2026.05.21

太陽の「生まれ」が与えたリン元素のボーナス ―太陽に似た星の観測から銀河におけるリン含有量の変化を解明―

松永典之さん(東京大学 大学院理学系研究科助教)ら、京都産業大学 神山宇宙科学研究所の所員も参画する研究グループは、WINERED分光器(注1)を用いた太陽に似た星(太陽類似星)の観測から、銀河の中でリンの含有量の増え方が銀河内の時期と場所によって異なることを明らかにしました。

生命に必須の元素であるリンは、可視光観測では含有量の測定が困難でしたが、本研究では、近赤外線に現れる5本のリン吸収線を用いることで、高精度のリン含有量測定を実現しました。その結果、太陽類似星の年齢とリン含有量との間に明瞭な相関があることを世界で初めて示しました。

太陽類似星の年齢は、単に「いつ生まれたか」を示すだけでなく、「銀河のどこで生まれたか」を反映する手がかりだと考えられています。最近の研究では、太陽が現在の位置よりも銀河の内側寄りで生まれ、長い時間をかけて今の場所まで移動してきたシナリオが示されています。今回の観測結果から、銀河の内側で早い時期に生まれた太陽は、現在の太陽近傍で生まれる太陽類似星と比べて、リンを多く含む環境で誕生したと考えられます。これは、太陽系が銀河の内側で生まれた結果として、生命をはぐくむための材料となるリン元素のボーナスを受け取っていたことを示す成果です。

本研究成果は2026年5月21日(日本時間)に、天文学専門誌『The Astrophysical Journal Supplement Series』に掲載されました(Matsunaga et al. 2026 "High-precision Near-infrared Abundances of Solar Analogs in the YJ Bands")。

研究の詳細は東京大学ウェブページをご覧ください。

図1:本研究の模式図。
46億年前、今ある位置より銀河の内側で太陽が生まれたと考えられています。現在の太陽近傍で最近生まれた星と比べると、太陽のリン含有量が25%高いことが、本研究からわかりました。これは、多くの生命をはぐくむための材料となるリン元素のボーナスといえます。
作図:松永典之

図2:太陽類似星の出生地と年齢・リン含有量の関係。
銀河の内側で生まれて移動してきた年老いた太陽類似星はリンをやや多く含み、太陽の現在位置に近いところで生まれた若い太陽類似星はリンがやや少ないことがわかりました。太陽近傍の太陽類似星を詳しく調べることで、銀河の場所ごとに異なるリンの合成と増加の歴史を読み解くことができます。この図では銀河の中での星の公転運動を無視して、銀河中心からの距離が変化する移動だけを表しています。また、本研究で観測した46個の星は、現在の太陽位置から300光年程度以内(太陽近傍)にあり、図の中では太陽の現在位置を表している白い丸の中に収まっています。
作図:松永典之(ChatGPTを用いて作成)

用語解説

注1:WINERED(ワインレッド)分光器

WINEREDは、京都産業大学神山宇宙科学研究所の研究プロジェクト「赤外線高分散ラボ(Laboratory of Infrared High-resolution Spectroscopy: LiH)」が、東京大学や民間企業との協働により開発した近赤外線高分散分光器です。2012年5月から、京都産業大学 神山天文台の荒木望遠鏡(口径1.3m)に搭載し、エンジニアリング観測およびサイエンス観測を開始しました。観測対象は、太陽系小天体、星間物質、太陽系外惑星、本学創設者である荒木俊馬博士が理論研究を行っていたセファイド型変光星やはくちょう座P星、新星などの質量放出天体まで、多岐にわたります。

これらの成果を踏まえ、現在はラス・カンパナス天文台(チリ共和国)のマゼラン望遠鏡(口径6.5m)へ移設し、「PI持込装置」として神山天文台が管理・運用責任を担いつつ、東京大学、京都産業大学、国立天文台などの研究グループが中心となって、カーネギー天文台(米国)の研究者らと共同でサイエンス観測を実施しています。近年は利用希望者の増加に伴って、割り当てられる望遠鏡時間も年々拡大しています。今後は、本学在学生や研究員を中心に、装置自体のさらなる性能向上と、マゼラン望遠鏡での安定的な観測運用を目指し、研究・開発を進めていきます。

神山宇宙科学研究所では、「神山から宇宙(そら)へ」のスローガンの下、天文宇宙・惑星科学に関する学術研究にとどまらず、国内外の研究機関や民間企業との協働を通じて、宇宙科学の成果を社会へと還元するとともに、「宇宙って面白い」と実感できる教育・研究の場を実現していきます。

研究者コメント

大坪翔悟(京都産業大学 神山天文台 研究員)

「WINERED分光器は、学生やメーカーの方も含む多くのチームで作り上げてきた観測装置です。そんなWINERED分光器が宇宙生命の鍵を握る研究へ貢献することができて大変うれしいです。今後も世界最先端の観測を続け、多くの研究成果に貢献できるよう開発・運用を続けていきます。」

論文情報

雑誌名 The Astrophysical Journal Supplement Series
題名 High-precision Near-infrared Abundances of Solar Analogs in the YJ Bands
著者

Noriyuki Matsunaga*, Takuji Tsujimoto, Daisuke Taniguchi*, Hiroaki Sameshima, Shogo Otsubo, Tomomi Takeuchi, Yuki Sarugaku, Ilaria Petralia, Scarlet Elgueta, Matilde Coello-Guzman, Kei Fukue, Yuji Ikeda*, Hideyo Kawakita, Valentina D’Orazi, Giuseppe Bono

下線:本学所属者

*:本学客員研究員

DOI 10.3847/1538-4365/ae5a9d

本研究は、NINS Astrobiology Center Program Researchの助成(Grant No. AB0717)および公益財団法人 東レ科学振興会の第64回東レ科学技術研究助成を受けて行われました。

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