理学部物理科学科の岩下靖孝教授らを含む研究グループは、粘弾性流体中を自ら泳ぐ微粒子の運動を調べ、その運動様式が流体の性質によって大きく変化することを明らかにしました。この研究成果は、アメリカ物理学会が発行する国際学術誌 Physical Review E に掲載されました。
掲載論文
研究概要
水のような液体は力を加えるとすぐに流れますが、シャンプーやゼリー、生体内の粘液のような液体は「流れやすさ」と「弾性」をあわせ持っています。このような液体は「粘弾性流体」と呼ばれます。自然界では、細菌やプランクトン、精子などの微生物は単なる水の中ではなく、このような粘弾性流体の中を移動していることが少なくありません。そのため、粘弾性流体が微小な生物や人工マイクロロボットの運動にどのような影響を与えるかを理解することは重要な課題となっています。
本研究では、直径約5マイクロメートルのJanus(ヤヌス)粒子を用いました。Janus粒子とは、粒子の表面が異なる性質を持つ二つの領域からなる微粒子です。本研究で用いた粒子は半分が金属、半分が絶縁体でできており、交流電場を加えることで自ら泳ぐように移動します。この粒子を高分子(ポリエチレンオキシド)を溶かした粘弾性流体中で運動させ、その速度を幅広く制御しながら観察しました。すると、粒子の速度が遅いときにはランダムな方向転換をしながら直進する通常の運動を示しますが、速度がある値を超えると、その場で円を描くように回転運動を続けました。さらに解析したところ、この運動の切り替わりは、粒子が周囲の高分子ネットワークを変形させる時間と、高分子が元の状態へ戻ろうとする時間との競合によって決まることが分かりました。高分子の応答が粒子の運動に追いつかなくなると、粒子は自ら回転し始めるのです。
研究グループは、この運動モードの切り替わりが「Weissenberg(ワイセンベルグ)数」と呼ばれる無次元数によって統一的に記述できることを示しました。これは異なる濃度の高分子溶液でも共通に成り立つ普遍的な法則です。

粘弾性流体中で運動するJanus粒子の模式図と円運動の軌跡
微生物の多くは、粘液や生体高分子を含む粘弾性環境の中で活動しています。本研究は、そのような環境が微小な遊泳体の運動をどのように変化させるのかを理解するための基礎的な知見を提供するものです。また近年注目されているマイクロロボットや薬剤運搬用の微粒子は、将来的に体内の複雑な流体環境で利用されることが期待されています。本研究で得られた知見は、そのような微小機械の設計や制御にも役立つ可能性があります。
本研究は、「粒子そのもの」だけでなく「周囲の環境」が運動を決定する重要な要素であることを示しており、アクティブマター研究の発展にも貢献する成果でもあります。
参考
- 京都産業大学 教員紹介ページ:岩下 靖孝 教授