本学大学院 理学研究科物理学専攻の奥野 将さん、髙田 和篤さんが2025年5月25日から幕張メッセで行われた日本地球惑星科学連合(JpGU)2025年大会に参加しました。JpGUは国内学会とはいえ、大半のセッションが英語で行われます。前期課程2年次生の奥野さんは、得意の英語を生かして英語セッションで口頭発表を行いました。髙田さんは前期課程1年次生でありながら、招待講演となりました。本学大学院の研究支援制度により、渡航費用や参加費の支援を受けました。*1
概要
名称:日本地球惑星科学連合2025年大会
場所:幕張メッセ国際会議場
期間:2025.05.25-2025.05.30
発表1
[PPS09-15]
Study of local winds over large-scale slopes at low latitude on Mars
Sho Okuno, Kazunori Ogohara
マリネリス峡谷(図1)は長さ約4000km、深いところで深さ7 kmにもなる火星の大峡谷です。グランドキャニオンを長さも深さも幅もすべて10倍した程度だと考えればわかりやすいです。 アラブ首長国連邦(UAE)の火星探査機HOPEに搭載されたEmirates eXploration Imager (EXI)によって観測された火星のマリネリス峡谷の可視光画像を精査すると、マリネリス峡谷南西側で発生する砂嵐(ダストストーム)は季節によって頻発する地方時が異なることがわかりました。ある季節は午前に、ある季節は午後に、というように、発生しやすい時刻が異なっていたのです。この研究は、マリネリス峡谷南西側が大局的には緩やかな斜面であることに注目して、簡単なモデルを用いて大規模で緩やかな斜面上における斜面風の極大時刻を調査しました。その結果、斜度によっては日の出後の午前中に下降斜面風の極大になり得ることを発見しました。つまり、この地域のダストストームの発生が斜面風によって説明できることを示唆しています。
マリネリス峡谷とソリス平原付近の地形図.図上部の峡谷がマリネリス峡谷
発表2(招待講演)
[MTT39-06] Infrasonic waves from Martian dust devils seen in atmospheric pressure fluctuations
Kazuma Takada, Kazunori Ogohara
NASAの火星探査機InSightには高精度の気圧計が搭載されています。この気圧計によって、いままで多数の対流渦が観測されています。ここで言う対流渦とは、学校の運動場に時折現れる砂埃を纏ったつむじ風(ダストデビル)のことです。つむじ風は低気圧なので、それがInSightを直撃すれば気圧が下がります。同時に、ダストデビルは密度変化を伴うので、そこから音波が放射されます。この音波は、いわゆる可聴域の音ではなく、人間の耳には聞こえない低周波音波と呼ばれる波動です。InSightに搭載された気圧計でダストデビルが検出されれば、それ以前の段階では、そのダストデビルは遠方にあってInSightに向かって移動しているのです。ダストデビルは低周波音波を出しながら近づいてくるのですから、ダストデビルがInSightを直撃する前にその音波は気圧計で観測されるはずです。すなわち、ダストデビルが出す低周波音波のシグナルを気圧計で感知できれば、緊急地震速報のように事前にダストデビルの接近に備えることできるようになるのです。この研究は、ダストデビルが観測された時と観測されなかった時の気圧データを比較して、どんな周波数のシグナルに注目すればよいか検討しました。その結果、0.1 Hz付近の低周波音波がダストデビルから放出されている可能性が示唆されました。
*1 大学院生による国内外での学会に出席する機会や論文誌への投稿の機会を増やすことにより、大学院生の教育研究の活性化および充実を図る制度です。国内外で開催される学会に出席する際に要した旅費等、論文誌(査読付き)への掲載費および図書館資料費について、一人当たり年間25万円を上限として支援を受けられます。