なぜ「台湾」と呼ぶのか――呼称から読み解く国際関係

2026.06.23

台湾とは?

台湾は日本からの旅行先として人気が高く、修学旅行で訪れたことのある人も少なくないだろう。書店には、「台湾」と題したガイドブックが並び、その名称は私たちにとってごく自然なものとなっている。しかし、あらためて考えてみると、「台湾」とは、「国名」ではない。一般的に、「台湾島」を中心とした地域を指す名称として用いられているが、実はその定義は必ずしも明確に決まってはいない。いわゆる「台湾」が指す領域では、正式には「中華民国」が国号として用いられているが、その国号の使用を避けて「台湾」が選択されているのが実情である。

その背景には、国際政治における台湾の立場の特異性がある。世界のニュース報道や国際的なスポーツの大会において、「台湾」がどのように呼称されているか、また台湾の指導者がどのように表現されているかを見てみると、国際社会の力学や各国の対中関係が透けて見えてくる。

国際社会における曖昧な位置づけ

台湾の国際社会における地位は、極めて独特である。現在の台湾にある政府は、もとをたどれば1949年に国共内戦に敗れた中国国民党が台湾に移転した政府を起源としている。その歴史的経緯から「中華民国」という国号が引き続き用いられており、その政府首脳は「中華民国総統」と称される。

しかし、国際社会の中で、「中華民国」を国家として認める国は、2026年6月現在わずか12カ国しかない。世界の200近い国の多くは、国共内戦に勝利した中国共産党が建国した中華人民共和国を唯一の「中国」として国家承認しており、「中華民国」を国家とみなしていないのである。

双方を国家として承認することができない背景には、正統性を持つ「中国」は一つのみで、中国と台湾を含む領域すべてを一つの国家が統治するべきとする、「一つの中国」原則がある。この原則に基づけば、中華人民共和国を国家として承認すれば、必然的に「中華民国」を国家と見なして外交関係を結ぶことはできなくなる。

しかし、実態としては、「中華民国政府」が実効支配する領域は存在しており、その領域と外交関係はなくとも実務関係を築きたい各国は、代替として地理的な呼称である「台湾」を用いることとなったのである。こうして、1949年以来中華人民共和国が実効支配する中国大陸に広がる領域と区別し、「中華民国政府」が実効支配する領域を「台湾」と呼称する状態が続いている。各国は中国との関係を維持しながら台湾とも実務関係を築く必要があり、そのバランスの中でのやむを得ない選択であったといえるだろう。

呼称に現れる外交姿勢

日本のメディアでは「台湾」という名称を用い、その指導者を「総統」と表記することが一般的である。たとえばNHKなどでは、頼清徳氏は「台湾の頼清徳総統」として紹介される。この呼び方は台湾の実効的な統治主体としての現実を反映している。アメリカのCNNやイギリスのBBCでも"Taiwan"が用いられ、頼清徳氏は" Taiwan's President Lai Ching-te"と表記される。日本、アメリカ、イギリスはいずれも中国を国家承認しており、台湾とは外交関係はないが、同じ民主主義をとる台湾との間の実務的な関係を維持することは重要であり、台湾側が使用する呼称をそのまま使用していると見ることができる。

ちなみに「総統」は中国語では「大統領」の意味であるから(例えば「アメリカ大統領」は「美国総統」と表記される)、日本語でも本来ならば「大統領」と翻訳するのが妥当であるが、中華民国の指導者には「総統」を用い続けている。もしあえてこの呼称を「大統領」と変更すると、国家元首としての位置づけがより明確になるため、政治的配慮によりあえて「総統」のままとなっているとも考えられる。

一方、中華人民共和国(以下中国)政府は、台湾を中国の「台湾省」とみなしているが、実態は統治が及んでいない。そのため、現状の台湾を指す際には、「台湾地区」などの呼称を用いる。台湾の指導者に対しても「総統」とは呼ばず、たとえば「台湾地区領導人〔指導者〕頼清徳」といった言い方を採る。これは、台湾の主権国家としての地位を否定する政治的立場を明確に反映している。

スポーツにおける「チャイニーズ・タイペイ」

さらに興味深いのは、オリンピックなどの国際スポーツ大会における呼称である。国際的な大会においては、中国と台湾の選手が同じ場に登場することになる。このような場合に使用されるのが、台湾代表に用いられる「チャイニーズ・タイペイ(Chinese Taipei)」という名称である。この名称は国際オリンピック委員会(IOC)との交渉の結果、1980年代から使用されているもので、「台湾」や「中華民国」という名称は使用できない。中華民国の国旗や国歌の使用も制限され、専用の旗と歌が用いられる。政治的対立を回避しつつ、参加を可能にするための妥協としての措置である。また、この「チャイニーズ・タイペイ(Chinese Taipei)」の漢字表記には二種類あり、台湾では「中華台北」と訳されるが、中国では「中国台北」と訳される。たった1文字の違いだが、台湾が中国の一部とみなされないようにするかしないかという、台湾と中国との間のせめぎあいをここに見ることができる。

呼び名が映し出す国際関係

近年は台湾海峡をめぐる緊張の高まりを背景に、「台湾」という言葉そのものが政治的意味を帯びる場面も増えている。各国の公式文書や議会声明においても、どの表現を用いるかが議論の対象となることがある。台湾海峡を挟んで向き合う中国(大陸)と台湾(島)の関係を指す言葉として、あえて中国も台湾も用いず、「両岸問題」という用語が使われることもある。

結局のところ、台湾の呼称や総統の呼び方は、その国・組織がどのような対中政策を採っているかを映し出す鏡である。ニュースやスポーツ報道を読み解く際にこれらの違いに注目することで、表面的な情報の背後にある国際関係の力学を理解する手がかりとなるだろう。

夕暮れの台湾総統府 (2023年撮影)

須藤 瑞代 准教授
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中国近現代史、東アジア国際関係論