいぶん長い放浪生活でしたね。

超大質量ブラックホールの全貌

NGC4151銀河中心部のSMBH構造
図1 観測データをもとに構成した、NGC4151銀河の中心にあるSMBHの構造(画像をクリックすると3Dビューを表示)

——— さて、そのSMBHとは、どのようなものなのでしょうか。

近年、ほとんどの銀河の中心にはSMBHが存在し、銀河とともに進化してきたことがわかってきました。特にAGNのような活発なSMBH系は、その共進化の過程を探る重要な天体です。

長らくAGN中心部の内部構造は直接観測できませんでしたが、赤外線干渉計の発展によって観測が可能になりました。当時の標準モデルは、SMBHの周囲をガスや塵からなるドーナツ状の〝トーラス〟が取り囲んでいるというものでした。

ところが、赤外線干渉計による観測で明らかになったのは、予想されていたドーナツ状ではなく、ブラックホールの回転軸に沿って両極方向へ〝お椀〟状に広がる構造でした。中心のSMBH近傍には薄い円盤状のガス(降着円盤)が存在する一方、その外側には上下方向へ広がるガスや塵が分布しているように見えます(図1)。私は、この構造を、SMBH近傍の強烈な放射によってガスや塵が押し出され、極方向へ流出している現象を捉えたものだと考えています。

私の研究対象は、SMBH周囲に広がる領域です。そこでガスや塵がどのような速度で運動し、母銀河とどのように相互作用して、銀河全体にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにしたいと考えています。

ブラックホールの観測現場

——— 実際の観測はどこで、どのように行われるのでしょうか。

*
いまでもときどき使うことがあるというシャープ製のポケコン

最近は主にカリフォルニア州のMt.ウィルソンにあるCHARA2干渉計を使っています。1m望遠鏡を6台組み合わせた施設で、望遠鏡間の最大距離は約330mに達します。赤外線観測では世界最高の空間分解能を誇り、SMBH周辺の微細な構造を直接捉えることができます。

チリのVLTI3のように、より大口径の望遠鏡を備えた大型施設も使いますが、私が観測したいリング状構造を分解するには、集光力よりも望遠鏡間の距離が重要で、250m級のベースラインが必要です。そのため、現状ではCHARAがほぼ唯一の選択肢です。

年に2回ほど観測を行っていますが、遠方銀河の中心を捉えるには安定した大気条件が必要なので、観測できる夜は限られています。多くの観測時間や研究費を投入して、装置開発にも力を入れながら、少しでも多くのデータを効率的に集めようと取り組んでいます。

——— 現在の関心は?

銀河合体とSMBHの関係も調べようとしています。銀河同士が衝突・合体することは分かっていますが、それぞれの銀河の中心にSMBHがあるのなら、銀河が合体するとSMBHの連星系ができるはずなんです。問題は、その二つのSMBHが連星のまま長期間回り続けるのか、比較的短時間で合体してしまうのか、です。詳しく観測して、その連星系の「尻尾」をどこかでつかめないかと考えています。

——— ブラックホール合体が重力波観測で見つかっていますね。

LIGOやKAGRAで検出された重力波は、数十太陽質量(M⊙)程度のブラックホール同士が合体したものです。例えば30M⊙のブラックホールが二つ合体して、60M⊙のブラックホールができるような現象ですね。

一方、SMBHは 106~1010M⊙というサイズです。こうしたSMBHが合体しても、重力波の周波数がずっと低く、現在の観測装置では検出できません。

将来的には宇宙空間で干渉計を編隊飛行させるLISA4計画などによって直接検出できると期待されています。また最近では、多数のパルサーを利用して低周波重力波を探る研究も進んでいます。もしSMBH連星系を直接発見できれば、非常に大きなブレークスルーになるでしょう。


  1. リチャード・P・ファインマン(1918-1988):アメリカの理論物理学者。1965年ノーベル物理学賞受賞。自伝的著作『ご冗談でしょう、ファインマンさん!』は世界的なベストセラーとなった。
  2. CHARA: Center for High Angular Resolution Astronomy
  3. VLTI: Very Large Telescope Interferometer
  4. LISA: Laser Interferometer Space Antenna

制作:京都産業大学研究機構研究推進センター
神山Research Profile製作チーム

聞き手:神谷俊郎(URA)
編集:新開絵梨佳

2026/09 ウェブ公開




理学部 宇宙物理・気象学科 教授

Kishimoto Makoto

京都大学大学院理学研究科博士課程修了。カリフォルニア大学サンタバーバラ校、エディンバラ大学、マックス・プランク電波天文学研究所などで計15年にわたり研究・教育に従事。2014年京都産業大学着任、2020年より教授。博士(理学)。