平和理事会は、「国際機構」か。

2026.02.26

はじめに

2026年1月22日、アメリカのトランプ大統領は、スイス・ダボスで、平和理事会(Board of Peace)の調印式を開催した01。現時点で、28か国が正式に参加しているものの、日本を含め02、多くの国々が、トランプ大統領から同理事会への招待状を受け取りつつも、正式に参加していない03。とはいえ、平和理事会の初会合は、2月19日にワシントンで開催され、そこには正式に参加していない国々もオブザーバーとして参加し04、アラブ諸国など、9か国がガザの復興のため70億ドル超を平和理事会に拠出することが発表された。こうして、平和理事会は現実味を帯びて活動を開始したといえよう。
政治的には、平和理事会の特徴を2点指摘できるだろう。第一に、国連に不満を持つトランプ大統領が、国連に取って代わる組織の設立を意図している点である。実際に、平和理事会のエンブレムは、地球上のすべての大陸を描写する国連のそれとは異なり、北米と南米しか描写しておらず、まさしくアメリカが自らの勢力圏を象徴している05。第二に、現時点で参加している国々は、いずれも、抑圧的・権威的な政権である点である06。こうして、平和理事会は、国連を中心とした普遍的な戦後国際秩序を塗り替えようとするトランプ大統領の意図の制度化といえよう。
では、平和理事会は、国際法上国際機構であるといえるのか。実のところ、以下で論じるように、平和理事会は、国際機構の基本的問題を多くはらんでおり、国際機構とは何かという重要な問題を提起している。

国際機構の定義

条約法条約2条1項(i)は、国際機関を「政府間機関(intergovernmental organization)」と簡単に定義しているものの、国際機構責任条文2条(a)は、「条約又は国際法により規律される文書によって設立され、独自の国際法人格を有するものをいう。国際機構は、その構成員として、国に加えてその他の実体を含むことができる」とより詳細に定義する。
この規定を踏まえ、一般的な理解として、国際機構は、①国際的合意に基づき、②複数の国々によって設立され、③加盟国の意思とは区別される固有の意思を表明する常設の機関を持たなければならない07。ただし、②については、アメリカなど主権国家が平和理事会に参加していることは明らかであるため、①および③について検討する。

平和理事会を設立したのは、安保理決議2803か、それとも平和理事会憲章か?

