理学部 宇宙物理・気象学科の西道 啓博 准教授が研究開発分担者として参画する研究課題「巨大マルチモーダルデータによる宇宙科学基盤モデル」が、科学技術振興機構(JST)の2026年度「AI for Science革新的研究推進事業(ARiSE)」の「国際・融合型」に採択されました。採択結果は2026年9月29日に発表されました。
本研究は、東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構の吉田 直紀 特任教授を研究開発代表者、NTT株式会社 NTTコミュニケーション科学基礎研究所の木村 昭悟 主席研究員を共同研究開発代表者とし、本学を含む大学・研究機関・企業の連携により進めるものです。膨大な宇宙観測データと人工知能(AI)を組み合わせ、未知の天体や現象の発見から、その背景にある物理法則の理解までを支える新しい研究基盤の構築を目指します。
研究の背景とねらい
宇宙には、まだ正体のわかっていない物質「ダークマター」や、宇宙の加速膨張に関わる「ダークエネルギー」など、多くの謎が残されています。すばる望遠鏡をはじめとする大型望遠鏡や宇宙望遠鏡は、こうした謎に迫るために、広い範囲の宇宙を詳しく観測しています。一方で、日々蓄積される大量のデータを研究者が一つひとつ調べ、重要な発見につなげることは難しくなっています。
本研究では、天体の画像、光を波長ごとに分けた分光データ、明るさの時間変化、さらに研究論文の情報を組み合わせて学習する「宇宙科学基盤モデル」を開発します。このように種類の異なる情報を一緒に扱うことを「マルチモーダル」と呼びます。基盤モデルは、学習した知識をさまざまな分析に活用できるAIの土台となるものです。
さらに、この基盤モデルを活用し、珍しい天体や未知の現象の候補を見つける「発見エージェント」、観測と理論を比較する「統計エージェント」、追加観測の計画を支援する「観測エージェント」を開発します。エージェントとは、目的に応じて情報を集め、分析や判断を進めるAIシステムです。これらが連携することで、データの中に埋もれた発見の手がかりを拾い上げ、その意味を解き明かす研究を加速します。
本学が担う研究

図1.宇宙の構造と時間変化を一体として捉える研究構想。異なる条件から生まれる宇宙の歴史と、多様な観測データをAIで結びつけ、観測を一貫して説明できる宇宙の姿を探ります。
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西道准教授は、宇宙の大規模シミュレーションと多様な観測データをAIで結びつけ、宇宙の成り立ちを探る新たな研究の枠組みづくりに取り組みます。スーパーコンピュータ「富岳」を用い、慶應義塾大学と協力して宇宙の進化を再現する大規模なシミュレーションデータベースを構築します。さらに、NTTや千葉大学と連携し、物理法則と観測の両方を手がかりに、宇宙の姿を推論するための研究基盤を開発します。
銀河は、網の目のような「宇宙の大規模構造」を形づくっています。この構造がどのように育ってきたのかを読み解くことは、宇宙の膨張の歴史や、ダークマター、ダークエネルギーの性質を知る手がかりになります。また、遠くの宇宙を観測することは、光が届くまでの時間をさかのぼり、過去の宇宙を見ることでもあります。異なる距離や波長で得られた観測を組み合わせることで、宇宙の歴史をさまざまな側面から探ることができます。
本研究が目指すのは、空間の広がりと時間の流れを合わせた「四次元の宇宙」を一体として捉える、新しいAIの枠組みです。宇宙の構造と時間変化を表す「ワールドモデル」の構想のもと、さまざまな条件で生まれる宇宙の歴史をシミュレーションで探り、多様な観測を一貫して説明できる姿を導くことに挑みます。こうした取り組みを通じて、宇宙がどのように始まり、現在の姿へと進化してきたのか、その背後にある物理法則の解明につなげます。
今後の展望
宇宙科学とAI、統計学、大規模計算の研究者がそれぞれの専門性を持ち寄り、観測データを新たな科学的知見へとつなげる研究を進めます。西道准教授らが培ってきたシミュレーションと機械学習の技術を基盤に、本学からも、AIを活用した宇宙研究の発展と、分野を横断して活躍する若手研究者の育成に貢献していきます。
採択課題の概要
事業名:AI for Science革新的研究推進事業(ARiSE)
研究タイプ:国際・融合型
研究開発課題名:巨大マルチモーダルデータによる宇宙科学基盤モデル
研究開発代表者:吉田 直紀(東京大学)
共同研究開発代表者:木村 昭悟(NTT株式会社)
本学の研究開発分担者:西道 啓博(理学部 宇宙物理・気象学科 准教授)
研究期間:2026年10月~2029年3月(2年6か月、予定)
関連Webページ
JST 採択発表:https://www.jst.go.jp/pr/info/info1875/index.html
西道啓博准教授:https://www.kyoto-su.ac.jp/professors/sc/sc-um/nishimichi_takahiro.html