2026.07.10

理学部物理科学科 秩序と無秩序の境目でゆらぐ量子の研究―2次元反強磁性量子臨界点の交番磁化率について研究成果を発表しました

理学部物理科学科の伊藤豊教授は、2次元反強磁性量子臨界点のゼロ点ゆらぎを含むスピンゆらぎに関する自己無撞着繰り込み方程式の漸近解と数値計算された交番磁化率(反強磁性スピン磁化率)について研究することで、その温度変化がモード間結合定数の強さに応じて分類可能であることを発見しました。この研究成果は、オープンアクセスジャーナルMagnetismの本論文として出版されました。

掲載論文

題目 : Staggered Spin Susceptibility at a Two-Dimensional Antiferromagnetic Quantum Critical Point 
著者 : Y. Itoh 
掲載誌: Magnetism 2026, 6, 22 [doi.org/10.3390/magnetism6030022]
URL : https://www.mdpi.com/2673-8724/6/3/22

研究概要

物質のさまざまな機能は、そこに含まれる電子がたくさん集まることで発生する創発現象とみなされています。熱平衡状態にあっても、物質の中のさまざまな自由度は実はゆらゆらと揺らいでいるとみなされ、ミクロな測定手段によって、その揺らぎの観察がおこなわれます。電子には、磁気の起源であるスピンと電気の起源である電荷、そして原子の周りをまわる軌道の3つの自由度があり、その役割が注目されています。今回の研究は、その中でも、磁性の主役である電子スピンです。

スピンゆらぎのモード間結合は、スピンゆらぎの非線形効果を表します。この非線形効果を有限温度で自己無撞着に取り入れてスピンの相関関数を求める理論が、自己無撞着繰り込み理論、SCR理論(self-consistent renormalization theory)です。特に、2次元反強磁性スピンゆらぎについては、ゼロ点揺らぎと熱ゆらぎの効果が特異的なため、その効果について注意深い研究が続けられています。実験的には、銅酸化物高温超伝導体の異常な常伝導状態を説明する有力な考え方として発展し、その後に続いて発見された層状化合物超伝導体の電子物性の理論としても活用されています。

今回、2次元のSCR方程式の漸近解と数値的に解かれた反強磁性スピン磁化率χ(Q)の関数形の詳細な検討から、その温度変化がモード間結合定数の関数として分類できることを発見しました。弱結合の場合には、ゼロ点ゆらぎの効果は抑えられて熱ゆらぎによるキュリー則が現れ、強結合の場合には、ゼロ点ゆらぎと熱ゆらぎの競合からキュリーワイス則が現れることを見出しました。この分類法を既存の電気伝導性層状化合物に当てはめることで、現実の物質にも適用可能であることを示しました(図1参照)。

図1: 交番磁化率の逆数yを還元温度tに対してプロットした図。実線が数値計算の結果。白丸、黒丸、白三角は、それぞれ銅酸化物超伝導体La2-xSrxCuO4 (x = 0.04), 鉄系超伝導体Ba0.5Sr0.5Fe2(As1-xPx)2 (x~0.4)、遍歴反強磁性体Cr1-xMoxB2 (x = 0.15)のNMRの核スピン格子緩和時間T1の実験値から求められたyをプロットしたもの。y1はモード間結合定数の強さを示す。

用語解説

量子臨界点 … 秩序と無秩序の境目にある絶対零度における相転移点のことで、粒子間の相互作用と量子ゆらぎの競い合いで生じ、大きさゼロの秩序状態、揃っていて且つ揃っていない状態、秩序の発生し始める芽のような物質の空間のこと。下図は、相互作用とゆらぎの差を表すパラメーターxを横軸に対して、秩序の大きさを表すパラメーター(実線)と普通のフェルミ液体状態に移り行くクロスオーバー温度(点線)を縦軸にプロットした概念図。実線と点線がゼロになって交わる点、移り変わりの境目が量子臨界点である。

交番磁化率 … 時間変化する電子のスピンS(t)について、その熱平衡値 <S>との差

δS(t) = S(t) - <S>

を使いスピンゆらぎの度合いを表す相関関数 <δS(t)δS(0)> が定義できるとき、そのフーリエ変換が一般化磁化率χ(q)であり、一つ置きに並ぶ配列の分極の度合いが交番磁化率χ(Q)である。

参考