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行動の指針としての経営学

戦略とアントレプレナーシップで広がる可能性

  • 経営学部 准教授 森口 文博 Fumihiro MORIGUCHI

起業志向の学生を支援・育成するコースが、いま多くの大学で設立されている。銀行員、大学職員を経て研究者となった森口文博准教授は、実務と理論を架橋しながら、経営戦略研究とアントレプレナーシップ教育に取り組む。多様な価値観が交錯する時代に、経営学はいかなる「人生の選択肢」を若者に示しうるのか。

経営に戦略は必要か?

——— “戦略”とは何でしょう?

戦略の定義はさまざまですが、私は一言でいうと「打ち手」だと説明しています。企業には「目標」「あるべき将来像」があります。ただ、実際には「人手不足」「知識や経験が足りない」など、理想と現実のギャップが必ず発生します。このギャップを埋めるにはどのような「打ち手」が有効かを、体系的に追究しようとするのが経営戦略論です。

——— なぜ戦略が必要なのでしょう?

明確な戦略がなくても、業界環境に恵まれて成果を出している経営者もいるでしょう。

しかし、競争が激しい業界で継続的に利益を出すには、戦略的思考が不可欠です。経営戦略論では例えば「なぜ利益が出る企業と出ない企業があるのか」という問いに対し、複数の視点から考察します。利益の差が業界の外部環境によるものなのか、業界内でのポジション(立ち位置)によるものなのか。また、同じ事業でも、低価格で勝つ企業もあれば、高付加価値・高価格で選ばれる企業もあります。さらに、同一の事業・ポジションでも、企業の基礎体力の違いによって収益性は大きく変わります。極端な例えとなりますが、新規に参入した自動車メーカーがトヨタ自動車に勝つことが難しいのは明らかでしょう。

また、経営戦略論を考えるうえで、重要なのは「何をやるのか(WHAT)」ではなく、「どのように実行するか(HOW)」です。授業でも研修でも、立てた戦略を現場でどのように落とし込めるのか、その実行可能性の見極めが大切だと強調しています。

アントレプレナーシップが求められる理由

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森口准教授の講義でKMユナイテッド株式会社代表取締役の竹延幸雄氏がゲストスピーカーとして講演(2024年11月21日)

——— そもそもアントレプレナーシップとはどのようなものですか?

「取り組む」「着手する」を表す entrepreneur(仏)に、-ship(英)が付いたもの、「起業家精神」と訳されることが多いです。当初は起業家が果たす経済的役割を示す概念として用いられ、起業家のマインドや能力を指す言葉でしたが、現在では起業に限らず、不確実な状況下で機会を見出し行動する人々の特性やプロセスとしても広く使われるようになりました。

起業家に限らず、全ての人にアントレプレナーシップを身につけていただき、困難や変化に立ち向かい、既存の枠を超えてチャレンジする人が増えるとよいなと思います。

——— 起業を志す学生には社長になって稼いで欲しい?

もちろん、大企業の経営者になりたい、IPO(新規株式公開)したい、企業価値を高めて会社ごと大手に売却して一攫千金を狙いたい、という動機から起業する学生もいます。

ただ、起業はこうした金銭的な価値だけで測れるものではありません。自分や身近な人を幸せにし、生活と仕事を結びつけながら、ほどよく稼ぎたい、という“ライフスタイル起業”は ――ラーメン店にしろ、郊外でのペンション経営にしろ―― 価値観が多様化する中で、たとえ小規模であっても「理想の生き方」を実現する、立派なアントレプレナーシップの形だと私は考えます。

環境問題を解決したい、貧困に苦しむ人々を放っておけない ―― そうした使命感から起業することも、一つの重要な動機です。ウェルビーイング(福祉)とアントレプレナーシップの関連も研究が進んでいて、起業を通じた幸福や生き方の追求が注目されています。

「親の事業を承継する」というケースも増えています。親にとって引退は“出口”ですが、引き継ぐ側にとっては新たな“入口”ですから、いつか事業承継をしたいと考えている学生にも、アントレプレナーシップ教育で身につけた考え方やスキルをぜひ実業に活かしてほしいと思います。