平和理事会の設立の経緯を見ると、まず、国際機構の設立に必要とされる国際的な合意がどこにあるかが問題となる08。なぜなら、平和理事会憲章(Charter of the Board of Peace)という国際条約が作成されているものの09、国連安保理は、2025年11月17日に採択された決議2803で、平和理事会の設立を歓迎し(welcomes)、また平和理事会参加国および平和理事会に一定の権限を授権している(authorizes)10。つまり、平和理事会を設立する法的根拠としての国際的合意が、安保理決議にあるのか、それとも平和理事会憲章にあるのかが問題となる。
国連やEUのように、有名な国際機構は、おおむね国際条約で設立されることが多い。しかし、このことは、国際機構が、国際条約以外の国際文書で設立される可能性を排除しない。たとえば、ASEANは、今でこそ、2008年に発効したASEAN憲章という国際条約に基づいているものの、1967年にバンコク宣言という政治的な宣言で設立された。また、安保理決議ではないものの、総会決議で設立された国際機構の一つとして、国連工業開発機構(UNIDO)がある。UNIDO設立の経緯として、1965年12月20日に採択された国連総会決議2089 (XX)は、国連内部に、自律的機構(autonomous organization)として、UNIDOを設立することを決定し、その財政や主要機関(principal organ)を定めている11。他方で、当時、UNIDOは、国連総会の補助機関として設立されたことに留意する必要がある。
このような観点からすると、安保理決議2803が、第2項の「国際法人格を有する暫定的統治機構として、平和理事会の設立を歓迎する」という表現から、平和理事会を設立し、第4項で、様々な事項につき同理事会に授権していると理解できよう12。なぜなら、安保理は、決議採択時点で存在しない国際機構に授権できないので、平和理事会は、授権される以前に設置されなければならないはずだからである。この見方に立てば、平和理事会憲章は、「設立する(establish)」という表現を使っていないこともあり、「憲章」という名称にかかわらず、同国際機構内の機関の権限などを定める内部法として扱われることになる。
しかしながら、このような安保理決議2803の解釈には無理がある。第一に、総会決議2089 (XX)は、UNIDOを「設立することを決定する」と直接的な表現を用いているものの、安保理決議2803の「設立を歓迎する」という表現は、将来行われる平和理事会の設立に積極的な意思表明をするのみで、この決議で設立することを意味しないだろう。また、総会決議2089 (XX)に比べて、安保理決議2803はきわめてシンプルであり、平和理事会内の機関など、重要な事項について定めていない。第二に、安保理決議2803は、第4項(B)で、国際法人格を有する運営上の実体、つまり平和理事会を設立することを国々に授権しており13、決議では平和理事会を設立していないと理解できる。安保理が決議採択時点で存在しない国際機構に授権することは法的に困難であるが、将来確実に設立される平和理事会に授権し、授権された国々が平和理事会憲章で実際に設立したと解釈する余地は残されている。つまり、平和理事会は、平和理事会憲章で設立されたという立場もありうるのである。
どちらの理解も法的にありうるとしても、平和理事会が安保理から一定の行動を授権されている点に違いはない。そして、安保理決議2803は、平和理事会への授権を行うと同時に、第2項で「関連する国際法原則に基づいた方法で」平和理事会が設立され、行動することを求めており、「関連する国際法原則」には、自決権や国際人権法、国際人道法が当然に含まれよう。つまり、平和理事会がこうした国際法規範を遵守することは、決議2803で要請されているのである。他方で、同決議第10項に基づき、平和理事会が国際法原則を遵守しているかは、同理事会が安保理に6か月ごとに行う書面での報告のみで確認されることとなり、措置として不十分であるように思われる。
また、平和理事会は、ガザの再建についてのみ活動し、またその活動は2027年12月31日までの暫定的な性質を有するという安保理決議2803での授権の範囲内で行動しなければならない。その意味で、平和理事会憲章において何らガザについての言及がなく、また2027年12月31日までという期限も設けられていないことは、権限踰越であるという主張は成り立つ14

平和理事会は加盟国の意思とは区別される固有の意思を表明する常設の機関を持つか。

次に、国際機構は、固有の意思を表明する常設の機関を持つことが求められる。固有の意思とは、加盟国の意思から区別される国際機構の意思ということを意味する15。したがって、ある政府に完全に依存している組織は、国際機構とは言えない。しかし、実際には、安保理は、拒否権の存在により、常任理事国の意に反する決議を採択できないなど、国際機構での意思決定が、ある加盟国の意思次第ということも国際政治の現実である。つまり、国際機構が、実質的には特定の加盟国の意思に左右されていても、機関における意思決定手続きを定めていれば、機関の独立した意思として十分なのか、それとも、手続があったとしても、特定の加盟国の意思に左右されることは規範的に望ましくないのかは16、議論の分かれるところであろう。
 この点について問題となるのは、平和理事会のほとんどの活動が議長たるトランプ氏の承認(approval)を必要としている点である17。平和理事会憲章3条2(a)にて、トランプ氏は、平和理事会の議長であるとされ、続く(b)では、議長が平和理事会の任務達成のために、補助機関を創設、修正、解散する排他的権限を有する。また、3条1(e)にて、平和理事会の総会ともいえる機関としての平和理事会は、出席しかつ投票する加盟国の多数決で議決するものの、議長の承認を要する。さらに、4条1(a)(b)にて、執行理事会(Executive Board)構成メンバーの選任や退任、再任は議長の裁量であり、4条1(e)で、議決は、多数決で行われるものの議長による拒否権に服するとされる。最後に、7条では、平和理事会で発生する紛争の解決について、議長が、平和理事会憲章の意味、解釈、適用について最終権限(final authority)であるとされる。このようにして、議決や紛争解決が議長の意思に完全に一致して行われることは、平和理事会における正式な手続きである。こうしたトランプ氏の意思への完全な従属が、加盟国から独立した意思を持つ国際機構という本来あるべき姿とは全く相いれない一方で、平和理事会憲章で形式的に定められていることも事実である。

