2026.06.03

理学部 物理科学科の岩下 靖孝 教授が「自ら動く微粒子」の新しい運動現象を発見し、国際学術誌に論文を出版しました

理学部 物理科学科の岩下 靖孝 教授と九州大学の木村 康之 教授は、自らエネルギーを利用して運動する「自己駆動粒子」の新しい運動現象を発見しました。この研究成果は、アメリカ物理学会が発行する国際学術誌 Physical Review E に掲載されました。

掲載論文
著者  Yasutaka Iwashita, Yasuyuki Kimura
題目  Shape-induced translational mode transition and self-entrapment of self-propelled metallodielectric rods
掲載誌  Physical Review E 113, L053404 (2026) 
DOI  10.1103/gvfd-czt4
URL  https://journals.aps.org/pre/abstract/10.1103/gvfd-czt4
研究概要

近年、「アクティブマター(Active Matter)」と呼ばれる研究分野が注目されています。アクティブマターとは、自らエネルギーを消費して運動する粒子や生物の集団を扱う研究分野で、細菌の群れや細胞の運動、将来のマイクロロボットなどにも関係しています。本研究では、長い棒状微粒子の一面だけを金属で覆った「Janus(ヤヌス)粒子」を作製し、その運動を詳しく調べました。この粒子に交流電場を加えると、自ら一定方向へ泳ぐように移動します。実験の結果、このような長い粒子は、これまで知られていなかった特徴的な運動を示すことを発見しました。

第一に、印加する電圧を変えると、粒子の移動状態が突然切り替わることが分かりました。低い電圧では粒子は横倒しの状態で移動しますが、ある電圧を超えると突然立ち上がり、移動速度も大きく変化します。さらに、電圧を下げてもすぐには元に戻らず、異なる電圧で再び切り替わる「ヒステリシス」と呼ばれる現象も確認されました。

第二に、細長い粒子が小さな障害物に衝突すると、その障害物の周囲から抜け出せなくなる現象を発見しました。これは外部から閉じ込められているのではなく、粒子自身の推進力によって自ら捕まった状態になるため、「自己閉じ込め(self-entrapment)」と呼ぶことができます。
さらに興味深いことに、閉じ込められた粒子は静止するのではなく、振り子のように周期的な揺れを続ける「自励振動」を示しました。この振動は外部から周期的な力を与えているわけではなく、粒子自身の運動によって維持されます。

一般に、微小な粒子の運動は、粒子表面の性質によって変化することが知られています。しかし本研究は、「粒子の形」が運動様式そのものを大きく変化させることを明確に示しました。特に、粒子の向きが突然変化する運動モード転移、自ら障害物に捕まる自己閉じ込め現象、そして自励振動という一連の現象は、細長い形状によって初めて現れる特徴です。
今回の成果は、アクティブマターの基礎物理的な理解を深めるだけでなく、将来的には微小ロボットによる物質輸送やマイクロ流体デバイスの設計などへの応用も期待されます。

自己駆動する棒状Janus粒子の模式図および障害物周辺での自己閉じ込め現象

参考