「経営者」と「経営学者」の違い

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2025年2月26日~3月2日に実施された海外渡航プログラムの様子(於:韓国・ビョルマダン図書館)

——— 民間企業から研究者に転身した経緯を教えてください。

大学卒業後は銀行に就職し、融資を担当していました。ある時、有機半導体を使った液晶技術を開発しているベンチャー企業の方から融資相談を受けました。当時の銀行はベンチャーへの融資は「リスクが高い」と敬遠されがちでした。「有機半導体って何?」「儲かるのか?」「貸したお金は返ってくるのか?」と上司から問われ、ベンチャー企業から得たヒアリング内容をもとに返済見込みを説明しながら説得を重ねて、融資承認を取り付けました。

その会社の経営者は心から喜んでくれました。本当に必要とされる資金を提供できたと思いましたが、一方で、「創業間もない企業に対して、銀行でできることには限界がある」とも強く感じました。

その後、私立の学校法人の職員に転職し、知的財産管理と産学連携を担当しました。「大学発ベンチャー」という概念がようやく広まり始めた頃で、研究成果をもとに起業したいという教員からの相談が増えていました。しかし当時は制度が整っておらず、どう進めればよいのか分かりませんでした。中長期的な安定経営を重視する大学側と、短い時間軸での試行錯誤と新規性を求めるベンチャーとの間にある「組織文化の差に起因する衝突」も多くありました。

この状況を何とかしたいと思い、そのヒントを得ようとビジネススクールに進学しました。大学発ベンチャーの支援が主な研究テーマでしたが、大学経営、組織論、戦略論、人的資源管理といった分野の面白さにも触れ、経営学の理論には人の悩みを整理し、行動の指針を与える力があると感じました。そこで博士課程にも進んで、大学発ベンチャーの体系的な支援のあり方について研究しました。このころから研究者になりたいという気持ちが芽生え、職員から教員に転職しました。

——— 自ら経営者になろうと思ったことは?

「経営」と「経営学」は全く別物です。経営学者の役割は企業活動を“観察”し、そこから成功と失敗のパターンを見いだして科学的に分析し、「こうした方がいい」「これは避けた方がいい」といった示唆を社会に広く伝えることにあると考えます。実際に企業の社長になって活躍されている研究者もいるにはいますが、私は銀行員の頃、資金繰りや雇用に奔走する経営者を間近で見てきました。自分はその重圧には耐えられない(笑)。少し距離を置いて経営の実態を見守り、考察する立場のほうが性分に合っていると感じます。

——— 研究者としての自身の強みは?

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『ベンチャー企業のピボット分析—事業転換の戦略的意思決定プロセス』(中央経済社)
(一財)商工総合研究所〈中小企業研究奨励賞〉を受賞した近著

研究は地道な作業の連続ですが、私は、データを集め、整理して分析し、文章にまとめることが楽しいです。分からなかったことが明らかになっていく過程も面白いです。何より、研究の成果を現場に伝えたとき、「なるほど!ほんとそうなんですよ。腹落ちしました」と言ってもらえる瞬間、その対話の時間が嬉しく、自分の研究が誰かに届いていると実感します。

ある会合で「大学発ベンチャー支援の部署に配属されたが、どう進めてよいか分からない」と悩んでいる大学職員の方に話しかけられました。私が書いた論文の内容をかいつまんで説明したところ、「自分が悪いと思って悩んでいたが、組織や制度の構造的な問題だとわかり、胸が軽くなった」と言っていただいたんです。これが私にとっての研究の喜びです。

分からなかったことを解きほぐす楽しさと、現場でそれが役に立つ瞬間を見る嬉しさ。この二つが、研究者としての大きな原動力です。

制作:京都産業大学研究機構研究推進センター
神山Research Profile製作チーム

聞き手:神谷俊郎(URA)
編集:新開絵梨佳

2026/06 ウェブ公開




経営学部 マネジメント学科 准教授

Moriguchi Fumihiro

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社商工組合中央金庫および学校法人常翔学園に勤務。常翔学園在職中に社会人学生として関西学院大学専門職大学院、大阪市立大学大学院に進学し、研究に従事。流通科学大学商学部講師を経て、2024年に京都産業大学経営学部に助教として着任。2026年4月より現職。博士(経営学)。

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