おわりに

以上の検討から、平和理事会は、自らが国際法人格を形式的に有すると規定する(平和理事会憲章6条(a))ものの、そもそも設立の法的根拠がどこにあるのか、加盟国から独立した意思を持つのかは不明であることがわかった。しかしながら、平和理事会が国際機構ではないと簡単に言い切れないこと自体、国際社会における国際機構がいかにあるべきかという根本的な問題を突きつけている。従来の議論は、国際機構を国際社会にとって「良い」ものととらえてきたが18、トランプ大統領は、アメリカの利益にかなわず、自らの意思に反し、予算を無駄遣いする国連の代わりに19、自らの意思が確実に反映される平和理事会を設立しようとしており、まさしく国際機構を用いて国際社会を分断することを意図している。この意味でも、今回の平和理事会の設立は、国際関係における国際機構の役割を改めて考え直させる事件であるといえよう。


  1. メディアにおいては、「平和評議会」という翻訳がなされているものの、下記外務省の報道発表は、「平和理事会」と翻訳されている。
  2. 毎日新聞「米主導のガザ統治機関「平和評議会」から日本に招待状、対応は未定」2026年1月20日。
  3. 朝日新聞デジタル「トランプ氏のガザ平和評議会初会合、参加国1兆円拠出 正統性疑念も」2026年2月20日。
  4. 日本政府からは、大久保武ガザ再建支援担当大使が出席した。外務省「報道発表 大久保武ガザ再建支援担当大使の米国出張(結果)」、2026年2月20日。
  5. The Gurdian, "Davos onlookers notice Trump's 'board of peace' logo resembles UN emblem," 22 January 2026.
  6. The Guardian, "Authoritarians, strongmen and dictators: who is on Trump's Board of Peace?" 19 February 2026.
  7. 岩沢雄司『国際法〔第2版〕』(東京大学出版会、2023年)458-460頁。
  8. Sanmay Moitra, "The Charter of the Board of Peace: A Dubious Legal Personality and a Regressive Peacebuliding Mandate Unbound by Law," Opinio Juris,
  9. The Times of Israel, "Full text: Charter of Trump's Board of Peace," 18 January 2026.
  10. Security Council Resolution 2803, S/RES/2803 (2025), paras. 2, 4.
  11. General Assembly Resolution 2089 (XX) "Establishment of the United Nations Organization for Industrial Development."
  12. シエラレオネの代表は、決議2803採択後の説明において、このような理解に立った発言をしている。S/PV.10046, p. 18.
  13. 中国の代表は、決議2803採択後の説明において、この理解に立ち、平和理事会の詳細がほとんど同決議にて定められていないことを危惧する発言をした。S/PV.10046, p. 17.
  14. "Hoarding the Mandate: The Board of Peace and its Subversion of the UN Security Order,"Opinio Juris, .
  15. Henry G. Schermers and Niels M. Blokker,International Institutional Law, 7th revised edition (Brill, 2025), p. 55.
  16. Orfeas Chasapis Tassinis, A Theory of International Organizations in Public International Law (Cambridge University Press, 2025), p. 206.
  17. Moitra, supra note 8.
  18. Jan Klabbers, "The EJIL Foreword: The Transformation of International Organizations Law," European Journal of International Law, Vol. 26 (2015), p. 29.
  19. アメリカは、支払期限を超過した国連分担金40億ドルのうち、1億6000万ドルを2026年2月12日付で支払ったと報じられている。Aljazeera, "US pays about $160m towards nearly $4bn in UN dues," 20 February 2026.

吉田 曉永 助教
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