むすびプロフェッサー
- 1997年京都大学法学部卒業。2002年同大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程単位取得退学。同年、京都産業大学法学部講師に着任。2007年に准教授に就任し、2013年より現職。「社会保険法」「社会福祉法」の講義を担当している。
今の社会保障制度では、
全ての失業者を支えきれない。
失業した人の生活保障は、社会保障法と労働法の2つの観点から制度が整備されていますが、いまだに保障を受けられない人が多いのが現実。私は先進するドイツと比較しながら、全ての人に公平な法制度を目指し、研究に取り組んでいます。
現在の法律や制度は、
市民の生活との間にかい離がある。
公平性を実現するには、制度間の連携が必要。
皆さんのほとんどは、大学卒業後に就職し、働き始めると思いますが、どのような働き方、生き方をしたいかというイメージまで持っている人は少ないのではないでしょうか。近年では仕事とプライベートのバランスをとり、人生を充実させる「ワークライフバランス」という考え方が一般的になっており、特に女性の社会進出を支える動きが盛んになっています。しかし、法律や制度が追いついておらず、不利益を被っている人がいることも事実。私は、誰にとっても公平な世の中にするには、どのような法律や制度が必要かということに関心を持ち、社会保障法と労働法を専門に研究を行っています。2つの法律は密接に関わっており、例えば女性が育児のために仕事を辞め、子育てが一段落してから再就職した場合、退職後は社会保障法によって、再就職後は労働法によって生活が保障されることになります。市民目線ではひと続きの出来事なのに、2つの法律が関わっている。制度間の連携がないために保障が不十分になることも。これに疑問を感じ公平な法律のあり方を研究しています。
日本で適用された新しい種類の法制度。
今後の可能性に注目し、
法律改正に向けた提言へ。
最近特に関心をもっているのは、女性の活躍推進に関する法律。日本では「女性活躍推進法」が制定され、企業ごとに女性管理職の比率の目標値とそこに至るまでの計画を提出させ、目標達成に向けた努力を促しています。一方、私が比較対象にしているドイツでは、大手企業の経営層の30%を女性にすることを義務化。目標値を設定するだけでは変化がなかったので、義務化に踏み切りました。どちらがいいかはまだわかりませんが、法学的な観点からは企業に何かを義務付けるのではなく、目標の設定と実行を促すという手法は新しく、その効果が注目されています。理由は、もし有用であれば、さまざまな分野への応用が期待されるからです。私は現在、「女性活躍推進法」の効果はもちろん、過剰な影響が出ないかについて調べており、今後の動向を追跡しながら慎重に結果を判断していきたいと考えています。将来的には研究の成果を論文にまとめ、女性の活躍を促すためのよりよい法律の提言をすることが目標。女性だけでなく、介護を担う人や障害者が不利益を被らずに、誰もが公平に生きていける法の整備に貢献できるよう、力を尽くしたいと思います。
学生に深く考える力を磨いてもらうため、
ゼミでは徹底して理由を問い続ける。
先程、法律の効果が過剰にならないかを判断するというお話をしましたが、この判断は実は非常に難しいです。私のゼミナールでは障害者雇用を促進するにはどうすればいいかを学生に考えてもらっていますが、一昔前であれば、企業は障害を理由に採用を断っても、差別とは考えられませんでした。適切な判断は、時代によって変わっていくため、裁判の判例などを参考に、今の状況に即した判断が求められます。
学生にはこのような背景も伝えながら、毎回設定したテーマについて調査・発表した後に、ディスカッションしてもらっています。その際、私はいつも「なぜそう考えたの?」と徹底して彼らに理由を尋ねます。深く考える力を伸ばしてもらい、将来課題解決ができる人になってほしいからです。